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【第7章】第8話「初夏の風」


夜の屋上。


初夏の風が、

少し強く吹いていた。



「うわ、

今日風すごいね!」


透真が髪を押さえながら笑う。


「飛ばされんなよ」


薫が呆れた声を出す。


「そこまで弱くない!」


「どうだか」



期末テストも終わり。


久しぶりの観測会だった。


新学年になってから、

もう数ヶ月。


気付けば。


琉衣がいる光景も、

少しずつ当たり前になっている。



望遠鏡を準備する昴。


機材を確認する和希。


星図を広げる伊織。


夕花と紬は、

赤いセロファンを付けたライトを整えている。


裕翔は脚立を運びながら、

小さく息を吐いた。



その中心で。


透真は相変わらず、

楽しそうだった。



「琉衣くん!」


「はい」


「今日、

夏の大三角見えるかも!」


透真が嬉しそうに手を振る。


琉衣は自然と、

その隣へ向かった。



「こっち!」


透真が空を指差す。


「夏ってさ、

明るい星多いんだよ」


「ほら、

あれがベガ」


琉衣も空を見上げる。


夜空に浮かぶ星は、

静かに綺麗だった。



「……綺麗ですね」


琉衣が小さく言う。


「でしょ!」


透真が笑う。


その笑顔を見るだけで、

胸が苦しくなる。



少し離れた場所。


「また隣行ってる」


夕花がぼそっと言う。


「早いよねぇ、

距離詰めるの」


和希が苦笑した。



「透真が許してるからだろ」


薫が空を見上げる。


その声は、

少し複雑だった。



でも。


誰も、

琉衣を拒まなくなっていた。



最初は、

“後輩”だった。


突然現れて。


透真へ一直線で。


空気を掻き回して。


みんなを揺らした。



でも今。


琉衣もちゃんと、

この場所にいる。



「裕翔ー!」


透真が振り返る。


「その星座、

何座だっけ!」


「お前さっき説明してただろ」


「忘れた!」


「はぁ……」


呆れながら、

裕翔は透真の隣へ行く。



「紬!」


「あ、うん」


「そのライト綺麗!」


「……ありがと」


紬が少し笑う。



「昴先輩!」


「ん?」


「写真撮れそう!?」


「今調整中」


「楽しみ!」



「和希先輩、

寒くない?」


「透真くんが薄着すぎるだけ」


「えー」


和希が苦笑しながら、

自分の上着を透真へ軽く掛ける。


「羽織っときな」


「ありがとう!」


自然だった。



その光景を見ながら。


琉衣は静かに思う。



透真は、

みんなに笑う。


みんなの隣へ行く。


誰か一人だけを、

特別にしない。



でも。


それでも。



「透真先輩」


「ん?」


「俺、

天文部入ってよかったです」


透真が少し目を丸くする。


それから。


嬉しそうに笑った。


「俺も!」



その言葉に。


琉衣の胸が、

また少しだけ熱くなる。



初夏の夜風が吹く。


星が揺れる。


関係も、

少しずつ変わっていく。



先輩と後輩。


同級生。


幼馴染。


積み重ねた時間。


新しく始まった距離。


全部が混ざりながら。



それでも。


この場所は、

ちゃんと天文部だった。



夜空には、

少しずつ夏の星が増え始めていた。


季節は、

もう次へ向かっている。

読んでいただきありがとうございます!

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

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