【第7章】第5話「同じように笑う」
放課後。
天文部の部室には、
いつもの空気が流れていた。
窓の外は、
少しずつ春の色になっている。
☆
「透真先輩」
琉衣が自然に隣へ座る。
もう誰も驚かない。
「今日の授業、
眠くなかったですか?」
「なった!」
透真が即答した。
「英語で一回意識飛んだ」
「だと思いました」
琉衣が小さく笑う。
距離が近い。
声も近い。
視線も近い。
☆
「……また隣」
薫がぼそっと呟く。
「固定席だねぇ」
和希が笑った。
☆
でも。
透真は、
相変わらずだった。
☆
「そういえばさ〜」
突然、
透真が裕翔を見る。
「次の試合いつなの?」
「え?」
裕翔が目を瞬かせる。
「来月」
「ほんと!?
応援行きたい!」
透真が身を乗り出す。
「この前の試合、
結局行けなかったし」
「……おう」
裕翔の耳が少し赤い。
嬉しい。
でも。
その直後。
「透真先輩、
この前の観測写真なんですけど」
琉衣が自然に会話へ入る。
裕翔、
複雑。
☆
「あ!」
透真が今度は紬を見る。
「いつも可愛いけど、
今日の髪型可愛いねー」
部室が静かになった。
☆
紬が固まる。
「……え」
「なんかふわふわしてる」
透真は本気で思ったことを言っている。
悪気ゼロ。
下心ゼロ。
☆
夕花が顔を押さえた。
「それ、
さらっと言えるの何……」
「天然」
薫が即答する。
☆
紬は小さく俯いた。
耳だけ真っ赤だった。
☆
「昴先輩!」
次の瞬間、
透真がぱっと振り返る。
「そういえば、
この前言ってた星雲の写真〜」
昴が視線を上げる。
「整理した?」
「少しだけ」
「見たい!」
透真がすぐ近くまで来る。
完全に距離が近い。
☆
昴は少しだけ笑った。
「後で見せる」
「やった!」
その嬉しそうな顔に、
昴の目が少し柔らかくなる。
☆
「ねーねー和希先輩」
透真が今度は和希の隣へ行く。
「これ難しい〜」
そう言いながら、
自然に袖を掴む。
距離が近い。
甘え方が自然すぎる。
☆
「はいはい、
どこ?」
和希が苦笑しながら資料を見る。
「ここ!」
「それ、
式逆」
「えっ」
透真がショックを受ける。
和希が吹き出した。
「透真くん、
ほんと危なっかしいなぁ」
その声が、
少し優しい。
☆
少し離れた場所。
琉衣が静かにその様子を見ていた。
☆
「薫ー」
今度は薫。
「クラス離れたから、
ノート借りれずに大変だよー」
「知らねぇよ」
即答。
でも。
「……必要なら貸すけど」
「ほんと!?」
透真が笑う。
「助かる!」
その顔を見ると。
薫もそれ以上冷たくできない。
☆
「伊織」
透真が本を覗き込む。
「その本どんな本?」
伊織は少しだけ目を丸くした。
「……星の神話」
「え、面白そう!」
透真は本当に興味を持った顔をする。
「あとで見せて」
「うん」
伊織は静かに笑った。
☆
その光景を。
琉衣は、
黙って見ていた。
☆
透真は誰にでも話しかける。
自然に笑う。
距離が近い。
でも。
相手ごとに、
少しずつ違う。
☆
裕翔には、
幼馴染みたいに。
薫には、
遠慮なく。
和希には、
甘えるように。
昴には、
星を追いかける顔で。
伊織には、
静かに寄り添うように。
夕花や紬には、
何気なく優しい。
☆
そして。
自分にも。
「透真先輩」
呼べば、
ちゃんと笑ってくれる。
☆
でも。
琉衣は少しだけ気付いていた。
自分が知らない時間が、
ここにはたくさんある。
積み重ねた距離がある。
☆
「……どうしたの?」
透真が首を傾げる。
琉衣ははっとする。
「いえ」
「眠い?」
「違います」
透真が笑う。
「変なの」
その笑顔は。
やっぱり、
誰に向ける時とも同じだった。
☆
だからこそ。
みんな、
揺れるのだ。
読んでいただきありがとうございます!
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