【第6章】第6話「甘い温度」
―第6章「冬空と、君の体温」
第6話「甘い温度」
二月。
放課後の部室は、
甘い匂いで満たされていた。
「……なんか今日、
部室お菓子の匂いする」
透真がきょろ、と周囲を見る。
その瞬間。
夕花と紬が、
同時に少し固まった。
☆
「はい、これ」
夕花が机に袋を置く。
続けて紬も、
小さな紙袋を並べた。
「バレンタイン」
「おおー!」
透真が一番最初に反応する。
「手作り!?」
「……うん」
「みんなの分あるから」
夕花が少し早口で言う。
机の上には、
同じデザインのラッピング袋。
シンプルな透明袋に、
小さな星シール。
見た目は全部同じだった。
☆
「すご」
裕翔が袋を覗く。
「マフィンまである」
「紬のクッキー、
めっちゃ綺麗」
和希も感心したように笑った。
「売り物みたい」
紬は少し照れたように目を伏せる。
夕花は腕を組みながら、
そわそわしていた。
透真が袋を開ける。
「わ、美味しそう……!」
その瞬間。
薫が眉をひそめた。
「……お前、多くね?」
「え?」
透真が自分の袋を見る。
確かに。
みんなより少し中身が多い。
クッキーも一枚多いし、
マフィンも少し大きい。
しかも、
小さいチョコまで入ってる。
「ほんとだ」
裕翔も気付く。
「絶対多い」
「気のせい!!」
夕花が即答した。
「いや無理あるだろ」
薫が冷静に突っ込む。
「星宮だけ明らか多いじゃん」
「うるさい!!」
夕花の顔が真っ赤になる。
「たまたま!
サイズの問題だから!」
「へぇ」
薫がニヤつく。
「へぇじゃない!!」
☆
その横で。
透真がもう一つ袋を開ける。
「……わ」
小さな星型クッキー。
綺麗なアイシング。
夜空みたいな青。
「星だ!」
透真の目が一気に輝く。
「かわいい……!」
紬が小さく肩を揺らした。
「……透真くん、
好きそうだったから」
「嬉しい!」
透真は本気で嬉しそうに笑う。
「食べるのもったいないなこれ」
紬、
静かに固まる。
☆
和希はすぐ全部理解した。
「あー……なるほどねぇ」
楽しそうに笑う。
昴は何も言わない。
でも、
静かに気付いている。
伊織はクッキーを見ながら、
小さく目を細めた。
「……分かりやすい」
「だよな」
裕翔がぼそっと返す。
「無自覚なの、
透真だけ」
☆
「いいなー星」
透真が嬉しそうに言う。
「夕花のマフィンも、
めっちゃ美味しそう!」
「……まだ食べてないだろ」
「でも分かる!」
何の根拠もない。
でも、
透真は本気でそう言う。
だから困る。
☆
「いただきます!」
部室に、
柔らかい声が響く。
甘い匂い。
冬の夕方。
ストーブの音。
何気ない放課後。
でも。
たぶんみんな、
少しだけ特別だった。
☆
「美味しい!」
透真が幸せそうに笑う。
その顔見て。
夕花はまた赤くなって。
紬は静かに視線を逸らして。
男子組は、
なんとも言えない顔をした。
☆
「……なんか、
みんな優しいよね」
透真がぽつりと言う。
「?」
「最近、
すごい甘やかされてる気がする」
全員、
一瞬固まった。
でも透真は続ける。
「嬉しいなぁ」
ふわっと笑う。
その瞬間。
夕花は机に突っ伏した。
紬は完全停止。
裕翔は目を逸らす。
薫は深いため息。
伊織は静かに黙り込む。
昴は小さく笑った。
和希だけが楽しそうに言う。
「そりゃ甘やかしたくもなるよ」
「?」
透真だけが、
やっぱり何も分かっていなかった。
読んでいただきありがとうございます!
ー
女子組が張り切るバレンタイン回です!
ー
毎日21時に投稿予定です५✍⋆*
続きが気になったら評価やブックマークをお願いします
⭐️登場人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n5363me/1/




