【第8章】第6話「肝試し 前編」
それは、
夏休みに入る少し前の放課後だった。
☆
部室には、
和希と昴だけが残っていた。
窓の外は夕焼け色。
夏前のぬるい風が、
カーテンを揺らしている。
「ねえ」
和希が机へ頬杖をつく。
「今年さ、
肝試しやりたくない?」
昴が顔を上げる。
「なんで急に」
「去年やれなかったし」
和希は笑った。
「人数増えたし、
絶対楽しいじゃん」
「子どもか」
「青春だよ青春」
昴は少し呆れた顔をする。
でも。
否定はしなかった。
☆
その時。
部室の扉が開く。
「……何してるんですか」
入ってきたのは伊織だった。
「あ、伊織くんちょうどいい」
「嫌な予感しかしないんですけど」
「肝試しやるから手伝って」
「なんでですか」
即答だった。
昴が静かに言う。
「人数欲しい」
「怖がらせ役」
「……帰っていいですか」
「だめ」
和希がにこにこ笑う。
伊織は小さくため息をついた。
☆
さらに数日後。
職員室。
「……肝試し?」
神代先生が書類から顔を上げる。
「はい!」
和希が元気よく頷く。
「合宿っぽいことしたくて!」
「安全面は確認します」
昴も静かに続けた。
「コースも宿の周りだけにする予定です」
神代先生は少し黙る。
そして小さく息を吐いた。
「……山道から外れるなよ」
「やった!」
和希が嬉しそうに笑う。
「あと騒ぎすぎるな」
「善処します!」
「信用できないな」
でも神代先生は、
止めなかった。
☆
そして現在。
合宿二日目の夜。
観測を終えた食堂には、
まだ眠る気のない空気が残っていた。
夕花と紬はジュースを飲みながら話している。
裕翔は椅子へだらっと座り込み、
薫は眠そうに机へ肘をついていた。
透真だけはまだ元気だった。
「今日ほんと星すごかったね!」
「透真先輩、
ずっとテンション高かったです」
琉衣が笑う。
「だって夏の星だよ!?」
「今年も騒いでるねぇ」
和希がくすっと笑った。
「去年もすごかったよね」
「今年もしますけど!?」
「知ってる」
その返しに、
みんな少し笑う。
☆
その時。
和希がぱんっと手を叩いた。
「というわけで!」
「?」
「今から肝試ししまーす!」
「えっ!?」
透真が一番驚いた。
「やるやる!」
夕花は即反応する。
「絶対楽しそう!」
「怖そう……」
紬は少し困ったように笑う。
裕翔は嫌そうな顔だった。
「山じゃん……」
「虫出そう」
「そこ?」
透真が笑う。
☆
「ペアどうするんですか?」
伊織が静かに聞く。
その瞬間。
空気が少し止まった。
「……」
「……」
「……」
透真だけが分かっていない。
「自由?」
夕花が聞く。
薫は何も言わず視線を逸らした。
裕翔も黙る。
その中で。
「透真先輩と行きたいです」
琉衣が即答した。
全員そっちを見る。
「言った……」
夕花が小声で呟く。
「え?」
透真はきょとんとしていた。
「なんで!?」
「透真先輩とがいいからです」
さらっと言う。
しかも距離近い。
透真は普通に笑った。
「琉衣くん怖がり?」
「どうでしょう」
「え、気になる」
平和だった。
☆
その空気を見て。
神代先生が小さく息を吐く。
「……くじ引きにするか」
「先生!!」
裕翔が即反応する。
「ナイス判断」
薫も珍しく同意した。
「え、そんなに?」
透真だけ分かっていない。
☆
数分後。
くじ引き完成。
和希が箱を揺らしながら笑う。
「はい、
順番に引いて〜」
☆
透真&琉衣
裕翔&夕花
薫&紬
☆
「うわ、
琉衣くん持ってるな〜」
夕花が笑う。
裕翔は微妙な顔だった。
薫は無言。
紬は少しだけ安心したように、
薫を見上げている。
一方。
「やった」
琉衣だけ分かりやすかった。
「そんな嬉しい?」
透真が笑う。
「嬉しいです」
即答だった。
しかも目がきらきらしている。
透真は普通に嬉しそうに笑った。
「そっか〜」
平和。
☆
「じゃあ順番に行くぞ〜」
和希が懐中電灯を振る。
「コースは裏山一周!」
「普通に怖そうなんだけど」
裕翔が引く。
「山道から外れるなよ」
神代先生が静かに言った。
「あと走るな」
「はーい」
返事だけは良い。
☆
「じゃあ一組目!」
和希が笑う。
「裕翔くん&夕花ちゃん、
行ってらっしゃーい」
「え、
もう!?」
「頑張れ〜」
夕花はまだ元気だった。
「余裕だし!」
「叫ぶなよ!?」
「叫ばない!」
そのまま二人は、
夜の山道へ消えていく。
☆
静かな夜。
虫の声。
木々の揺れる音。
暗い山道の先を見ながら、
透真がぽつりと呟く。
「……なんか、
ほんとに怖くなってきたかも」
その隣で。
琉衣が少しだけ笑った。
「先輩」
「ん?」
「近くいます?」
「え、
怖いの?」
「どうでしょう」
そう言いながら、
自然に距離を詰める。
透真は気付かない。
でも。
琉衣は少しだけ嬉しそうだった。
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