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【第8章】第6話「肝試し 前編」


 それは、

夏休みに入る少し前の放課後だった。



 部室には、

和希と昴だけが残っていた。


 窓の外は夕焼け色。


 夏前のぬるい風が、

カーテンを揺らしている。


「ねえ」


 和希が机へ頬杖をつく。


「今年さ、

肝試しやりたくない?」


 昴が顔を上げる。


「なんで急に」


「去年やれなかったし」


 和希は笑った。


「人数増えたし、

絶対楽しいじゃん」


「子どもか」


「青春だよ青春」


 昴は少し呆れた顔をする。


 でも。


 否定はしなかった。



 その時。


 部室の扉が開く。


「……何してるんですか」


 入ってきたのは伊織だった。


「あ、伊織くんちょうどいい」


「嫌な予感しかしないんですけど」


「肝試しやるから手伝って」


「なんでですか」


 即答だった。


 昴が静かに言う。


「人数欲しい」


「怖がらせ役」


「……帰っていいですか」


「だめ」


 和希がにこにこ笑う。


 伊織は小さくため息をついた。



 さらに数日後。


 職員室。


「……肝試し?」


 神代先生が書類から顔を上げる。


「はい!」


 和希が元気よく頷く。


「合宿っぽいことしたくて!」


「安全面は確認します」


 昴も静かに続けた。


「コースも宿の周りだけにする予定です」


 神代先生は少し黙る。


 そして小さく息を吐いた。


「……山道から外れるなよ」


「やった!」


 和希が嬉しそうに笑う。


「あと騒ぎすぎるな」


「善処します!」


「信用できないな」


 でも神代先生は、

止めなかった。



 そして現在。


 合宿二日目の夜。


 観測を終えた食堂には、

まだ眠る気のない空気が残っていた。


 夕花と紬はジュースを飲みながら話している。


 裕翔は椅子へだらっと座り込み、

薫は眠そうに机へ肘をついていた。


 透真だけはまだ元気だった。


「今日ほんと星すごかったね!」


「透真先輩、

ずっとテンション高かったです」


 琉衣が笑う。


「だって夏の星だよ!?」


「今年も騒いでるねぇ」


 和希がくすっと笑った。


「去年もすごかったよね」


「今年もしますけど!?」


「知ってる」


 その返しに、

みんな少し笑う。



 その時。


 和希がぱんっと手を叩いた。


「というわけで!」


「?」


「今から肝試ししまーす!」


「えっ!?」


 透真が一番驚いた。


「やるやる!」


 夕花は即反応する。


「絶対楽しそう!」


「怖そう……」


 紬は少し困ったように笑う。


 裕翔は嫌そうな顔だった。


「山じゃん……」


「虫出そう」


「そこ?」


 透真が笑う。



「ペアどうするんですか?」


 伊織が静かに聞く。


 その瞬間。


 空気が少し止まった。


「……」


「……」


「……」


 透真だけが分かっていない。


「自由?」


 夕花が聞く。


 薫は何も言わず視線を逸らした。


 裕翔も黙る。


 その中で。


「透真先輩と行きたいです」


 琉衣が即答した。


 全員そっちを見る。


「言った……」


 夕花が小声で呟く。


「え?」


 透真はきょとんとしていた。


「なんで!?」


「透真先輩とがいいからです」


 さらっと言う。


 しかも距離近い。


 透真は普通に笑った。


「琉衣くん怖がり?」


「どうでしょう」


「え、気になる」


 平和だった。



 その空気を見て。


 神代先生が小さく息を吐く。


「……くじ引きにするか」


「先生!!」


 裕翔が即反応する。


「ナイス判断」


 薫も珍しく同意した。


「え、そんなに?」


 透真だけ分かっていない。



 数分後。


 くじ引き完成。


 和希が箱を揺らしながら笑う。


「はい、

順番に引いて〜」



 透真&琉衣


 裕翔&夕花


 薫&紬



「うわ、

琉衣くん持ってるな〜」


 夕花が笑う。


 裕翔は微妙な顔だった。


 薫は無言。


 紬は少しだけ安心したように、

薫を見上げている。


 一方。


「やった」


 琉衣だけ分かりやすかった。


「そんな嬉しい?」


 透真が笑う。


「嬉しいです」


 即答だった。


 しかも目がきらきらしている。


 透真は普通に嬉しそうに笑った。


「そっか〜」


 平和。



「じゃあ順番に行くぞ〜」


 和希が懐中電灯を振る。


「コースは裏山一周!」


「普通に怖そうなんだけど」


 裕翔が引く。


「山道から外れるなよ」


 神代先生が静かに言った。


「あと走るな」


「はーい」


 返事だけは良い。



「じゃあ一組目!」


 和希が笑う。


「裕翔くん&夕花ちゃん、

行ってらっしゃーい」


「え、

もう!?」


「頑張れ〜」


 夕花はまだ元気だった。


「余裕だし!」


「叫ぶなよ!?」


「叫ばない!」


 そのまま二人は、

夜の山道へ消えていく。



 静かな夜。


 虫の声。


 木々の揺れる音。


 暗い山道の先を見ながら、

透真がぽつりと呟く。


「……なんか、

ほんとに怖くなってきたかも」


 その隣で。


 琉衣が少しだけ笑った。


「先輩」


「ん?」


「近くいます?」


「え、

怖いの?」


「どうでしょう」


 そう言いながら、

自然に距離を詰める。


 透真は気付かない。


 でも。


 琉衣は少しだけ嬉しそうだった。

読んでいただきありがとうございます!

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

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