幕間① 「放課後のきっかけ」
―幕間 「放課後のきっかけ」
放課後。
体育館の奥から、鈍い音が響く。
桐谷夕花は息を整えながら、額の汗を拭った。
「今日ここまで!」
顧問の声が飛ぶ。
「ありがとうございました!」
一斉に声を合わせて礼をする。
ようやく練習が終わった。
「は〜……疲れたぁ」
夕花はその場に座り込みそうになりながら笑う。
きつい。
でも嫌いじゃない。
むしろ、好きだ。
ちゃんと頑張った分だけ、前に進めるから。
荷物を持って体育館を出た時だった。
「あ」
廊下の向こうに見覚えのある姿が見えた。
星宮透真だった。
窓際に立って、空を見ている。
春の夕方。
オレンジ色の光が横顔を照らしていた。
夕花は何となく足を止める。
すると透真がこちらに気付いた。
「あ、桐谷さん!」
ぱっと顔が明るくなる。
「今終わったの?」
「うん」
「さっき見た!」
「へ?」
「体育館の前通った時!
なんか投げられてた!」
「雑すぎるでしょ説明」
夕花が吹き出す。
透真は少し困ったように笑った。
「でも、すごかった」
「……え」
「めっちゃかっこよかった!!」
その声は、驚くくらい真っ直ぐだった。
変に気を遣ってる感じもない。
ただ、本当にそう思ったから言っただけ。
そんな顔。
夕花は少しだけ言葉に詰まる。
「……まあ、
毎日練習してるし」
「うん。でもちゃんと努力してる人ってすごいよ」
さらっと言う。
そのくせ本人は、
自分がどれだけ破壊力あること言ってるか全然わかってない。
夕花はなんだか急に落ち着かなくなって、視線を逸らした。
「……ありがと」
「うん!」
透真は嬉しそうに笑った。
その時。
「星宮くん」
柔らかい声がした。
振り返ると、白雪紬が立っていた。
「あ、白雪さん」
「もう部活?」
「あ、そうだ!行かないと!」
透真はそう言って、また窓の外を見る。
夕焼けと、少しずつ濃くなる青空。
「今日、星見えると思うんだよね」
その声が少し楽しそうで。
紬は静かに透真を見る。
空を見上げる横顔。
風に揺れる黒髪。
光の中で細められた目。
その顔は、
誰かと話して笑ってる時とは少し違った。
静かで。
遠くを見るみたいで。
でも、とても綺麗だった。
「……」
気付けば、目で追っていた。
「じゃ、俺行くね!」
透真は手を振って、そのまま廊下を駆けていく。
夕花はその背中を見送りながら、小さく笑った。
「ほんと不思議な子」
「……うん」
紬はまだ、透真がいた窓の方を見ていた。
空を見てるだけなのに。
どうしてあんな顔をするんだろう。
それから数日。
昼休み。
「え、紬も?」
夕花が目を丸くする。
紬は少しだけ困ったように笑った。
「……ちょっと気になって」
「天文部?」
「うん」
夕花は少しだけ吹き出した。
「実は私もなんだよね」
「え?」
「なんかさ」
夕花は頬をかきながら、小さく笑う。
「星宮くん、
星の話してる時めっちゃ楽しそうじゃん?」
その言葉に。
紬は静かに頷いた。
「……わかる」
放課後。
二人は並んで廊下を歩く。
窓の外には、少しずつ青くなる空。
階段を上がった先にある、小さな部室。
その扉の向こうにいる人を思い浮かべながら。
二人は、少しだけ足を速めた。
読んでいただきありがとうございます!
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今回は1章ではまだ入部していない他のメンバーの入部きっかけの話。
クラスには馴染めないと言っている透真ですが、
あくまで本人談で、実際は思ったことを素直に伝えて褒めて相手の懐に入るのがとても上手い子です(笑)
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毎日12時か21時に投稿予定です५✍⋆*
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