【第10章】第6話「先輩たちの進路」
イルミネーション当日。
冬の夕方は暗くなるのが早く、待ち合わせ時間にはすでに駅前の灯りが輝き始めていた。
透真たちは駅前の時計台の下へ集まっていたが、そこにいるのは一年生と二年生だけだった。
「先輩たち、まだかな」
夕花がスマホを確認する。
「塾終わりって言ってたしな」
裕翔が言う。
受験生。
その言葉が、以前より少しだけ現実味を持って聞こえるようになっていた。
☆
しばらく待っていると、透真のスマホが震えた。
和希
『今終わったー!』
昴
『向かってる』
☆
「来るって」
透真が嬉しそうに言う。
その顔を見て、裕翔が笑った。
「めちゃくちゃ嬉しそう」
「だって久しぶりだし」
「この前LINEしてただろ」
「それとこれとは違う」
即答だった。
☆
数分後。
人混みの向こうから二人の姿が見える。
「おまたせー!」
大きく手を振る和希と、その隣を歩く昴。
制服姿ではなく私服なのもあって、どこか少しだけ新鮮だった。
☆
「先輩!」
透真がぱっと顔を明るくする。
「久しぶりです!」
「そんなに久しぶりでもないだろ」
和希が笑う。
「部活来ないからですよ」
琉衣が小さく言った。
「ごめんごめん」
和希は苦笑する。
☆
全員揃ったところで、中央公園へ向かって歩き始めた。
街路樹には無数の光が巻き付けられ、歩道にもイルミネーションを見に来た人たちが行き交っている。
冬の空気は冷たいのに、不思議と気持ちは暖かかった。
☆
透真は少し前を歩く先輩たちを見ながら思う。
部活にはいなくなった。
毎日会うこともなくなった。
それなのに、こうして並んで歩くと安心する。
やっぱり先輩なのだ。
☆
「そういえば」
透真が口を開く。
和希が振り返った。
「ん?」
「先輩たちって、どこの大学行きたいんですか?」
☆
その言葉に、和希と昴が顔を見合わせる。
「あー」
和希が少し笑った。
「そういえば言ってなかったかも」
☆
「俺は幼稚園教諭かな」
☆
透真が目を丸くする。
「幼稚園の先生?」
「うん」
和希は頷いた。
「昔から子ども好きなんだよね」
☆
その瞬間だった。
「めちゃくちゃ向いてそう」
夕花が即答する。
「わかる」
紬も頷く。
☆
「泣いてる子とかすぐ懐きそう」
裕翔が笑う。
「そんなことないって」
和希は苦笑した。
☆
「あります」
琉衣が真顔で言う。
「あるな」
薫も頷く。
「ありますね」
伊織も続いた。
☆
満場一致だった。
和希は困ったように笑う。
☆
透真も自然と笑っていた。
確かにそうだと思う。
和希は昔からそうだった。
誰かが困っていると自然に隣へ行くし、気付けばみんなが安心している。
☆
「絶対なれますよ!」
透真が目を輝かせる。
「和希先輩なら絶対大丈夫です!」
☆
和希は少し驚いたように瞬きをして、それから照れたように笑った。
「ありがと」
☆
「昴先輩は?」
透真が次に視線を向ける。
☆
昴は少しだけ考えてから答えた。
「天文関係」
☆
透真の目がさらに輝く。
☆
「大学でもっと学びたい」
昴は夜空を見上げながら続けた。
「宇宙とか星とか、そういうのを」
その声は静かだったけれど、本当に好きなんだと分かる声だった。
☆
透真は思わず笑う。
「昴先輩らしい」
☆
「そうか?」
「そうですよ」
透真は即答した。
「だって昴先輩、星の話してる時すごく楽しそうだし」
☆
昴は少しだけ視線を逸らした。
それが照れている時の反応だと知っている人間が何人かいた。
☆
「絶対なれますよ!」
透真が続ける。
「研究者とか!」
☆
「気が早い」
昴はそう言ったが、声は少しだけ柔らかかった。
☆
みんなが笑う。
冬の空気の中に、穏やかな時間が流れていく。
☆
ふと。
透真は空を見上げた。
和希先輩。
昴先輩。
二人とも、ちゃんと未来へ向かっている。
部活を引退して終わりじゃない。
その先がある。
☆
じゃあ。
自分はどうなんだろう。
☆
部長になった。
星は好きだ。
天文部も好きだ。
みんなと星を見る時間も好きだ。
でも。
将来何になりたいのかと聞かれたら、まだ答えられない。
☆
「透真?」
紬が不思議そうに覗き込む。
「どうしたの?」
☆
透真は少し笑って首を振った。
「ううん」
答えはまだない。
でも。
いつか見つかる気がした。
☆
その時。
「見えた!」
夕花が前を指差す。
みんなが顔を上げる。
☆
中央公園いっぱいに広がる光の海。
無数のイルミネーションが冬の夜を彩っていた。
☆
「わあ……」
透真が思わず立ち止まる。
その横で、和希が笑った。
昴も静かに目を細める。
☆
先輩たちの未来。
自分たちの未来。
まだ見えないことばかりだ。
それでも。
今はただ。
この綺麗な景色を、みんなで見ていたかった。
読んでいただきありがとうございます!
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