【第10章】第5話「イルミネーション企画」
冬の観測会から数日後。
放課後の部室には暖房の音が静かに響いていた。
窓の外はすっかり冬の空で、日が落ちるのも早い。活動記録を書き終えた透真は椅子にもたれながら外を眺めていた。
そんな時、夕花がスマホを見ながら声を上げる。
「そういえば、駅前と中央公園のイルミネーション始まったらしいよ」
「もうそんな時期か」
裕翔が頷いた。
その言葉を聞いた瞬間、透真の頭には去年の景色が浮かんだ。
駅前広場。
中央公園。
冬の夜。
光で彩られた街路樹。
そして、一緒に歩いた人たち。
「あ」
透真が顔を上げる。
「去年、みんなで見に行ったよね」
☆
部室の空気が少し柔らかくなった。
「行ったねえ」
夕花が懐かしそうに笑う。
「すごく綺麗だった」
紬も頷いた。
「寒かったけどな」
薫がぼそりと言うと、伊織が小さく笑う。
☆
去年のイルミネーション。
そこには和希も昴もいた。
まだ透真が一年生だった頃。
先輩たちの後ろをついて歩きながら、ただ楽しくて仕方なかった冬の夜。
☆
「和希先輩、ずっと写真撮ってたよな」
裕翔が思い出したように言う。
「あー」
透真も笑った。
「夕花と紬の写真撮ってた」
「撮られてたね」
紬が少し照れたように頬を掻く。
☆
「昴先輩は?」
夕花が聞く。
すると裕翔が即答した。
「イルミネーションの配線見てた」
☆
一瞬の沈黙。
そして部室に笑い声が広がる。
「ありそう」
薫が頷き、
「ありそうですね」
伊織も静かに笑った。
☆
そんな話を聞きながら、琉衣は少しだけ口を尖らせていた。
去年の話。
自分の知らない時間。
自分がまだここにいなかった頃の思い出。
もちろん仕方のないことだ。
でも。
少しだけ。
ほんの少しだけ羨ましかった。
☆
「今年は一緒に行こうよ」
透真が何気なく言った。
琉衣が顔を上げる。
「え?」
「去年すごく綺麗だったし」
透真は自然に笑った。
「今年は琉衣もいるしな」
☆
その言葉だけで、胸の中にあった小さなもやもやが少し溶ける。
「行きたいです!」
琉衣も小さく笑った。
☆
その時だった。
透真のスマホが震える。
「ん?」
画面を見た透真が目を丸くした。
「和希先輩!」
☆
全員が一斉に反応する。
「え?」
「ほんと?」
「珍しい」
☆
透真はすぐにグループLINEを開いた。
天文部のグループチャット。
そこには新しいメッセージが表示されている。
☆
和希
『みんな元気ー?』
☆
その一言だけで、部室の空気がぱっと明るくなった。
☆
「元気です!」
透真が即返信する。
「早っ」
裕翔が吹き出した。
☆
夕花
『元気です!』
紬
『お久しぶりです』
伊織
『元気ですよ』
琉衣
『元気です』
薫
『普通』
☆
数秒後。
和希から返信が来る。
☆
『薫だけ雑じゃない?』
☆
部室が笑いに包まれた。
久しぶりなのに。
まるで昨日まで一緒に部活をしていたみたいだった。
☆
そのやり取りを見ながら、透真はふと思い付く。
「ねえ」
みんなが顔を上げる。
「イルミネーション、先輩たちも誘ってみる?」
☆
部室が少し静かになる。
「でも受験だろ」
裕翔が言った。
「忙しいかもしれない」
紬も頷く。
☆
確かにそうだ。
和希も昴も受験生。
部活を引退してからは、勉強中心の毎日になっているはずだった。
☆
「聞くだけ聞いてみれば?」
夕花が言う。
「無理なら無理で」
「確かに」
伊織も頷いた。
☆
「透真先輩、誘いたそうですし」
琉衣が小さく言う。
☆
透真が固まる。
「え」
「顔に出てます」
☆
今度は部室全員が笑った。
☆
透真は少し照れながらスマホを手に取る。
画面を見つめる。
少しだけ迷う。
でも。
やっぱり会いたかった。
☆
指を動かす。
☆
『今度みんなでイルミネーション見に行こうって話してるんですけど』
『先輩たちも来れますか?』
☆
送信。
既読が付く。
☆
数秒後。
返信が来た。
☆
和希
『行きたい』
☆
即答だった。
☆
「早っ!!」
裕翔が声を上げる。
「絶対待ってたじゃん!」
夕花も笑う。
☆
その直後。
もう一件通知が入る。
☆
昴
『塾次第』
☆
「昴先輩だ」
透真が笑う。
その短い返事が妙に嬉しかった。
☆
窓の外はもう暗くなっていた。
先輩たちはもう部室にはいない。
それでも。
こうして連絡を取って、また会う約束ができる。
☆
終わったわけじゃない。
形が少し変わっただけだ。
☆
透真は窓の外を見ながら小さく笑った。
冬の夜は冷たい。
けれど今は少しだけ暖かい気持ちだった。
読んでいただきありがとうございます!
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