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【第9章 最後の文化祭】第1話 「準備期間」


九月後半。


放課後の校舎は、

いつもより少し騒がしかった。


廊下には段ボール。


色画用紙。


ペンキの匂い。


遠くから聞こえる笑い声。


文化祭準備期間。


学校全体が、

少し浮き足立っている。



透真と裕翔のクラスは、

縁日をやることになっていた。


教室前には、

大きな手書き看板。


『夏祭り縁日』


机を並べ、

射的台を組み立て、

ヨーヨー用のビニールプールを広げる。


クラス中が慌ただしい。


「裕翔、

その箱こっちな」


「はいはい」


「透真くん、

こっちテープあるー?」


「あります!」


あちこちから声が飛ぶ。


裕翔はそんな様子を見ながら、

少し笑った。


「……馴染みすぎだろ」


「え?」


透真はきょとんとする。


「いや、

普通にクラスの中心いるじゃん」


「そんなことないって」


即答だった。


でもその瞬間も、

別方向から


「透真ー!」


と呼ばれている。


裕翔は苦笑した。


「自覚ないんだよなあ」



薫と伊織のクラスでは、

喫茶店準備が進んでいた。


机へクロスを掛け。


メニュー表を並べ。


照明位置を調整する。


「そこ、

もうちょい右」


脚立の上から薫が言う。


伊織が静かに位置を直した。


「これくらい?」


「ん」


短いやり取り。


でも息は合っている。


教室前には、

完成途中の立て看板。


『喫茶 Sirius』



夕花のクラスは、

お化け屋敷だった。


廊下まで暗幕で覆われている。


「ぎゃあああ!!」


中から大きな悲鳴。


次の瞬間。


「もっと怖くしていい!?」


夕花の元気な声が響いた。


「十分怖いって!!」


クラスメイトの悲鳴混じりのツッコミ。


どうやら、

かなり張り切っているらしい。



紬のクラスは、

メイド喫茶。


教室前には、

可愛らしい装飾が並んでいた。


レース。


白いリボン。


手書きメニュー。


「これ、

ここでいいかな」


紬が小さく呟く。


クラスメイトが笑った。


「絶対似合うよ、紬ちゃん!」


紬は少し困ったように笑った。



放課後。


天文部。


文化祭展示用の教室は、

暗幕のせいで少し薄暗かった。


「去年より、

広く使えそうですね」


透真が言う。


昴は脚立の上で、

投影機を調整していた。


「去年は機材多かったからな」


「コードも絡まってたよね」


和希が笑う。


「透真くん、

去年めちゃくちゃテンパってたし」


「やめてくださいって……!」


透真が顔をしかめる。


「台本ずっと見てたよね」


「うわあ……」


さらに追い打ち。


教室の空気が笑いに包まれる。


琉衣はその会話を聞きながら、

少し不思議そうに首を傾げた。


「でも、

本番中は全然分からなかったです」


透真:

「え?」


「すごく楽しそうでした」


琉衣は、

去年のプラネタリウムを思い出す。


暗い教室。


広がる星空。


その前で、

夢中になって話していた透真。


“好き”が全部出ていた横顔。


「……かっこよかったです」


ぽつりと落ちた言葉。


透真は少し困ったように笑った。


「それは褒めすぎ」


でも琉衣は、

割と本気だった。


昴はその様子を見ながら、

静かに投影機を調整する。


去年。


緊張で台本を握りしめていた透真。


けれど投影が始まった瞬間、

誰よりも生き生きと星を語っていた。


その姿は、

今でも覚えている。



暗幕を固定し終えたあと。


透真が教室中央を見回した。


「今年も、

いっぱい来てくれるといいですね」


「来るだろ」


昴が短く返す。


「去年より有名になってるし」


和希が笑った。


「透真くん、

今や完全に天文部の顔だもんね」


「そんなことないですって」


また即否定。


でも去年と違う。


今の透真は、

自然にこの場所の中心に立っていた。



帰り際。


夕焼けが、

校舎を赤く染めていた。


文化祭まで、

あと数日。


「楽しみだなあ」


透真が笑う。


その声は、

去年と変わらない。


ただ純粋に、

楽しみだと言う声。


でも。


和希と昴だけは、

少しだけ知っている。


これが、

最後の文化祭だということを。

読んでいただきありがとうございます!

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

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