表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/69

【第8章 2度目の夏】第1話「夏が始まる」


 期末テスト最終日。


 解放感に包まれた校舎は、いつもよりずっと騒がしかった。


 廊下には「終わったー!」という声が響き、窓の外には強い夏の日差しが広がっている。


 そんな空気のまま、放課後の天文部もどこか浮ついていた。


「というわけで」


 部室の前方。


 神代先生がプリントを軽く持ち上げる。


「今年の夏合宿について説明する」


 その瞬間。


「きたー!!」


 夕花が机に身を乗り出した。


「今年も花火やります!?!?」


「まず話を聞け」


「はーい!」


 でも全然落ち着いていない。


 その様子に和希が笑う。


「去年もこんな感じだったねぇ」


「去年は透真くんが一番騒いでた」


 昴が静かに言った。


「え?」


 透真が顔を上げる。


「そんなことないですよ!」


「望遠鏡見て大騒ぎしてた」


 薫が即答する。


「木星! 縞見える!! って」


 裕翔が真似すると、部室に笑いが広がった。


「今年もしますけど!?」


 透真がむっとする。


「だって星綺麗だし!」


「変わってないねぇ」


 和希が肩を震わせた。


 でもその目はどこか優しかった。



「あと今年は、

機材の引き継ぎも兼ねる」


 昴が棚のファイルを取り出す。


「去年までは俺と和希中心だったから」


「……多くないですか」


 薫がリストを見て顔をしかめた。


「赤道儀、鏡筒、予備レンズ、三脚……」


「覚えろ」


「雑」


 その横から。


「え、やる!」


 透真が勢いよく顔を上げた。


「は?」


 薫が振り返る。


「機材チェックやりたい!」


 透真は完全に本気だった。


「だって楽しいし!」


「楽しいのかよ」


「楽しいでしょ!?」


 むしろなんで分からないの、みたいな顔をする。


 昴が少しだけ笑った。


「透真なら向いてるかもな」


「ほんとですか!」


 ぱっと顔が明るくなる。


「去年、

赤道儀ちょっとズレてたの覚えてます」


「……覚えてたのか」


「あと三脚一個ネジ緩かったですよね?」


 昴が一瞬だけ目を丸くした。


 ちゃんと見ていたんだな、と分かる。


「じゃあ薫、

透真と一緒に確認しろ」


「俺もですか」


「一人よりマシだろ」


 薫は少し面倒そうな顔をしながらも、

「……はい」と頷いた。



「薫、これ去年どこ入れてたっけ」


「そこじゃない」


「あ、こっちか!」


「雑に入れるな」


「はーい」


 さっそく始まった機材整理。


 でも透真は妙に楽しそうだった。


「これ合宿で使うんだよね?」


「使う」


「うわ、楽しみ」


「お前こういう時だけ元気だな」


「だって好きだし!」


 即答だった。


 薫は少し呆れながらも、

どこか楽しそうに透真を見る。



 一方。


「しおりどうする〜?」


 和希が机いっぱいに紙を広げる。


「去年の写真、

使います?」


 紬が隣で静かに聞いた。


「いいねぇ」


「透真くん絶対喜ぶ」


「確かに」


 二人でレイアウトを考えながら、小さく笑う。


 去年は和希一人で作っていた。


 でも今年は違う。


 少しずつ。


 ちゃんと受け継がれていく。



「俺、肝試しやりたい」


 裕翔が突然言う。


「え、いいじゃん!」


 夕花が即乗った。


「絶対面白い!」


「虫出るだろ」


 薫が嫌そうに言う。


「そこ?」


「山の虫デカいんだよ」


「情けな〜」


「うるせえ」


 部室に笑い声が広がる。


 その横で、伊織は静かに本を読んでいた。


 でもページをめくる手は、

少しだけ穏やかだった。



「琉衣くん!」


「はい」


 透真がぱっと振り返る。


「去年さ、

夜中めちゃくちゃ星見えたんだよ!」


 その声は本当に楽しそうだった。


「天の川もすごかったし、

夏の大三角めっちゃ綺麗で!」


「そんなにですか?」


「ほんとに!」


 透真は身振りまでつけながら話す。


「あと空気静かだから、

星めっちゃ近く感じるんだよね」


「……透真先輩、

絶対テンション上がりますよね」


「上がる!」


 即答だった。


 琉衣が少し笑う。


「知ってました」


「え?」


「去年の話してる時点で、

もう楽しそうだったので」


 透真はきょとんとしたあと、

少し照れたように笑った。


「だって楽しみだし!」


「はい。

知ってます」


 その返事は、

少しだけ甘かった。


 去年。


 自分はまだ、

この場所にいなかった。


 でも今年は。


 透真の隣で、

同じ星を見られる。


 しかも。


 その“楽しみ”の中に、

自分もいる。


 それだけで、

十分嬉しかった。



 神代先生は、

そんな部室を静かに見ていた。


 去年。


 透真が一人入っただけで、

この部の空気は変わった。


 そして今年。


 琉衣が入った。


 また一人。


 でも。


 それ以上に大きく変わったものがある。


 部室の中心で、

楽しそうに機材を触っている透真。


 去年は、

先輩たちの後ろを追いかけていた生徒が。


 今は自然に、

後輩へ夏を語っている。


「……今年も賑やかになりそうだ」


 神代先生は小さく呟いた。


 その声は、

夏の始まりの空気へ静かに溶けていった。

読んでいただきありがとうございます!

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

続きが気になったら評価やブックマークをお願いします


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ