【第6章】第5話「触れた体温」
―第6章「冬空と、君の体温」
第5話「触れた体温」
天気予報では、
今夜から雪だった。
まだ降ってはいない。
でも、
空気は痛いくらい冷たい。
☆
放課後。
天文部の部室。
ストーブの前に、
透真が完全に居座っていた。
「動けない……」
「またか」
薫が呆れた声を出す。
「だって寒い」
透真はストーブへ向かって、
両手を伸ばしている。
猫みたいだ。
☆
「透真くん」
和希が近づく。
「マフラーぐちゃぐちゃ」
「あ」
透真の首元へ、
自然に手が伸びた。
するり、と整える。
距離が近い。
でも和希は、
それを当たり前みたいにやる。
「これでよし」
「ありがとうございます」
透真は素直に笑った。
その顔見て、
和希が少しだけ目を細める。
☆
「透真、
手」
裕翔が突然言う。
「ん?」
「貸して」
意味も分からず差し出した手を、
裕翔が両手で包み込んだ。
「冷たっ!?」
「だから言っただろ」
「え、裕翔あったか……」
透真がびっくりした顔をする。
裕翔は少し目を逸らした。
昔からそうだった。
透真は放っておくと、
すぐ無防備になる。
☆
「星宮」
薫が何か投げる。
「わ」
小さなカイロだった。
「手袋しろって何回言わせんの」
「持ってるよ?」
「持ってるだけだろ」
正解。
透真が黙る。
「……図星」
「アホ」
でも。
薫の声は、
少しだけ優しかった。
☆
「はい」
昴が缶ココアを差し出す。
「冷えてるぞ」
「わ、ありがとうございます」
透真は嬉しそうに受け取る。
缶の熱で、
白くなっていた指先が少し赤くなる。
昴はその様子を見ながら、
小さく笑った。
「ほんと分かりやすいな」
☆
「透真」
夕花が近づく。
「襟折れてる」
「あ、ほんとだ」
直そうとして、
うまくできない。
「貸して」
夕花が制服の襟を整える。
近い。
顔も近い。
「……はい」
「ありがとう!」
透真は何も気にしていない。
夕花だけが、
耳まで赤かった。
「夕花、
顔赤くない?」
「うるさい!!」
☆
「……透真くん」
紬が小さな袋を差し出した。
淡い色の布ポーチ。
「これ……?」
「カイロ入れるやつ」
透真が目を丸くする。
「え、すご……!」
ふわふわした内側。
丁寧な縫い目。
小さな星柄。
「紬が作ったの!?」
こくり。
小さく頷く。
「かわいい!」
透真が本気で嬉しそうに笑った。
「めっちゃ使う!」
紬は静かに固まる。
その横で、
夕花がちょっと羨ましそうだった。
☆
部室でのんびりしすぎたせいで、
外はもう真っ暗だった。
「……眠」
透真が机へ突っ伏す。
「お前今日朝早かったんだっけ」
薫が聞く。
「うん……」
声がもう眠そうだった。
伊織はその様子を静かに見ていた。
それから、
透真の隣へ座る。
「透真」
「んー……?」
「肩貸す?」
透真が少し顔を上げる。
「……いいの?」
「うん」
自然な声。
透真は少し迷ってから、
伊織の肩へこてんと寄りかかった。
「……あったかい」
小さく呟く。
伊織は何も言わなかった。
でも、
その横顔は少しだけ柔らかかった。
部室が妙に静かになる。
裕翔が目を細める。
薫はなんとも言えない顔。
昴は缶ココアを飲みながら、
小さく笑った。
和希だけが、
「あーあ」と呟く。
☆
帰り道。
夜の空気はさらに冷えていた。
白い吐息。
静かな住宅街。
透真は完全防寒状態だった。
* マフラー巻かれてる
* カイロ持たされてる
* 缶ココア持ってる
* 手袋まで装備済み
「……」
透真が少し笑う。
「なんかみんな、
過保護過ぎない?」
その言葉に、
全員少し止まる。
でも。
透真は続けた。
「でも、ありがとう」
少し照れたみたいに笑う。
その瞬間。
全員、
静かにやられた。
☆
裕翔は目を逸らす。
薫は顔をしかめた。
「……知らねぇし」
伊織は何も言わない。
でも、
透真が寄りかかっていた肩を、
少しだけ気にしている。
昴は小さく笑った。
和希は困ったように息を吐く。
「もっと甘やかしたくなるなぁ」
夕花は真っ赤。
紬は完全に固まっていた。
☆
その中心で。
透真だけが、
不思議そうな顔をしている。
「え、なんでみんな黙るの?」
本当に分かっていない。
だから。
こんなにも、
目が離せない。
読んでいただきありがとうございます!
ー
みんな透真に対して過保護です(笑)
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