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【第8章】第8話「花火のあと」


 合宿最終日の夜。


 観測を終えたあと、

みんなは宿の前へ集まっていた。


 山の夜風は少し涼しい。


 でも空気はどこか浮ついていた。



「じゃーん!」


 和希が大きな袋を掲げる。


「花火持ってきました〜!」


「やったー!」


 一番に反応したのは夕花だった。


「絶対あると思った」


 裕翔が笑う。


「夏合宿だからねぇ」


 和希は得意げだった。



 火をつけた瞬間。


 ぱちぱちと明るい音が夜へ広がる。


「うわ、綺麗!」


 透真が子どもみたいに目を輝かせた。


「先輩ほんと楽しそうですね」


 琉衣が笑う。


「だって夏の花火好きなんだよね〜!」


 そう言いながら、

透真は楽しそうに花火を振った。



「見て見て!」


 夕花が勢いよく花火を振り回す。


「危ない危ない!」


 裕翔が慌てて距離を取る。


「裕翔びびってる!」


「びびってねえし!」


 騒がしい。


 でも楽しそうだった。



 その様子を見ながら、

紬が小さく笑った。


「夕花ちゃん元気だね」


「いつもあんな感じじゃん」


 薫がぼそっと返す。


 でも。


 笑っている紬を見て、

薫は少しだけ目を細めた。


 紬は気付いていない。


 ただ楽しそうに、

みんなを見ていた。



 少し離れた場所では、

伊織が静かに花火を見ていた。


 そこへ透真が近づいてくる。


「伊織、

ちゃんと楽しんでる?」


「楽しんでる」


「ほんとに?」


「透真こそはしゃぎすぎ」


「夏だから!」


 透真は笑う。


 伊織も少しだけ笑った。



「去年もこんなんだったよねぇ」


 和希が花火を見ながら言う。


「透真、

花火より星見てたけど」


 昴が静かに続けた。


「だって星めっちゃ綺麗だったし!」


「今年も見てたじゃん」


 裕翔が笑う。


「今年は花火もちゃんと見てます!」


「成長したなぁ」


「子ども扱いやめてください!」


 そのやり取りに、

みんなが笑った。



「神代先生もやりましょうよ!」


 和希が花火を差し出す。


「遠慮しとく」


「え〜」


「火傷するだろ」


「先生が一番大人だ」


 裕翔が笑う。


 神代先生は呆れた顔をしながら、

缶コーヒーを口にした。


 でもその目は、

ちゃんと生徒たちを見ていた。



 やがて。


 騒がしかった花火も、

少しずつ静かになっていく。


 最後に残ったのは、

線香花火だった。



 小さな火。


 揺れる光。


 静かな夏の夜。


 誰も少しだけ口数が減る。


 合宿が終わる。


 その空気を、

みんななんとなく感じていた。



 透真はしゃがみ込みながら、

線香花火を見つめる。


「これ落ちそうで落ちないよね」


「先輩、

めちゃ真剣に見てますね」


 琉衣が隣で笑った。


「だって気になるじゃん」


「ふふ」


 その声は柔らかかった。



 少しして。


 琉衣がぽつりと言う。


「……去年の透真先輩、

知らないです」


 透真が顔を上げる。


「え?」


「去年の合宿の話、

みんなするから」


 琉衣は線香花火を見たまま続けた。


「望遠鏡で騒いでたとか、

星見てはしゃいでたとか」


「してたねぇ」


 和希が笑う。


 少し離れた場所で、

昴も静かに目を細めていた。



「なんか、

ちょっとだけ羨ましいです」


 琉衣は小さく笑う。


「知らない透真先輩、

結構いるんだなって」


 その声は、

少しだけ寂しそうだった。



 でも。


 透真はあっさり笑った。


「でも今年いるじゃん」


「……え」


「今年の合宿、

琉衣くんいるし」


 まるで当たり前みたいに言う。


「だから大丈夫!」


 透真は楽しそうに笑った。



 琉衣は少しだけ目を見開く。


 それから。


「……ずるいです」


 小さく呟いた。


「ん?」


「なんでもないです」


 でも口元は嬉しそうだった。



 少し離れた場所。


 和希が静かに笑う。


「透真、

ほんと変わんないねぇ」


「そこがあいつだろ」


 昴が小さく返す。



 その空気に、

紬が少しだけ目を伏せた。


「……来年は、

和希先輩たちいないんですね」


 その言葉で、

空気が少し静かになる。



 和希は困ったように笑った。


「なにその顔〜」


「だって寂しいじゃん!」


 夕花が即答する。


「まだ卒業してないけど」


 裕翔も苦笑した。



 透真は少しだけ黙る。


 去年。


 自分は先輩たちについていく側だった。


 でも。


 来年は違う。


 この場所で、

自分たちが“残る側”になる。



 夜空には、

夏の大三角。


 変わらない星。


 でも。


 少しずつ、

時間は進んでいく。



 神代先生は、

そんな生徒たちを静かに見ていた。


 賑やかな声。


 笑い声。


 少しだけ混ざる寂しさ。


 その全部が、

青春だった。



 ぱち、と音を立てて。


 透真の線香花火が落ちた。


「あー!負けた!」


「先輩弱いですね」


「琉衣くんまだ残ってる!?」


「勝ちました」


「くやしい〜!」


 その声に、

またみんなが笑う。


 夏の夜は、

まだ少しだけ続いていた。

読んでいただきありがとうございます!

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

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