【第6章】「冬空と、君の体温」第1話 「冬の星座」
―第1話 「冬の星座」
冬の夜は静かだった。
吐く息が白い。
空気は冷たいのに、
空だけは驚くほど澄んでいる。
屋上。
天文部の観測会。
望遠鏡の横で、
透真が空を見上げていた。
「すご……」
小さな声が漏れる。
「冬って、
こんなに星見えるんですね」
その目はもう、
完全に輝いていた。
「空気乾燥してるからな」
昴が機材を調整しながら答える。
「あと冬は明るい星多いし」
「オリオン座とか?」
「そう」
透真はすぐ空を見上げる。
「あ、あれ!」
指差す。
「ベテルギウス!」
「正解」
昴が少し笑った。
その反応だけで、
透真がまた嬉しそうになる。
☆
「はい」
不意に、
首元へ何か巻かれる。
「うわっ」
振り返ると、
裕翔だった。
「マフラーしてなかっただろ」
「でも裕翔寒いじゃん」
「俺は平気」
そう言いながら、
ぐるっと透真へ巻く。
距離が近い。
自然すぎる。
薫が少し離れた場所で、
なんとも言えない顔をした。
「過保護すぎ」
「お前に言われたくない」
「は?」
すぐ張り合い始める。
透真はその横で、
きょとんとしていた。
☆
「透真くん」
和希が缶ココアを差し出す。
「あったかいうちに飲みな」
「ありがとうございます!」
透真は両手で受け取った。
缶の熱に、
少しだけ肩の力が抜ける。
「おいしい……」
その顔を見て、
和希が笑う。
「ほんと分かりやすい」
「え?」
「顔に全部出る」
透真は少し照れたように笑った。
☆
「寒くない?」
紬が小さく聞く。
「ちょっとだけ」
「これ使う?」
差し出されたのは、
小さなカイロだった。
「あ、ありがと」
透真が受け取る。
指先が少し触れる。
紬は静かに目を伏せた。
それだけなのに、
胸が少しうるさい。
☆
「透真、手袋は?」
伊織が聞く。
「忘れた」
「……また?」
「家出る時、
星見えて急いだから」
「意味分かんない」
薫が呆れる。
でも。
“透真ならありえる”
と全員思っていた。
☆
その時。
「見てください!」
透真が突然空を指差した。
「冬の大三角!」
みんなが自然に空を見る。
シリウス。
プロキオン。
ベテルギウス。
冬空に光る大きな三角。
透真は本当に嬉しそうだった。
「綺麗……」
小さく笑う。
その横顔を。
みんな、
静かに見てしまう。
☆
神代先生は少し離れた場所で、
そんな生徒たちを見ていた。
白い息。
笑い声。
静かな夜。
青春だな、
と思う。
そして。
その中心には、
やっぱり透真がいる。
無意識に、
みんなを引き寄せている。
「……罪作りだな」
小さく呟く。
もちろん、
本人は気付いていない。
☆
観測は夜遅くまで続いた。
冷たい風。
白い吐息。
近い距離。
透真は望遠鏡を覗きながら、
楽しそうに笑う。
「冬の星、
好きかもしれない」
その声に。
誰も、
すぐ返事ができなかった。
だってきっと。
みんなもう、
“星”より透真を見ていたから。
読んでいただきありがとうございます!
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賑やかな文化祭も終わり、冬の天文部編スタートです。
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