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【第8章】第2話「後輩のいる景色」


 夏休み初日。


 夕方のスーパーは、学校帰りの学生や買い物客で少し混み合っていた。


「買い出しって、

なんか夏休み感あるよねぇ」


 和希が買い物カゴを持ちながら笑う。


「わかります!」


 透真がすぐ反応した。


「合宿始まる感じする!」


「まだ準備段階だけどな」


 薫が冷静に返す。


 でもその声も、

どこか少しだけ柔らかかった。



 今回の買い出しメンバーは、


 和希、昴、透真、薫、琉衣。


 そして引率の神代先生。


 去年と同じようで、

少し違う顔ぶれだった。


「透真先輩」


「ん?」


 飲み物コーナーで、

琉衣が段ボール箱へ手を伸ばす。


「それ重そうじゃないですか」


「え?」


「持ちます」


 透真が目を瞬かせる。


「ほんと?

ありがと〜!」


 琉衣はそのまま箱を持ち上げた。


 本当に自然だった。


 去年の自分なら、

きっと先輩たちに持ってもらっていた。


 でも今は違う。


 数歩歩いたあと、

透真がふと隣を見る。


「あ、でも重くない?」


「透真先輩よりは平気です」


「どういう意味!?」


 琉衣が少し笑う。


「この前も機材、

重そうに持ってたので」


「ちゃんと持ててたもん!」


「途中で持ち直してましたよね」


「見てたの!?」


「見ますよ」


 さらっと返されて、

透真が少しだけ言葉に詰まる。


 その反応を見て、

琉衣は満足そうに目を細めた。


 でも次の瞬間。


「あ、じゃあ半分持つ?」


 透真が当たり前みたいに、

箱の反対側へ手を添える。


「一人だと大変でしょ」


 その声は自然だった。


 琉衣は一瞬だけ目を見開く。


 こういうところだ。


 無防備に優しい。


 だから困る。


「……透真先輩って、

そういうとこありますよね」


「え?」


「なんでもないです」


 琉衣は小さく笑った。



 少し前を歩いていた和希が、

その様子を見て肩を震わせる。


「なんか普通に先輩してるねぇ」


「してるな」


 昴も静かに頷いた。


「去年、

機材ケースでふらついてたのに」


「やめてくださいって!」


 透真が即座に反応する。


「あれ重かったんですよ!?」


「今年は後輩の前だから頑張ってる?」


 和希がにやにやする。


「え?」


 透真は本気で意味が分かっていない顔をした。


「普通じゃないですか?」


「普通らしいぞ」


 薫がぼそっと言う。



「お菓子どれにする?」


 和希が棚を見上げる。


「合宿ってお菓子大事じゃないですか!」


 透真が真剣な顔で言った。


「遠足かよ」


 薫が呆れる。


「え、だって夜お腹空くし……」


「去年も同じこと言ってた」


 昴が静かに言った。


「しかも透真くん、

星見ながら全部食べてたよねぇ」


「観測って体力使うんです!」


「言い訳がそれっぽい」


 和希が笑う。



「俺、アイス食べたい」


 透真が冷凍ケースを覗き込む。


「帰るまでに溶ける」


 薫が即答する。


「じゃあ今食べる」


「子どもか」


「薫冷たくない!?」


「事実だろ」


 そんなやり取りを見て、

昴が小さく笑った。


 去年と同じ。


 でも少し違う。


 透真は相変わらず騒がしい。


 でも今は、

ちゃんと後輩の隣に立っている。



 神代先生は、

少し後ろを歩いていた。


 去年の買い出し。


 透真は和希たちの後ろを、

目を輝かせながらついて回っていた。


 それが今年は。


 自然に琉衣を気にかけて、

隣へ並んで歩いている。


 無理をしている感じはない。


 ただ自然に。


 その位置に立っていた。


「……変わったな」


 神代先生が小さく呟く。


 でも次の瞬間。


「わ、限定味ある!!」


と騒ぎながらアイスコーナーへ走る透真を見て、

少しだけ訂正したくなった。


「……いや、変わってないか」


 その声は、

夏前の夕暮れへ静かに溶けていった。

読んでいただきありがとうございます!

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

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