【第10章】第7話「イルミネーション」
中央公園へ足を踏み入れた瞬間、透真は思わず立ち止まった。
「わあ……」
目の前いっぱいに光が広がっている。
木々を彩る無数のイルミネーション。
噴水の周囲を囲む光のアーチ。
足元まで続く柔らかな灯り。
冬の夜をそのまま閉じ込めたような景色だった。
☆
「綺麗……」
紬が小さく呟く。
夕花も目を輝かせながら周囲を見回していた。
「去年も思ったけどすごいね」
「毎年こんな感じなんですか?」
琉衣が聞く。
「うん」
透真は嬉しそうに頷いた。
「でも今年もすごく綺麗だ」
その声は本当に楽しそうだった。
イルミネーションを見ている時も。
みんなと歩いている時も。
透真はずっと笑っている。
琉衣はそんな横顔を見ながら思う。
やっぱり好きだな、と。
公園の奥へ進むと、人も少しずつ増えていく。
家族連れ。
友達同士。
恋人たち。
みんな楽しそうだった。
「透真先輩」
琉衣が呼ぶ。
「ん?」
「写真撮りましょうか」
透真は少し考えてから首を振った。
「あとでみんなと撮りたい」
その言葉に琉衣は少しだけ嬉しくなる。
みんなと。
そこに自分も入っている。
しばらく歩いたところで、透真がふと空を見上げた。
冬の空は澄んでいる。
街の灯りは明るいけれど、それでもいくつかの星が見えていた。
「あ」
透真が足を止める。
「見て」
みんなが顔を上げる。
透真は楽しそうに夜空を指差した。
「冬の大三角」
「こんなところからでも見えるんだ」
「ほんとだ」
裕翔も空を見上げる。
透真は少し嬉しそうに笑った。
「イルミネーションも綺麗だけど、冬の星も綺麗なんだよな」
星の話になると変わらない。
部長になっても。
去年と同じように。
好きなものを見つけると誰かに伝えたくなる。
「ほら、あれオリオン座」
透真が指差す。
「その横が――」
説明を聞きながら、みんなは自然と笑っていた。
星を見ているというより。
楽しそうに話す透真を見ている。
そんな時間だった。
「やっぱり好きなんだな」
和希が小さく呟く。
昴も空を見上げながら頷いた。
「だな」
しばらくして。
和希が突然スマホを取り出した。
「そうだ」
みんなが振り返る。
「去年と同じように写真撮ろうよ」
その一言に。
夕花がすぐ反応する。
「撮る!」
「賛成」
紬も笑った。
「集合写真?」
伊織が聞く。
「集合写真」
和希が頷く。
気付けば全員が集まっていた。
和希がスマホを構える。
「じゃあ詰めてー」
自然と透真の隣へ琉衣が移動する。
誰も何も言わない。
でも。
裕翔は気付いていた。
薫も気付いていた。
伊織も気付いていた。
琉衣だけが平然としている。
「近いな」
裕翔が小さく笑う。
「気のせいです」
即答だった。
「はいはい」
みんなが笑う。
「撮るよー!」
和希がスマホを持ち上げる。
イルミネーションを背にして。
冬の夜空の下で。
「せーの!」
シャッターが切られる。
その一枚には。
今の天文部が全部写っていた。
帰り道。
イルミネーションの灯りを背に、
みんな駅へ向かって歩いていた。
自然と何組かに分かれる。
前では夕花と紬が楽しそうに話し、
少し後ろでは裕翔と薫、伊織が並んでいた。
その少し後ろ。
琉衣は気付けば和希の隣を歩いていた。
「琉衣くん」
「はい」
和希が柔らかく笑う。
「天文部どう?」
突然の質問だった。
でも。
嫌な感じはしない。
「楽しいです」
自然と答えていた。
「それならよかった」
和希が頷く。
少しの沈黙。
イルミネーションの灯りが歩道へ落ちる。
琉衣は少し迷ってから聞いた。
「和希先輩」
「ん?」
「去年の透真先輩ってどんな感じだったんですか?」
和希が少し驚いた顔をする。
でもすぐに笑った。
「今とあんまり変わらないかな」
「そうなんですか」
「うん」
和希は前を歩く透真を見る。
「昔から星が好きで」
「すぐ楽しそうな顔するし」
「思ったことそのまま言うし」
琉衣は少しだけ笑った。
確かに今もそうだ。
「でも」
和希が少し考える。
「今の方が笑うかも」
琉衣が顔を上げた。
和希は前を見たまま続ける。
「みんな増えたからね」
その言葉が妙に胸へ残る。
去年の透真。
自分が知らない透真。
でも。
今の透真は知っている。
☆
しばらくして。
昴がふと聞く。
「部長どうだ」
透真は一瞬だけ考えた。
そして。
すぐに答える。
「すごい大変です」
即答だった。
昴が少し笑う。
「やっぱり昴先輩すごかったんだなって思いました」
透真は続けた。
「引き継ぎファイルもちゃんとしてたし、観測会の準備もやったんですけど……」
少し困ったように笑う。
「難しかったです」
昴は黙って聞いていた。
「それに」
透真が少しだけ視線を落とす。
「俺、思ってた以上に先輩たちに頼ってたんだなって思いました」
その言葉に。
昴は少しだけ目を細めた。
文化祭が終わって。
部長になって。
初めて分かったことだった。
でも。
透真はすぐに笑った。
「だけど」
顔を上げる。
「みんなが助けてくれるから大丈夫です!」
その声は明るかった。
迷いもなかった。
「裕翔も」
「薫も」
「伊織も」
「夕花も」
「紬も」
「琉衣くんも」
「みんな助けてくれるから」
透真は本当に嬉しそうに笑う。
少し前を歩いていたみんなの足が止まった。
聞こえていたのだ。
「……」
薫が視線を逸らす。
伊織が小さく笑う。
夕花は照れたように頬を掻いた。
紬も少しだけ恥ずかしそうだった。
琉衣は口元を隠している。
裕翔だけが吹き出した。
「お前そういうの真顔で言うよな」
「え?」
透真は本気で分かっていなかった。
その様子に。
今度は昴まで少し笑った。
冬の夜は冷たい。
けれど。
その時間は不思議なくらい暖かかった。
イルミネーションの灯りの下を歩きながら、透真はふと思う。
先輩たちはもう部室にはいない。
でも。
ちゃんと繋がっている。
そして。
自分たちも前へ進んでいる。
冬の夜空には、静かに星が輝いていた。
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