【第5章】第7話「浴衣の夜」
―第7話「浴衣の夜」
文化祭二日目。
校内放送が流れる。
『これより後夜祭を開始します』
歓声が上がった。
夕暮れから夜へ変わる校庭。
提灯。
ライト。
音楽。
文化祭最後の熱が、
学校中を包み込んでいた。
☆
「……遅い」
夕花が腕を組む。
隣では紬も静かに待っていた。
二人とも浴衣姿。
夕花は深い紺色。
紬は淡い薄紫。
普段の制服姿とは違う、
柔らかな雰囲気だった。
「絶対似合うよね」
紬がぽつりと呟く。
「……まあ、
顔はいいし」
夕花が小さく返した時。
「ごめん、待った?」
声。
振り返る。
その瞬間。
二人とも固まった。
☆
透真だった。
淡い藍色の浴衣。
白い帯。
黒髪がいつもより柔らかく見える。
夜の光に溶けそうなほど、
透明感が強かった。
「……どうかな」
少し困ったように笑う。
夕花、
完全停止。
紬も静かに目を見開いていた。
「えっと……変?」
透真が首を傾げる。
「……っ、変じゃない!!」
夕花が勢いよく言う。
声が少し裏返った。
透真が笑う。
「よかった」
その笑顔で、
さらにダメージが入る。
☆
「うわ」
後ろから声。
和希だった。
今日は黒地の浴衣。
いつもの柔らかい雰囲気に、
少しだけ大人っぽさが混ざっている。
周りの女子がざわつく。
「和希先輩、
めっちゃ似合ってます」
透真が素直に言う。
和希は少し笑った。
「透真くんに言われると嬉しいな」
そして。
「でも今日一番ずるいの、
透真くんだね」
その言葉に、
周囲が静かに同意した。
☆
「……目立つ」
低い声。
昴だった。
紺の浴衣姿。
普段より少しラフなのに、
逆に色気が増している。
「昴先輩も似合ってる!」
透真が即答する。
昴は少し黙って。
「……ありがと」
小さく返した。
耳が少し赤い。
和希が横で笑っている。
☆
屋台が並ぶ校庭。
射的。
焼きそば。
りんご飴。
提灯の赤い光。
夏祭りみたいな空気。
「わ……すごい」
透真は完全に楽しそうだった。
見るもの全部に反応する。
「透真、
迷子になるなよ」
裕翔が隣で言う。
今日は制服のまま。
でも、
透真から目が離せない。
「ならないって」
「信用できない」
「ひどい」
笑い合う。
その距離感が自然すぎて、
薫が少しだけ眉を寄せた。
☆
「透真」
薫が呼ぶ。
振り返った透真の横顔に、
提灯の灯りが映る。
綺麗だった。
……今日ずっと、
心臓がおかしい。
「何?」
「……りんご飴食う?」
「食べたい!」
即答。
薫は小さく笑った。
単純。
でも、
そういうところが好きだと思ってしまう。
☆
紬は少し後ろから、
その様子を見ていた。
透真は、
誰といても楽しそうに笑う。
優しくて。
無防備で。
だから、
みんな好きになる。
でも。
“自分だけが知ってる顔”
が欲しくなる。
紬は静かに目を伏せた。
☆
その時。
「花火始まるぞー!」
誰かが叫ぶ。
みんな空を見上げる。
夜空。
一発目の花火が咲いた。
光が、
透真の瞳に映る。
「綺麗……」
小さな声。
その横顔に。
全員、
また見惚れてしまった。
☆
花火の光。
浴衣。
笑い声。
夏の終わりみたいな夜。
透真は空を見上げたまま、
ふわりと笑う。
その姿が、
あまりにも眩しくて。
誰も、
目を逸らせなかった。
読んでいただきありがとうございます!
ー
頑張って透真くんは浴衣着てくれました!!
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