【第10章 先輩のいない冬】第1話 「新しい部長」
文化祭が終わり。
数日ぶりの部活だった。
冬の空気は、
少しだけ冷たい。
放課後の廊下を歩きながら、
透真はなんとなく空を見上げた。
高くて。
澄んでいて。
冬の空だった。
☆
部室の扉を開ける。
「こんにちはー」
いつもの挨拶。
でも。
少しだけ違和感があった。
「あ」
透真が足を止める。
和希の席。
昴の席。
空いている。
当然だった。
文化祭で引退したのだから。
でも。
当たり前みたいにいた人がいない。
それだけで、
部室の空気が少し違う気がした。
☆
「なんか静かですね」
夕花が椅子へ座りながら言う。
「人数はそんな変わってないのに」
「わかる」
裕翔も頷いた。
「和希先輩うるさかったし」
「失礼だなー」
その瞬間。
聞き慣れた声がして、
みんなが振り返る。
「和希先輩!?」
扉の向こう。
和希が笑っていた。
その隣には昴もいる。
「忘れ物取りに来ただけ」
昴が言った。
「びっくりした」
透真が本気で安心した顔をする。
和希は少し笑った。
☆
「じゃ、
そろそろ始めるか」
神代先生が言う。
みんな席へ座る。
少しだけ緊張した空気。
文化祭後。
最初の部活。
つまり。
部長決めの日だった。
☆
「三年が引退したので」
神代先生が静かに言う。
「次期部長を決める」
その言葉に、
部室が少し静かになった。
透真はなんとなく、
机の木目を見つめる。
誰になるんだろう。
そんなことを考えていた。
☆
「推薦あるか?」
神代先生が聞く。
沈黙。
そして。
「透真」
裕翔が即答した。
「え?」
透真が顔を上げる。
「いや透真だろ」
薫も普通に言う。
「だな」
伊織も頷く。
「透真先輩です」
琉衣は迷いがなかった。
「私もそう思う」
紬が言う。
夕花も笑う。
「むしろ他いる?」
☆
透真だけが固まった。
「え、待って」
「待たない」
裕翔が即答する。
「いやいやいや」
「いやいやじゃない」
「なんで!?」
「なんでって」
裕翔が呆れた顔をする。
「お前だから」
☆
透真は助けを求めるように、
和希を見る。
和希は笑っていた。
昴を見る。
昴も否定しない。
「先輩まで……」
少し困った声。
昴は静かに言った。
「透真」
呼ばれる。
自然に背筋が伸びた。
☆
「今の天文部」
昴が部室を見回す。
薫。
伊織。
夕花。
紬。
裕翔。
琉衣。
そして透真。
「お前中心で回ってるだろ」
静かな声だった。
でも。
その言葉は、
誰も否定しなかった。
☆
透真は少し戸惑う。
そんなつもりはなかった。
中心になろうと思ったこともない。
ただ。
みんなと星を見たかっただけだ。
でも。
気付けば。
ここは自分にとって、
大切な場所になっていた。
☆
神代先生が聞く。
「どうする?」
部室が静かになる。
みんな待っている。
透真は少しだけ考えた。
窓の外を見る。
冬の空。
文化祭。
合宿。
観測会。
たくさんの思い出。
そして。
目の前にいる仲間たち。
☆
透真は小さく笑った。
「俺でよければ」
その瞬間。
部室の空気が柔らかくなる。
「決まりだな」
裕翔が言う。
「最初から決まってましたけど」
琉衣も満足そうだった。
☆
昴が立ち上がる。
部室奥の棚へ向かう。
そして。
一冊のファイルを取り出した。
歴代部長が使ってきた、
活動記録だった。
昴はそれを透真へ差し出す。
「これ」
透真が受け取る。
思ったより重かった。
☆
昴は少しだけ笑う。
本当に少しだけ。
「よろしくな、部長」
その言葉に。
透真は一瞬だけ目を見開いた。
部長。
自分が。
その呼び方が、
まだ少し不思議だった。
でも。
嫌じゃない。
☆
透真はファイルを抱えながら、
ゆっくり笑った。
「はい」
その返事は。
去年より少しだけ、
先輩らしかった。
☆
窓の外には、
冬の空が広がっていた。
変わるもの。
変わらないもの。
その全部を抱えながら。
新しい天文部が、
静かに始まろうとしていた。
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