【第8章】第2話「後輩のいる景色」
夏休み初日。
夕方のスーパーは、学校帰りの学生や買い物客で少し混み合っていた。
「買い出しって、
なんか夏休み感あるよねぇ」
和希が買い物カゴを持ちながら笑う。
「わかります!」
透真がすぐ反応した。
「合宿始まる感じする!」
「まだ準備段階だけどな」
薫が冷静に返す。
でもその声も、
どこか少しだけ柔らかかった。
☆
今回の買い出しメンバーは、
和希、昴、透真、薫、琉衣。
そして引率の神代先生。
去年と同じようで、
少し違う顔ぶれだった。
「透真先輩」
「ん?」
飲み物コーナーで、
琉衣が段ボール箱へ手を伸ばす。
「それ重そうじゃないですか」
「え?」
「持ちます」
透真が目を瞬かせる。
「ほんと?
ありがと〜!」
琉衣はそのまま箱を持ち上げた。
本当に自然だった。
去年の自分なら、
きっと先輩たちに持ってもらっていた。
でも今は違う。
数歩歩いたあと、
透真がふと隣を見る。
「あ、でも重くない?」
「透真先輩よりは平気です」
「どういう意味!?」
琉衣が少し笑う。
「この前も機材、
重そうに持ってたので」
「ちゃんと持ててたもん!」
「途中で持ち直してましたよね」
「見てたの!?」
「見ますよ」
さらっと返されて、
透真が少しだけ言葉に詰まる。
その反応を見て、
琉衣は満足そうに目を細めた。
でも次の瞬間。
「あ、じゃあ半分持つ?」
透真が当たり前みたいに、
箱の反対側へ手を添える。
「一人だと大変でしょ」
その声は自然だった。
琉衣は一瞬だけ目を見開く。
こういうところだ。
無防備に優しい。
だから困る。
「……透真先輩って、
そういうとこありますよね」
「え?」
「なんでもないです」
琉衣は小さく笑った。
☆
少し前を歩いていた和希が、
その様子を見て肩を震わせる。
「なんか普通に先輩してるねぇ」
「してるな」
昴も静かに頷いた。
「去年、
機材ケースでふらついてたのに」
「やめてくださいって!」
透真が即座に反応する。
「あれ重かったんですよ!?」
「今年は後輩の前だから頑張ってる?」
和希がにやにやする。
「え?」
透真は本気で意味が分かっていない顔をした。
「普通じゃないですか?」
「普通らしいぞ」
薫がぼそっと言う。
☆
「お菓子どれにする?」
和希が棚を見上げる。
「合宿ってお菓子大事じゃないですか!」
透真が真剣な顔で言った。
「遠足かよ」
薫が呆れる。
「え、だって夜お腹空くし……」
「去年も同じこと言ってた」
昴が静かに言った。
「しかも透真くん、
星見ながら全部食べてたよねぇ」
「観測って体力使うんです!」
「言い訳がそれっぽい」
和希が笑う。
☆
「俺、アイス食べたい」
透真が冷凍ケースを覗き込む。
「帰るまでに溶ける」
薫が即答する。
「じゃあ今食べる」
「子どもか」
「薫冷たくない!?」
「事実だろ」
そんなやり取りを見て、
昴が小さく笑った。
去年と同じ。
でも少し違う。
透真は相変わらず騒がしい。
でも今は、
ちゃんと後輩の隣に立っている。
☆
神代先生は、
少し後ろを歩いていた。
去年の買い出し。
透真は和希たちの後ろを、
目を輝かせながらついて回っていた。
それが今年は。
自然に琉衣を気にかけて、
隣へ並んで歩いている。
無理をしている感じはない。
ただ自然に。
その位置に立っていた。
「……変わったな」
神代先生が小さく呟く。
でも次の瞬間。
「わ、限定味ある!!」
と騒ぎながらアイスコーナーへ走る透真を見て、
少しだけ訂正したくなった。
「……いや、変わってないか」
その声は、
夏前の夕暮れへ静かに溶けていった。
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