【第6章】第8話「変わっていく季節」
―第6章「冬空と、君の体温」
第8話「変わっていく季節」
三月。
冬の終わり。
放課後の空は、
少しだけ春の色をしていた。
冷たい風の中に、
柔らかな匂いが混ざっている。
☆
部室の机には、
進路希望調査票が並んでいた。
「うわ、現実だ」
和希が紙を見ながら苦笑する。
「あと一年かぁ……」
ぽつりと落ちた声。
その言葉に、
部室が少し静かになる。
☆
昴は窓際に立ちながら、
夕焼けを見ていた。
「早いな」
静かな声。
でも、
ちゃんと時間の重さがある。
和希が肩をすくめた。
「去年の今頃、
まだ透真くんたち入部してなかったんだよな」
「え、そんな前?」
透真が目を丸くする。
「そんな前だよ」
昴が小さく笑った。
「今じゃ完全に部室の中心だけど」
「え、俺?」
透真は本気で不思議そうだった。
☆
「クラス替えかぁ」
裕翔がぽつりと呟く。
「次こそ、
透真と同じクラスなりたい」
「え?」
透真が顔を上げる。
「裕翔、
今のクラス嫌なの?」
「嫌じゃないけど」
裕翔は少し笑った。
「やっぱ一緒の方が楽」
その言葉に、
透真も嬉しそうに笑う。
「そしたら毎日うるさそう」
「絶対うるさい」
和希が笑った。
「朝から星の話してそう」
「する!」
透真が即答する。
☆
その横で。
薫だけは、
少し黙っていた。
クラス替え。
今のクラス。
透真。
当たり前みたいに隣にいる日常。
もし離れたら。
――多分、
思ったより嫌だ。
でも。
そんなこと、
口にするわけがない。
「……別に、
どうでもいいだろ」
ぶっきらぼうに言う。
「えー絶対薫寂しいじゃん」
透真が笑う。
「は?」
「だって毎日話してるし」
「お前が勝手に来るだけだろ」
「でも薫、
ちゃんと相手してくれるじゃん」
「……」
図星だった。
夕花が吹き出す。
「否定しないんだ」
「うるせぇ」
薫が顔をしかめる。
でも、
どこか少しだけ困った顔だった。
☆
伊織は静かにそのやり取りを見ていた。
あと一年。
和希と昴が卒業するまで、
本当にそれくらいしかない。
ずっとこの空気が続く気がしていた。
でも、
ちゃんと時間は進んでいく。
☆
「後輩入るのかな」
夕花が呟く。
「女子いるかな」
紬も小さく言う。
「透真くん、
絶対人気出る」
「やめて」
夕花が真顔になる。
「想像したくない」
「分かる」
紬が静かに頷いた。
☆
その中心で。
透真だけは、
少し楽しそうだった。
「春になったら、
また星見える位置変わるね」
みんなが透真を見る。
透真は嬉しそうに続けた。
「冬の星も好きだけど、
春の星座も綺麗なんだよ」
その顔は、
新しい季節を待っている顔だった。
寂しさより、
楽しみを見つける人。
だからみんな、
ついその隣にいたくなる。
☆
帰り道。
夜風は少しだけ暖かい。
冬の終わり。
透真が空を見上げる。
「あ」
「どうした?」
和希が聞く。
透真は空を指差した。
「春の星、
もう見えてる」
みんなも空を見る。
冬とは少し違う、
柔らかな光。
季節が変わっていく。
時間は進む。
同じままでは、
いられない。
でも。
隣には、
ちゃんとみんないた。
☆
白い吐息は、
もうほとんど見えなかった。
読んでいただきありがとうございます!
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透真高校1年生編終了です!次の章から2年生になります。
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