↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
71/88

【第9章】第10話「文化祭の終わり」


屋上を出る時。


最後に吹いた夜風が、

少しだけ冷たかった。


「寒っ」


夕花が肩を竦める。


「もう秋だねえ」


和希が笑う。


ついさっきまで、

花火を見ていたはずなのに。


もう文化祭が終わる。


その実感だけが、

少しずつ近付いていた。


☆


夜の校舎は静かだった。


昼間の熱気が、

嘘みたいに消えている。


廊下には、

片付け途中の段ボール。


外された装飾。


半分だけ残った看板。


文化祭の“あと”だった。


「なんか寂しいですね」


透真が小さく呟く。


誰も否定しない。


階段を降りる足音だけが、

静かに響いていた。


☆


教室前まで戻ると、

夕花が伸びをする。


「じゃ、

うちら着替えてくるね」


「またあとで」


紬も小さく笑った。


女子たちが廊下の向こうへ消えていく。


その背中を見送りながら、

裕翔が小さく息を吐く。


「……急に静か」


「確かに」


透真が少し笑った。


☆


教室へ戻ると、

空気はもっと静かだった。


さっきまでの賑やかさが、

少し遠い。


男子だけになった教室。


みんな、

それぞれ浴衣を整えたり、

荷物を片付けたりしている。


透真は、

ゆっくり帯をほどいた。


「……終わっちゃったなあ」


ぽつりと零れる。


裕翔が近くで笑う。


「お前、

今日ずっと楽しそうだったもんな」


「だって楽しかった」


即答だった。


その声が、

少しだけ寂しそうで。


でもちゃんと、

満足そうだった。


☆


「今年、

ほんと人多かったよな」


薫が机へ腰掛けながら言う。


「プラネタリウムも大盛況だったし」


「透真先輩、

ずっと解説してましたよね」


琉衣が言う。


「めちゃくちゃかっこよかったです」


「え、ほんと?」


「ほんとです」


即答。


その横で、

薫が小さく笑った。


「お前、

褒められるとすぐ喜ぶな」


「だって嬉しいし」


透真は隠さない。


伊織が静かに笑う。


「そこ透真らしい」


☆


少し離れた窓際。


昴が静かに外を見ていた。


校庭では、

まだ一部の片付けが続いている。


提灯の灯りも、

少しずつ消えていく。


その背中を見ながら、

透真は少しだけ胸が苦しくなった。


去年。


自分は、

ずっと先輩達の後ろを追いかけていた。


でも今は。


その時間が、

終わろうとしている。


☆


「これで三年は引退か」


昴が静かに言った。


その瞬間。


教室が少し静かになる。


文化祭。


後夜祭。


屋上。


楽しかった時間。


でも。


それは同時に、

区切りでもある。


透真は、

少しだけ視線を落とした。


実感はまだ曖昧だ。


でも。


終わるんだ、

ということだけは分かる。


☆


そんな空気を、

和希が少し明るく崩した。


「ま、

休み明け部長決めて、

俺ら正式引退だねー」


軽い声。


でも。


その言葉は、

思ったより胸へ残った。


「次誰になるんだろ」


裕翔が何気なく言う。


その瞬間。


なぜか、

何人かの視線が自然に透真へ向いた。


「え?」


透真だけが気付いていない。


薫も。


伊織も。


琉衣も。


昴も。


何も言わない。


でも。


たぶんみんな、

同じことを思っていた。


☆


和希がその空気に気付いて、

少し笑う。


「まあ、

誰になっても大丈夫そうだけどね」


その言葉に、

昴も小さく頷いた。


「……今の天文部、

ちゃんと良い部活だしな」


静かな声。


でも、

その言葉はまっすぐだった。


透真が少し目を丸くする。


それから、

少し照れたように笑った。


「……先輩たちがいたからですよ」


その返事に。


和希がふっと笑う。


昴も、

少しだけ目を細めた。


☆


そこへ。


「お待たせー」


着替え終わった夕花たちが戻ってくる。


制服姿に戻っているのに、

まだ少しだけ後夜祭の空気が残っていた。


「なんか男子だけでしんみりしてない?」


夕花が笑う。


「してない」


薫が即答する。


「怪しいなー」


そのやり取りに、

少しだけ教室の空気が柔らかく戻った。


☆


帰る準備を終えた教室。


文化祭装飾がまだ少し残っている。


でも。


明日になれば、

きっと全部なくなる。


日常へ戻る。


授業。


放課後。


いつもの学校。


でも。


去年とは少し違う。


透真は窓の外を見上げた。


静かな夜空。


文化祭の熱が消えたあとでも、

星だけは変わらずそこにある。


「……また、

みんなで見たいな」


小さな声だった。


誰へ向けたわけでもない。


でも。


その言葉に、

みんな少しだけ笑った。


☆


こうして。


最後の文化祭は、

静かに終わった。

読んでいただきありがとうございます!

ー

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

続きが気になったら評価やブックマークをお願いします


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。