【第7章】第3話「入部希望」
四月。
放課後。
新歓期間の天文部は、
少しだけ賑やかだった。
☆
「わ、望遠鏡すご!」
「プラネタリウムまた見たい!」
「星って意外と面白いかも」
部室には、
見学の一年生たちが何人か来ている。
友達同士で来た子。
なんとなく興味を持った子。
文化部を探している子。
春らしい空気。
☆
その中心で。
透真は楽しそうに話していた。
「これ木星!」
「今日、
衛星も見えるんだよ」
「えっほんと!?」
「ほんと!」
目をきらきらさせながら、
説明している。
完全に通常運転だった。
☆
「透真くん、
完全に生き生きしてるなぁ」
和希が笑う。
「新歓向いてるかもね」
裕翔も苦笑した。
「星の話し始めると止まんないけど」
「それはもう諦めてる」
昴が静かに言う。
☆
その少し離れた場所。
琉衣は椅子に座りながら、
透真を見ていた。
視線が、
分かりやすい。
隠す気がない。
☆
「……あれ絶対透真目当てだろ」
薫がぼそっと言う。
「だねぇ」
和希は即答だった。
「分かりやすすぎる」
「毎回透真くんしか見てない」
紬も小さく呟く。
夕花は腕を組む。
「なんかもう、
距離近いんだよね」
☆
「琉衣くん!」
透真がぱっと振り返る。
「今日も来てくれた!」
その笑顔に。
琉衣も自然と笑った。
「はい」
「嬉しい!」
距離が近い。
近すぎる。
☆
裕翔が小声で言う。
「懐くの早くない?」
「透真くんが無防備すぎる」
和希が苦笑する。
「誰にでもああだからなぁ」
「だから危ないんだろ」
薫が顔をしかめた。
☆
数日後。
見学者は少し減った。
さらに数日後。
もっと減った。
リアルだった。
☆
「今日少ないねぇ」
和希が部室を見回す。
「最初だけ来る人多いからな」
昴が言う。
「そっかぁ」
透真は少し残念そうだった。
でも。
その部室の隅には。
今日も、
琉衣がいた。
普通にいる。
自然にいる。
☆
「……まだいる」
薫がぼそっと呟く。
「いるね」
裕翔が頷く。
「毎回来てない?」
夕花が言う。
「来てる」
紬も静かに頷いた。
完全に包囲網だった。
☆
でも。
琉衣はそんな空気を気にしない。
むしろ真っ直ぐだった。
「透真先輩」
「ん?」
「今日の星、
何見えるんですか?」
「今日はね、
春の大三角!」
透真が嬉しそうに説明を始める。
その横顔を、
琉衣は楽しそうに見ていた。
☆
そして。
四月の終わり頃。
部室には、
もうほとんど見学者はいなくなっていた。
静かな放課後。
窓の外は夕焼け。
☆
「……入部したいです」
琉衣が、
真っ直ぐ言った。
部室が少し静かになる。
☆
透真の目がぱっと輝いた。
「ほんと!?」
「はい」
「嬉しい!!」
その笑顔が、
あまりにも嬉しそうで。
既存メンバーの空気が、
静かに死んだ。
☆
「よろしくね、琉衣くん!」
「はい」
琉衣も小さく笑う。
☆
その後ろ。
和希が肩を震わせる。
「これはもう確定だねぇ」
「何が」
透真が首を傾げる。
「なんでもないよ」
☆
神代先生が入部届を見る。
「今年の新入部員は一人か」
「でも濃いですよね」
和希が笑う。
「間違いない」
昴も静かに頷いた。
☆
薫は黙ったまま、
琉衣を見る。
裕翔は小さくため息をついた。
「……嫌な予感しかしない」
その言葉に。
夕花も、
紬も、
静かに同意していた。
☆
でも。
透真だけは、
何も気付いていなかった。
「これからよろしくね!」
そう言って笑う。
春の夕焼けの中。
新しい後輩は、
嬉しそうにその笑顔を見つめていた。
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