【第7章】第8話「初夏の風」
夜の屋上。
初夏の風が、
少し強く吹いていた。
☆
「うわ、
今日風すごいね!」
透真が髪を押さえながら笑う。
「飛ばされんなよ」
薫が呆れた声を出す。
「そこまで弱くない!」
「どうだか」
☆
期末テストも終わり。
久しぶりの観測会だった。
新学年になってから、
もう数ヶ月。
気付けば。
琉衣がいる光景も、
少しずつ当たり前になっている。
☆
望遠鏡を準備する昴。
機材を確認する和希。
星図を広げる伊織。
夕花と紬は、
赤いセロファンを付けたライトを整えている。
裕翔は脚立を運びながら、
小さく息を吐いた。
☆
その中心で。
透真は相変わらず、
楽しそうだった。
☆
「琉衣くん!」
「はい」
「今日、
夏の大三角見えるかも!」
透真が嬉しそうに手を振る。
琉衣は自然と、
その隣へ向かった。
☆
「こっち!」
透真が空を指差す。
「夏ってさ、
明るい星多いんだよ」
「ほら、
あれがベガ」
琉衣も空を見上げる。
夜空に浮かぶ星は、
静かに綺麗だった。
☆
「……綺麗ですね」
琉衣が小さく言う。
「でしょ!」
透真が笑う。
その笑顔を見るだけで、
胸が苦しくなる。
☆
少し離れた場所。
「また隣行ってる」
夕花がぼそっと言う。
「早いよねぇ、
距離詰めるの」
和希が苦笑した。
☆
「透真が許してるからだろ」
薫が空を見上げる。
その声は、
少し複雑だった。
☆
でも。
誰も、
琉衣を拒まなくなっていた。
☆
最初は、
“後輩”だった。
突然現れて。
透真へ一直線で。
空気を掻き回して。
みんなを揺らした。
☆
でも今。
琉衣もちゃんと、
この場所にいる。
☆
「裕翔ー!」
透真が振り返る。
「その星座、
何座だっけ!」
「お前さっき説明してただろ」
「忘れた!」
「はぁ……」
呆れながら、
裕翔は透真の隣へ行く。
☆
「紬!」
「あ、うん」
「そのライト綺麗!」
「……ありがと」
紬が少し笑う。
☆
「昴先輩!」
「ん?」
「写真撮れそう!?」
「今調整中」
「楽しみ!」
☆
「和希先輩、
寒くない?」
「透真くんが薄着すぎるだけ」
「えー」
和希が苦笑しながら、
自分の上着を透真へ軽く掛ける。
「羽織っときな」
「ありがとう!」
自然だった。
☆
その光景を見ながら。
琉衣は静かに思う。
☆
透真は、
みんなに笑う。
みんなの隣へ行く。
誰か一人だけを、
特別にしない。
☆
でも。
それでも。
☆
「透真先輩」
「ん?」
「俺、
天文部入ってよかったです」
透真が少し目を丸くする。
それから。
嬉しそうに笑った。
「俺も!」
☆
その言葉に。
琉衣の胸が、
また少しだけ熱くなる。
☆
初夏の夜風が吹く。
星が揺れる。
関係も、
少しずつ変わっていく。
☆
先輩と後輩。
同級生。
幼馴染。
積み重ねた時間。
新しく始まった距離。
全部が混ざりながら。
☆
それでも。
この場所は、
ちゃんと天文部だった。
☆
夜空には、
少しずつ夏の星が増え始めていた。
季節は、
もう次へ向かっている。
読んでいただきありがとうございます!
ー
毎日21時に投稿予定です५✍⋆*
続きが気になったら評価やブックマークをお願いします




