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【第7章】第7話「先輩」


六月の終わり。


放課後の空は、

少しずつ夏の色に変わり始めていた。


窓の外では、

運動部の声が遠く聞こえる。



部室の隅。


琉衣は教科書を開いたまま、

難しい顔をしていた。



「……あ」


部室に入ってきた透真が、

足を止める。


「琉衣くん、

疲れてる?」


「え」


顔を上げた琉衣に、

透真が近付く。



「顔、

ちょっと眠そう」


そう言いながら、

自然に隣へ座る。


その距離が近い。


でも、

押し付ける感じは全然ない。



「期末近いので」


「そっかぁ」


透真が教科書を覗き込む。


「数学?」


「はい」


「うわ、

俺も苦手」


真顔だった。



「透真先輩だって、

テスト近いけど大丈夫なんですか?」


琉衣が少し心配そうに聞く。


すると透真は、

けろっと笑った。


「薫に教えてもらうから大丈夫!」


「おい」


少し離れた場所から、

薫の声が飛ぶ。



「また人頼りかよ」


「だって薫、

教えるの上手いし」


「……」


薫が少し黙る。


その空気に、

和希が吹き出した。


「嬉しそうじゃん」


「違ぇよ」



琉衣は、

そのやり取りを静かに見ていた。


自然な距離。


積み重ねた時間。


自分の知らない一年。



でも。


透真はちゃんと、

今は自分の隣にいる。



「ここさ」


透真が教科書を指差す。


「この公式、

去年めっちゃ間違えた」


「誇ることじゃないですよ」


「でも最終的にできた!」


なぜか自慢げだった。



「透真先輩、

教えるの意外と分かりやすいです」


「ほんと!?」


透真の目が輝く。


「やった!」


その笑顔が、

少しだけ“先輩”だった。



観測準備中。


脚立を持とうとした琉衣に。


「重くない?」


透真が声を掛ける。


「大丈夫です」


「ほんと?

無理しないでね」


自然に隣へ行く。


その動きが、

もう当たり前みたいだった。



「透真先輩」


「ん?」


「先輩って、

そういうとこですよね」


「え?」


「……優しいです」


透真は少し照れたように笑った。


「普通だよ」


普通じゃない。


琉衣は心の中で思う。



帰り支度。


窓の外は、

少しだけ夏の夜の色だった。



「そういえばさ!」


透真が空を見上げる。


「期末終わったら、

夏の星見えるよ」


「夏の星座、

好きなんですか?」


「好き!」


透真の目がぱっと輝く。


「夏って、

天の川すごい綺麗なんだよ」


嬉しそうに話す横顔。


琉衣は静かにそれを見る。



「あと夏休み、

天文部合宿あるから」


「え」


「いっぱい星見れるよー」


透真が笑う。


「琉衣くんにも、

夏の星座教えてあげる!」



その瞬間。


琉衣の呼吸が、

少し止まる。



“夏休み”


“合宿”


“一緒に星を見る”


その未来を。


透真は、

当たり前みたいに話す。



「……はい」


琉衣は小さく返事をした。


でも。


胸の奥は、

全然落ち着かなかった。



少し後ろ。


既存メンバーたちは、

その様子を見ていた。



「もう夏合宿の話してる」


夕花が小さく呟く。


「自然に未来へ入れてるねぇ」


和希が苦笑する。



「……ずるい」


裕翔がぼそっと言う。


「何が」


薫が聞き返す。


「透真、

ああいうの無意識だから」



伊織が静かに笑った。


「琉衣くん、

また好きになってる」


「なってる」


紬も小さく頷く。



その中心で。


透真だけが、

いつも通り笑っていた。


自分が今、

どれだけ“先輩”らしい顔をしているのかも知らずに。

読んでいただきありがとうございます!

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

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