【第8章】第8話「花火のあと」
合宿最終日の夜。
観測を終えたあと、
みんなは宿の前へ集まっていた。
山の夜風は少し涼しい。
でも空気はどこか浮ついていた。
☆
「じゃーん!」
和希が大きな袋を掲げる。
「花火持ってきました〜!」
「やったー!」
一番に反応したのは夕花だった。
「絶対あると思った」
裕翔が笑う。
「夏合宿だからねぇ」
和希は得意げだった。
☆
火をつけた瞬間。
ぱちぱちと明るい音が夜へ広がる。
「うわ、綺麗!」
透真が子どもみたいに目を輝かせた。
「先輩ほんと楽しそうですね」
琉衣が笑う。
「だって夏の花火好きなんだよね〜!」
そう言いながら、
透真は楽しそうに花火を振った。
☆
「見て見て!」
夕花が勢いよく花火を振り回す。
「危ない危ない!」
裕翔が慌てて距離を取る。
「裕翔びびってる!」
「びびってねえし!」
騒がしい。
でも楽しそうだった。
☆
その様子を見ながら、
紬が小さく笑った。
「夕花ちゃん元気だね」
「いつもあんな感じじゃん」
薫がぼそっと返す。
でも。
笑っている紬を見て、
薫は少しだけ目を細めた。
紬は気付いていない。
ただ楽しそうに、
みんなを見ていた。
☆
少し離れた場所では、
伊織が静かに花火を見ていた。
そこへ透真が近づいてくる。
「伊織、
ちゃんと楽しんでる?」
「楽しんでる」
「ほんとに?」
「透真こそはしゃぎすぎ」
「夏だから!」
透真は笑う。
伊織も少しだけ笑った。
☆
「去年もこんなんだったよねぇ」
和希が花火を見ながら言う。
「透真、
花火より星見てたけど」
昴が静かに続けた。
「だって星めっちゃ綺麗だったし!」
「今年も見てたじゃん」
裕翔が笑う。
「今年は花火もちゃんと見てます!」
「成長したなぁ」
「子ども扱いやめてください!」
そのやり取りに、
みんなが笑った。
☆
「神代先生もやりましょうよ!」
和希が花火を差し出す。
「遠慮しとく」
「え〜」
「火傷するだろ」
「先生が一番大人だ」
裕翔が笑う。
神代先生は呆れた顔をしながら、
缶コーヒーを口にした。
でもその目は、
ちゃんと生徒たちを見ていた。
☆
やがて。
騒がしかった花火も、
少しずつ静かになっていく。
最後に残ったのは、
線香花火だった。
☆
小さな火。
揺れる光。
静かな夏の夜。
誰も少しだけ口数が減る。
合宿が終わる。
その空気を、
みんななんとなく感じていた。
☆
透真はしゃがみ込みながら、
線香花火を見つめる。
「これ落ちそうで落ちないよね」
「先輩、
めちゃ真剣に見てますね」
琉衣が隣で笑った。
「だって気になるじゃん」
「ふふ」
その声は柔らかかった。
☆
少しして。
琉衣がぽつりと言う。
「……去年の透真先輩、
知らないです」
透真が顔を上げる。
「え?」
「去年の合宿の話、
みんなするから」
琉衣は線香花火を見たまま続けた。
「望遠鏡で騒いでたとか、
星見てはしゃいでたとか」
「してたねぇ」
和希が笑う。
少し離れた場所で、
昴も静かに目を細めていた。
☆
「なんか、
ちょっとだけ羨ましいです」
琉衣は小さく笑う。
「知らない透真先輩、
結構いるんだなって」
その声は、
少しだけ寂しそうだった。
☆
でも。
透真はあっさり笑った。
「でも今年いるじゃん」
「……え」
「今年の合宿、
琉衣くんいるし」
まるで当たり前みたいに言う。
「だから大丈夫!」
透真は楽しそうに笑った。
☆
琉衣は少しだけ目を見開く。
それから。
「……ずるいです」
小さく呟いた。
「ん?」
「なんでもないです」
でも口元は嬉しそうだった。
☆
少し離れた場所。
和希が静かに笑う。
「透真、
ほんと変わんないねぇ」
「そこがあいつだろ」
昴が小さく返す。
☆
その空気に、
紬が少しだけ目を伏せた。
「……来年は、
和希先輩たちいないんですね」
その言葉で、
空気が少し静かになる。
☆
和希は困ったように笑った。
「なにその顔〜」
「だって寂しいじゃん!」
夕花が即答する。
「まだ卒業してないけど」
裕翔も苦笑した。
☆
透真は少しだけ黙る。
去年。
自分は先輩たちについていく側だった。
でも。
来年は違う。
この場所で、
自分たちが“残る側”になる。
☆
夜空には、
夏の大三角。
変わらない星。
でも。
少しずつ、
時間は進んでいく。
☆
神代先生は、
そんな生徒たちを静かに見ていた。
賑やかな声。
笑い声。
少しだけ混ざる寂しさ。
その全部が、
青春だった。
☆
ぱち、と音を立てて。
透真の線香花火が落ちた。
「あー!負けた!」
「先輩弱いですね」
「琉衣くんまだ残ってる!?」
「勝ちました」
「くやしい〜!」
その声に、
またみんなが笑う。
夏の夜は、
まだ少しだけ続いていた。
読んでいただきありがとうございます!
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