【第9章 最後の文化祭】第1話 「準備期間」
九月後半。
放課後の校舎は、
いつもより少し騒がしかった。
廊下には段ボール。
色画用紙。
ペンキの匂い。
遠くから聞こえる笑い声。
文化祭準備期間。
学校全体が、
少し浮き足立っている。
☆
透真と裕翔のクラスは、
縁日をやることになっていた。
教室前には、
大きな手書き看板。
『夏祭り縁日』
机を並べ、
射的台を組み立て、
ヨーヨー用のビニールプールを広げる。
クラス中が慌ただしい。
「裕翔、
その箱こっちな」
「はいはい」
「透真くん、
こっちテープあるー?」
「あります!」
あちこちから声が飛ぶ。
裕翔はそんな様子を見ながら、
少し笑った。
「……馴染みすぎだろ」
「え?」
透真はきょとんとする。
「いや、
普通にクラスの中心いるじゃん」
「そんなことないって」
即答だった。
でもその瞬間も、
別方向から
「透真ー!」
と呼ばれている。
裕翔は苦笑した。
「自覚ないんだよなあ」
☆
薫と伊織のクラスでは、
喫茶店準備が進んでいた。
机へクロスを掛け。
メニュー表を並べ。
照明位置を調整する。
「そこ、
もうちょい右」
脚立の上から薫が言う。
伊織が静かに位置を直した。
「これくらい?」
「ん」
短いやり取り。
でも息は合っている。
教室前には、
完成途中の立て看板。
『喫茶 Sirius』
☆
夕花のクラスは、
お化け屋敷だった。
廊下まで暗幕で覆われている。
「ぎゃあああ!!」
中から大きな悲鳴。
次の瞬間。
「もっと怖くしていい!?」
夕花の元気な声が響いた。
「十分怖いって!!」
クラスメイトの悲鳴混じりのツッコミ。
どうやら、
かなり張り切っているらしい。
☆
紬のクラスは、
メイド喫茶。
教室前には、
可愛らしい装飾が並んでいた。
レース。
白いリボン。
手書きメニュー。
「これ、
ここでいいかな」
紬が小さく呟く。
クラスメイトが笑った。
「絶対似合うよ、紬ちゃん!」
紬は少し困ったように笑った。
☆
放課後。
天文部。
文化祭展示用の教室は、
暗幕のせいで少し薄暗かった。
「去年より、
広く使えそうですね」
透真が言う。
昴は脚立の上で、
投影機を調整していた。
「去年は機材多かったからな」
「コードも絡まってたよね」
和希が笑う。
「透真くん、
去年めちゃくちゃテンパってたし」
「やめてくださいって……!」
透真が顔をしかめる。
「台本ずっと見てたよね」
「うわあ……」
さらに追い打ち。
教室の空気が笑いに包まれる。
琉衣はその会話を聞きながら、
少し不思議そうに首を傾げた。
「でも、
本番中は全然分からなかったです」
透真:
「え?」
「すごく楽しそうでした」
琉衣は、
去年のプラネタリウムを思い出す。
暗い教室。
広がる星空。
その前で、
夢中になって話していた透真。
“好き”が全部出ていた横顔。
「……かっこよかったです」
ぽつりと落ちた言葉。
透真は少し困ったように笑った。
「それは褒めすぎ」
でも琉衣は、
割と本気だった。
昴はその様子を見ながら、
静かに投影機を調整する。
去年。
緊張で台本を握りしめていた透真。
けれど投影が始まった瞬間、
誰よりも生き生きと星を語っていた。
その姿は、
今でも覚えている。
☆
暗幕を固定し終えたあと。
透真が教室中央を見回した。
「今年も、
いっぱい来てくれるといいですね」
「来るだろ」
昴が短く返す。
「去年より有名になってるし」
和希が笑った。
「透真くん、
今や完全に天文部の顔だもんね」
「そんなことないですって」
また即否定。
でも去年と違う。
今の透真は、
自然にこの場所の中心に立っていた。
☆
帰り際。
夕焼けが、
校舎を赤く染めていた。
文化祭まで、
あと数日。
「楽しみだなあ」
透真が笑う。
その声は、
去年と変わらない。
ただ純粋に、
楽しみだと言う声。
でも。
和希と昴だけは、
少しだけ知っている。
これが、
最後の文化祭だということを。
読んでいただきありがとうございます!
ー
毎日21時に投稿予定です५✍⋆*
続きが気になったら評価やブックマークをお願いします




