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【第8章】第7話「肝試し 後編」


 夜の山道。


 懐中電灯の明かりだけが、

細い道をぼんやり照らしていた。



「絶対怖くないし!」


 夕花は元気だった。


 その隣で、

裕翔が嫌そうな顔をする。


「先言っとくけど叫ぶなよ!?」


「叫ばないって!」


「お前さっきから声デカいんだよ」


「だってテンション上がるじゃん!」


 夏の夜。


 山の空気。


 遠くで鳴く虫の声。


 夕花は普通に楽しそうだった。



「でも結構暗いね」


「まあ山だし」


「うわ、

なんか揺れた!」


「木だろ」


「え〜ほんとに?」


 そんな会話をしながら、

二人は山道を進んでいく。


 その時。


 ガサッ。


「「うわぁっ!?」」


 二人同時に飛び上がった。


「ちょ、何!?」


「知らねえよ!?」


 慌てて懐中電灯を向ける。


 でも何もいない。


 数秒の沈黙。


「……風?」


「びっくりしたぁ……」


 夕花が胸を押さえる。


 裕翔も普通に顔が引きつっていた。



 その直後。


 後ろから低い声が落ちる。


「静かにしろ」


「「うわぁぁぁぁっ!!?」」


 完全に悲鳴だった。


 振り返る。


 そこにいたのは。


 懐中電灯を下から照らした、

神代先生。


「先生ぇぇぇ!!」


「怖っっっ!!」


 夕花が本気で叫ぶ。


 神代先生は真顔だった。


「近所迷惑」


「先生が一番怖いって!」


 裕翔が抗議する。


 でも。


 神代先生の口元は、

少しだけ笑っていた。



「一組目帰還〜」


 和希が楽しそうに手を振る。


「うるさかったなぁ」


「先生が悪い!」


「成功ってことだねぇ」


 昴は少し離れた場所で、

静かに笑っていた。



「次、

薫くん&紬ちゃん」


「……行くぞ」


 薫が立ち上がる。


 紬は小さく頷いた。


「よろしくお願いします」



 二組目は静かだった。


 山道。


 小さい懐中電灯。


 虫の声。


 夜風。


 さっきまでの騒がしさが、

嘘みたいに遠い。



「……暗いね」


 紬がぽつりと言う。


「山だからな」


「薫くん、

怖くないの?」


「別に」


 即答。


 でも歩幅はちゃんと合わせている。


 紬が遅れそうになると、

自然に少しだけ速度を落とした。



 ガサッ。


 草が揺れる。


 紬の肩が小さく跳ねた。


「……っ」


「ただの風だろ」


「……でもちょっと怖いかも」


 すると薫は少し黙ってから、


「……ならもっとこっち歩け」


と言った。


「え」


「そっち暗い」


 ぶっきらぼう。


 でも優しい。


 紬は少しだけ目を丸くして、

それから小さく笑った。


「ありがとう」


「別に」


 耳だけ少し赤い。



 少し先。


 木陰から、

和希がそっと顔を出す。


「昴くん、

このペア静かすぎない?」


「薫だから」


「青春だねぇ」


「お前が言うと軽い」


 その横で。


 伊織は静かに立っていた。


「……俺必要ですか」


「必要必要」


「なんで」



 二組目も無事戻ってくる。


「おかえり〜」


 和希が笑う。


 紬は少し安心した顔だった。


 薫は疲れた顔をしている。


「……普通に疲れる」


「お疲れ様〜」



 そして。


「最後、

透真先輩たちですね」


 琉衣が小さく笑った。



 山道へ入った瞬間。


 透真が周囲を見回す。


「うわ、

思ったより暗いね」


「ですね」


 琉衣は自然に、

透真の隣を歩いていた。


 距離が近い。


 でももう、

透真はあまり気にしていない。



「なんか静かだね〜」


 透真が小声で言う。


「先輩と二人だからじゃないですか?」


「え?」


「静かなの好きです」


 さらっと言う。


 透真は少し笑った。


「琉衣くんって、

たまに変なこと言うよね」


「褒めてます?」


「どうだろ」


 笑いながら返す。



 その時。


 ガサッ!!


「うわっ!?」


 透真の肩が跳ねた。


 次の瞬間。


 琉衣が透真の腕を掴む。


「先輩」


「え、なに!?」


「怖いです」


「えぇ!?」


 でも。


 琉衣の顔は少し楽しそうだった。



 その直後。


 木陰から白い影。


「うわぁぁっ!!?」


 透真が本気で驚く。


 思わず後ろへ下がりそうになった瞬間。


 琉衣がそっと肩を支えた。


「大丈夫です」


「び、びっくりした……!」


 白い影の正体は。


「和希先輩!?」


「成功〜!」


 和希が楽しそうに笑う。


 その後ろでは、

昴が呆れた顔をしていた。


「お前驚きすぎ」


「急に出てくるからでしょ!?」



 さらにその奥。


 木にもたれていた神代先生が、

静かに言う。


「走るなよ」


「先生いたんですか!?」


「見守り役だからな」


「怖いって〜!」


 透真が本気で抗議する。


 その横で。


 琉衣は少しだけ笑っていた。



 肝試しが終わった頃には、

みんな少し眠そうだった。


 でも。


 誰もつまらなそうな顔はしていない。



 宿の前。


 線香花火みたいに小さな灯りが、

夏の夜を照らしている。


「青春って感じだねぇ」


 和希が笑う。


「……まあ、

たまには悪くない」


 昴も小さく言った。


「先生ほんと怖かったんですけど!」


 裕翔が抗議する。


「お前らが騒ぎすぎなんだ」


 神代先生は呆れたように返した。


「裕翔、

一番声大きかった」


 伊織が静かに言う。


「は!?」


「三回くらい悲鳴聞こえた」


「数えてたの!?」


 夕花が吹き出す。


 その横で、

伊織は少しだけ笑った。


 紬は静かに微笑み、

薫は疲れた顔をしている。



「伊織全然怖がってなかったよね」


 透真が言う。


「脅かす側だったから」


「でもめっちゃ静かだった!」


「和希先輩がうるさかった」


「えっ俺!?」


 和希が笑う。


 その空気につられるみたいに、

伊織も小さく目を細めた。



 その中心で。


 透真が楽しそうに笑っている。


 去年より少しだけ、

誰かを気にかけるようになった。


 でも。


 笑い方は変わらない。



 神代先生は、

そんな生徒たちを静かに見渡した。


 賑やかな声。


 夏の夜。


 変わっていく関係。


 それでも変わらない空気。


 神代先生は小さく目を細める。


「……青春だな」


 誰にも聞こえないくらい小さな声は、

静かな夏の夜へ溶けていった。

読んでいただきありがとうございます!

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

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