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【第9章】第2話「星を映す準備」


放課後。


文化祭前の校舎は、

どこへ行っても騒がしかった。


廊下を歩けば、

段ボールを運ぶ生徒とぶつかりそうになる。


遠くから、

吹奏楽部の音。


軽音部のギター。


笑い声。


ペンキの匂い。


学校全体が、

文化祭へ向かって動いていた。



「透真、

そっち持てる?」


「持てます!」


天文部展示教室。


透真は段ボール箱を抱えながら、

暗幕の隙間をくぐった。


教室の中は薄暗い。


窓はほとんど覆われ、

昼間なのに夜みたいだった。


「去年より暗くできそうですね」


「その分、

足元危ないけどな」


昴が脚立の上から返す。


投影機の位置調整中らしい。


和希は床へ座り込み、

星座解説用のパネルを切っていた。


「去年、

透真くんコード踏みそうになってたよね」


「まだ言うんですか!?」


「だって面白かったし」


「笑い事じゃなかったです!」


琉衣がくすっと笑う。


その横で、

伊織が静かに座席位置を調整していた。


「今年、

人数多そう」


「去年、

評判よかったからな」


昴が答える。


「透真の解説目当ても増えてると思う」


和希がさらっと言った。


「やめてくださいって……」


でも否定しながら、

透真は少し照れくさそうだった。



「琉衣くん、

そっち暗くない?」


「大丈夫です」


「ほんと?」


「はい」


透真は教室中央へ戻り、

投影位置を見上げる。


去年、

自分が昴に教わっていた場所。


今は自然に、

後輩へ声を掛けている。


その様子を見ながら、

神代先生は教室後方で静かに目を細めた。


時間は、

ちゃんと流れている。



「透真、

この星座説明どう?」


和希が紙を掲げる。


『秋の四辺形』


手描きのイラスト付き。


「わ、わかりやすい!」


「でしょー?」


「でもここ、

もうちょい星同士の距離近いかも」


透真がペンを取る。


さらさらと線を描き直す。


その瞬間だけ、

表情が変わる。


真剣で。


楽しそうで。


好きがそのまま出る。


琉衣はその横顔を、

静かに見ていた。


去年、

初めて見た時と同じ顔だった。



「……あれ?」


透真が顔を上げる。


「薫?」


教室入口。


薫が立っていた。


「備品借りに来た」


「喫茶店準備?」


「まあ」


薫は適当に答えながら、

教室を見回す。


暗幕。


星座パネル。


投影機。


文化祭前独特の、

慌ただしい空気。


「そっちは順調?」


透真が聞く。


「普通」


「絶対忙しいじゃん」


「お前んとこほどじゃねぇ」


そんな会話をしていると、

後ろから小さな声。


「……薫くん?」


振り返る。


紬だった。


手には段ボール箱。


「先生に、

これ天文部に持ってってって」


「あ、ありがとう!」


透真が受け取る。


その間。


薫と紬の間だけ、

少し空気が止まった。


「……メイド喫茶準備?」


薫が聞く。


「うん」


「へえ」


短い返事。


でも、

なぜか少しだけぎこちない。


紬も少し視線を逸らした。


その空気に気付いたのは、

伊織だけだった。


伊織は静かに、

小さく笑う。



「よし、

一回投影してみるか」


昴が言った。


教室の照明が落ちる。


完全な暗闇。


数秒後。


天井いっぱいに、

星空が広がった。


「わ……」


琉衣が小さく息を呑む。


去年、

初めて見た景色。


でも今年は違う。


自分も、

この場所を作る側にいる。


「綺麗……」


紬が呟く。


星明かりが、

暗い教室を静かに照らしていた。


その中央で。


透真が嬉しそうに空を見上げている。


昴はその姿を見ながら、

ふっと目を細めた。


去年より、

ずっと自然だった。


誰かに守られていた一年生は、

もういない。


今の透真は、

ちゃんとこの場所の中心に立っている。



帰る頃には、

空はもう暗くなっていた。


校舎の窓から、

あちこちの準備灯りが見える。


文化祭まで、

あと少し。


その時間さえ、

どこか特別に思えた。

読んでいただきありがとうございます!

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

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