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【第6章】第8話「変わっていく季節」

―第6章「冬空と、君の体温」


 第8話「変わっていく季節」



三月。


冬の終わり。


放課後の空は、

少しだけ春の色をしていた。


冷たい風の中に、

柔らかな匂いが混ざっている。



部室の机には、

進路希望調査票が並んでいた。


「うわ、現実だ」


和希が紙を見ながら苦笑する。


「あと一年かぁ……」


ぽつりと落ちた声。


その言葉に、

部室が少し静かになる。



昴は窓際に立ちながら、

夕焼けを見ていた。


「早いな」


静かな声。


でも、

ちゃんと時間の重さがある。


和希が肩をすくめた。


「去年の今頃、

まだ透真くんたち入部してなかったんだよな」


「え、そんな前?」


透真が目を丸くする。


「そんな前だよ」


昴が小さく笑った。


「今じゃ完全に部室の中心だけど」


「え、俺?」


透真は本気で不思議そうだった。



「クラス替えかぁ」


裕翔がぽつりと呟く。


「次こそ、

透真と同じクラスなりたい」


「え?」


透真が顔を上げる。


「裕翔、

今のクラス嫌なの?」


「嫌じゃないけど」


裕翔は少し笑った。


「やっぱ一緒の方が楽」


その言葉に、

透真も嬉しそうに笑う。


「そしたら毎日うるさそう」


「絶対うるさい」


和希が笑った。


「朝から星の話してそう」


「する!」


透真が即答する。



その横で。


薫だけは、

少し黙っていた。


クラス替え。


今のクラス。


透真。


当たり前みたいに隣にいる日常。


もし離れたら。


――多分、

思ったより嫌だ。


でも。


そんなこと、

口にするわけがない。


「……別に、

どうでもいいだろ」


ぶっきらぼうに言う。


「えー絶対薫寂しいじゃん」


透真が笑う。


「は?」


「だって毎日話してるし」


「お前が勝手に来るだけだろ」


「でも薫、

ちゃんと相手してくれるじゃん」


「……」


図星だった。


夕花が吹き出す。


「否定しないんだ」


「うるせぇ」


薫が顔をしかめる。


でも、

どこか少しだけ困った顔だった。



伊織は静かにそのやり取りを見ていた。


あと一年。


和希と昴が卒業するまで、

本当にそれくらいしかない。


ずっとこの空気が続く気がしていた。


でも、

ちゃんと時間は進んでいく。



「後輩入るのかな」


夕花が呟く。


「女子いるかな」


紬も小さく言う。


「透真くん、

絶対人気出る」


「やめて」


夕花が真顔になる。


「想像したくない」


「分かる」


紬が静かに頷いた。



その中心で。


透真だけは、

少し楽しそうだった。


「春になったら、

また星見える位置変わるね」


みんなが透真を見る。


透真は嬉しそうに続けた。


「冬の星も好きだけど、

春の星座も綺麗なんだよ」


その顔は、

新しい季節を待っている顔だった。


寂しさより、

楽しみを見つける人。


だからみんな、

ついその隣にいたくなる。



帰り道。


夜風は少しだけ暖かい。


冬の終わり。


透真が空を見上げる。


「あ」


「どうした?」


和希が聞く。


透真は空を指差した。


「春の星、

もう見えてる」


みんなも空を見る。


冬とは少し違う、

柔らかな光。


季節が変わっていく。


時間は進む。


同じままでは、

いられない。


でも。


隣には、

ちゃんとみんないた。



白い吐息は、

もうほとんど見えなかった。

読んでいただきありがとうございます!

透真高校1年生編終了です!次の章から2年生になります。

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

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⭐️登場人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n5363me/1/

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