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【第7章】第5話「同じように笑う」


放課後。


天文部の部室には、

いつもの空気が流れていた。


窓の外は、

少しずつ春の色になっている。



「透真先輩」


琉衣が自然に隣へ座る。


もう誰も驚かない。


「今日の授業、

眠くなかったですか?」


「なった!」


透真が即答した。


「英語で一回意識飛んだ」


「だと思いました」


琉衣が小さく笑う。


距離が近い。


声も近い。


視線も近い。



「……また隣」


薫がぼそっと呟く。


「固定席だねぇ」


和希が笑った。



でも。


透真は、

相変わらずだった。



「そういえばさ〜」


突然、

透真が裕翔を見る。


「次の試合いつなの?」


「え?」


裕翔が目を瞬かせる。


「来月」


「ほんと!?

応援行きたい!」


透真が身を乗り出す。


「この前の試合、

結局行けなかったし」


「……おう」


裕翔の耳が少し赤い。


嬉しい。


でも。


その直後。


「透真先輩、

この前の観測写真なんですけど」


琉衣が自然に会話へ入る。


裕翔、

複雑。



「あ!」


透真が今度は紬を見る。


「いつも可愛いけど、

今日の髪型可愛いねー」


部室が静かになった。



紬が固まる。


「……え」


「なんかふわふわしてる」


透真は本気で思ったことを言っている。


悪気ゼロ。


下心ゼロ。



夕花が顔を押さえた。


「それ、

さらっと言えるの何……」


「天然」


薫が即答する。



紬は小さく俯いた。


耳だけ真っ赤だった。



「昴先輩!」


次の瞬間、

透真がぱっと振り返る。


「そういえば、

この前言ってた星雲の写真〜」


昴が視線を上げる。


「整理した?」


「少しだけ」


「見たい!」


透真がすぐ近くまで来る。


完全に距離が近い。



昴は少しだけ笑った。


「後で見せる」


「やった!」


その嬉しそうな顔に、

昴の目が少し柔らかくなる。



「ねーねー和希先輩」


透真が今度は和希の隣へ行く。


「これ難しい〜」


そう言いながら、

自然に袖を掴む。


距離が近い。


甘え方が自然すぎる。



「はいはい、

どこ?」


和希が苦笑しながら資料を見る。


「ここ!」


「それ、

式逆」


「えっ」


透真がショックを受ける。


和希が吹き出した。


「透真くん、

ほんと危なっかしいなぁ」


その声が、

少し優しい。



少し離れた場所。


琉衣が静かにその様子を見ていた。



「薫ー」


今度は薫。


「クラス離れたから、

ノート借りれずに大変だよー」


「知らねぇよ」


即答。


でも。


「……必要なら貸すけど」


「ほんと!?」


透真が笑う。


「助かる!」


その顔を見ると。


薫もそれ以上冷たくできない。



「伊織」


透真が本を覗き込む。


「その本どんな本?」


伊織は少しだけ目を丸くした。


「……星の神話」


「え、面白そう!」


透真は本当に興味を持った顔をする。


「あとで見せて」


「うん」


伊織は静かに笑った。



その光景を。


琉衣は、

黙って見ていた。



透真は誰にでも話しかける。


自然に笑う。


距離が近い。


でも。


相手ごとに、

少しずつ違う。



裕翔には、

幼馴染みたいに。


薫には、

遠慮なく。


和希には、

甘えるように。


昴には、

星を追いかける顔で。


伊織には、

静かに寄り添うように。


夕花や紬には、

何気なく優しい。



そして。


自分にも。


「透真先輩」


呼べば、

ちゃんと笑ってくれる。



でも。


琉衣は少しだけ気付いていた。


自分が知らない時間が、

ここにはたくさんある。


積み重ねた距離がある。



「……どうしたの?」


透真が首を傾げる。


琉衣ははっとする。


「いえ」


「眠い?」


「違います」


透真が笑う。


「変なの」


その笑顔は。


やっぱり、

誰に向ける時とも同じだった。



だからこそ。


みんな、

揺れるのだ。

読んでいただきありがとうございます!

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

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