【第7章】第4話「距離が近い後輩」
「透真先輩」
放課後。
部室の扉が開く。
その声だけで、
何人かが顔を上げた。
☆
「琉衣くん!」
透真がぱっと笑う。
「今日早いね」
「授業早く終わったので」
琉衣は自然な動きで、
透真の隣に座った。
近い。
かなり近い。
☆
「……またそこ座るんだ」
薫がぼそっと言う。
「空いてたので」
琉衣は涼しい顔だった。
その返しがまた強い。
☆
透真は全然気付いていない。
「琉衣くん、
星座覚えるの早いよね」
「透真先輩の説明、
分かりやすいです」
「え、ほんと!?」
「はい」
真っ直ぐ見つめる。
褒める。
距離近い。
逃げない。
☆
和希が小さく笑った。
「いやぁ……
すごい後輩入ったねぇ」
「分かりやすすぎる」
裕翔が引きつった顔をする。
「透真しか見えてなくない?」
「見えてないと思う」
紬が静かに言った。
☆
「透真先輩、
今日髪跳ねてます」
「えっ」
透真が慌てて前髪を触る。
「ほんとだ」
「かわいい」
「え?」
透真がきょとんとする。
琉衣は平然としていた。
☆
夕花が思わず立ち上がる。
「距離近!!」
「夕花ちゃん声出てる」
和希が笑う。
☆
観測準備中。
透真が脚立に乗ろうとすると。
「透真先輩、
危ないです」
琉衣が自然に脚立を支える。
「ありがとう!」
「いえ」
その距離。
近い。
自然すぎる。
☆
「……あいつ絶対計算してる」
薫が真顔で言う。
「してるねぇ」
和希が頷く。
「でも透真くん、
全部“懐かれてる”で処理してるからなぁ」
「そこが一番厄介」
昴が静かに言った。
☆
帰り道。
校門前。
「透真先輩」
「ん?」
「一緒帰ってもいいですか?」
自然。
あまりにも自然。
☆
「いいよ!」
透真は即答した。
「ちょうど駅まで一緒だしね」
「はい」
琉衣が嬉しそうに笑う。
☆
数歩後ろ。
裕翔が固まる。
「え、
普通に二人で帰るの?」
「マジか」
夕花が顔をしかめる。
薫は露骨に不機嫌だった。
「……なんなんだよあいつ」
「分かりやすすぎて逆に清々しいね」
和希は楽しそうだった。
☆
「透真先輩って、
優しいですよね」
帰り道。
琉衣がぽつりと言う。
「え?」
「文化祭の時も、
すごく助けられました」
透真は少し照れたように笑う。
「そんな大したことしてないよ」
「しました」
琉衣は迷いなく言った。
その目は真っ直ぐだった。
☆
透真は、
その視線の意味をまだ知らない。
ただ。
「琉衣くん、
ほんと素直だよねぇ」
嬉しそうに笑うだけ。
☆
翌日。
部室。
「おはようございます、
透真先輩」
「おはよー!」
琉衣、
透真の隣。
☆
「……またいる」
薫が呟く。
「もう固定席だね」
伊織が静かに言った。
「距離感バグってる」
裕翔が遠い目をする。
☆
その中心で。
透真だけが、
何も知らずに笑っていた。
「琉衣くん、
今日も来てくれて嬉しい!」
その一言で。
琉衣の機嫌が、
目に見えて良くなる。
☆
和希がぽつりと呟く。
「これ、
春の嵐っていうか……」
「台風レベルだろ」
薫が即答した。
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