【第1章】 第5話 「“ここにいたい”と思う」
―第5話 「“ここにいたい”と思う」
観測会が終わった頃には、空はすっかり深い夜色になっていた。
機材を片付けながら、透真は何度も空を振り返ってしまう。
星は相変わらず綺麗だった。
でも。
今日はそれだけじゃない。
「透真、それケース持てる?」
「あ、はい」
和希から渡された機材ケースを抱えながら、透真は小さく息を吐いた。
なんだろう。
胸の奥が、少しふわふわしている。
屋上から部室へ戻る途中も、みんなは普通に話していた。
裕翔が薫に絡んで、薫が嫌そうな顔をして。
和希が「静かにね〜」と注意して。
昴は少し後ろを歩きながら、時々透真を見ていた。
その空気が、不思議と心地よかった。
部室に戻ると、透真は借りていた星図を机に置いた。
「ありがとうございました」
「もう帰る?」
和希が聞く。
透真は少し迷ってから頷いた。
「明日もあるので……」
「真面目」
薫がぼそっと言う。
「薫くんも帰るでしょ」
「くん付けやめろ」
「え、ごめん」
「いや別に怒ってねえし」
その会話に、裕翔が吹き出した。
「もう名前呼びになってんじゃん」
「……うるさい」
薫が顔をしかめる。
でも少しだけ空気が柔らかかった。
透真はそのやり取りを見ながら、小さく笑う。
すると、不意に昴が近づいてきた。
「透真」
「はい?」
「入部届」
「……え?」
差し出された紙を見て、透真は目を瞬かせる。
そこには『天文部 入部届』と書かれていた。
「まだ正式に入ってなかったから」
昴は静かな声で言う。
「どうする?」
その問いに。
透真は紙を見つめたまま、少し黙り込む。
入学して、まだ数日。
クラスにはまだ馴染みきれていない。
大人数で騒ぐのは得意じゃないし、話しかけるタイミングもわからない。
でも。
この部室は違った。
好きなものを話しても笑われなかった。
むしろみんな、ちゃんと聞いてくれた。
星を見て綺麗だと思う時間を、一緒に共有できた。
それが嬉しかった。
透真はそっと顔を上げる。
部室のみんなが、自然とこちらを見ていた。
和希は優しく笑っている。
薫は興味なさそうにしてるのに、ちゃんと待ってる。
昴は静かに透真を見ていた。
そして裕翔は、
どこか当然みたいな顔をしている。
「……入ります」
透真がそう言うと、和希がぱっと笑った。
「やった」
「歓迎する」
昴も小さく頷く。
その時。
「じゃ、俺も入るわ」
さらっと言ったのは裕翔だった。
「……え?」
透真が目を丸くする。
「いや、お前いるなら楽しそうだし」
「サッカー部は?」
「辞めない。掛け持ち」
裕翔はあっさり答える。
「観測会の日だけ来る感じかな」
「軽っ」
薫が呆れた声を出す。
「まあ裕翔らしいけど」
和希が笑った。
透真は少しだけ困ったように裕翔を見る。
「別に無理しなくていいのに」
「してないって」
裕翔は笑いながら、透真の頭を軽く撫でた。
「っ、子ども扱いするなって」
「嬉しそうな顔してる」
「してない」
「してる」
即答される。
透真は少しだけむっとしながら、入部届を書く。
自分の名前を書いた瞬間。
不思議と胸が落ち着いた。
ここなら。
この場所なら。
ちゃんと息ができる気がする。
星を見るのは、ずっと好きだった。
一人で見る星も綺麗だった。
でも。
みんなと見る星は、もっと綺麗だと思った。
窓の外には、春の夜空。
透真は小さく目を細める。
──ここにいたい。
そう思った。
読んでいただきありがとうございます!
ー
自分が居たいと思う場所を見つけた透真
今まで1人で星を見ていた彼がこれからたくさんの人を巻き込んでいきます。
ー
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