【第5章】第5話「また会いたい」
―第5話「また会いたい」
文化祭一日目の終わりが近付いていた。
夕方。
校内の騒がしさも、
少しずつ落ち着き始める。
吹奏楽部の演奏が遠くで聞こえる。
オレンジ色の光が、
窓から廊下へ差し込んでいた。
天文部の教室前。
「本日の一般公開は終了でーす」
和希の声が響く。
「ありがとうございました!」
透真も笑顔で頭を下げる。
最後の来場者が出ていき、
教室の中は一気に静かになった。
「疲れた〜……」
裕翔が椅子へ座り込む。
「人多すぎ」
「でも成功だったじゃん」
和希が笑う。
昴は機材を片付けながら、
小さく息を吐いた。
「トラブルなかっただけマシ」
その時。
入口近くで、
透真がふと足を止めた。
「あ」
みんなの視線がそっちへ向く。
教室の外。
少しだけ遠慮したように立っていたのは、
琉衣だった。
制服姿。
鞄を持っている。
もう帰るのだと分かった。
透真の顔がぱっと明るくなる。
「琉衣くん」
名前を呼ばれて、
琉衣の胸が少し跳ねた。
「……まだいたんだ」
透真は嬉しそうに笑う。
その笑顔が、
やっぱり眩しい。
「帰る前に、
もう一回だけ見たくて」
琉衣が小さく言う。
透真はすぐ頷いた。
「いいよ」
自然だった。
迷いもなく。
「今なら空いてるし、
最後にちょっとだけ見よっか」
☆
教室の電気が落ちる。
静かな星空。
昼間より、
ずっと落ち着いた空気。
透真は隣へ座った。
「文化祭どうだった?」
「……楽しかったです」
「よかった」
透真は本当に安心したみたいに笑う。
琉衣はその横顔を見つめる。
星の光が、
透真の横顔を淡く照らしていた。
綺麗だった。
今日ずっと思っていた。
この人は、
なんでこんなに優しいんだろう。
なんでこんなに、
楽しそうに笑うんだろう。
「星、
好きなんですか」
琉衣が小さく聞く。
透真は少し驚いたあと、
ふわっと笑った。
「うん。すごく好き」
その言い方が、
まっすぐだった。
飾ってない。
だから余計に、
胸へ残る。
「琉衣くんは?」
「……まだ、
よく分かんないです」
正直に答えると、
透真は笑った。
「じゃあこれから好きになるかも」
“これから”
その言葉が、
妙に嬉しかった。
☆
しばらくして。
校内放送が流れる。
『一般来場者の皆さまは、
お帰りの準備をお願いします』
もう帰る時間だった。
琉衣は立ち上がる。
「……ありがとうございました」
「こちらこそ、
来てくれてありがと」
透真も立ち上がる。
そのまま一緒に、
教室の外へ出た。
夕暮れ。
窓の外は、
少しずつ藍色へ変わり始めている。
校門前まで来た時。
琉衣は足を止めた。
言うか迷う。
でも。
このまま帰ったら、
きっと後悔する気がした。
「あの」
透真が振り返る。
「ん?」
琉衣は少しだけ拳を握る。
緊張する。
でも。
ちゃんと聞きたかった。
「……また会えますか」
小さな声だった。
でも、
透真はちゃんと聞き取ってくれた。
一瞬きょとんとして。
それから。
ふわっと笑う。
「また来てよ」
その笑顔が、
あまりにも優しくて。
琉衣の胸が、
苦しくなる。
「天文部、
いつでもいるから」
無自覚だった。
本当に。
こんなの、
好きになるに決まってる。
☆
校門を出たあと。
琉衣は一度だけ振り返った。
夕暮れの校舎。
窓の向こう。
まだ笑っている透真。
胸の奥が、
じんわり熱い。
その時。
自然に思った。
――この高校、
受けたい。
もっと。
また会いたい。
星のことを話す透真を、
もう一度見たい。
秋の空には、
一番星が光り始めていた。
読んでいただきありがとうございます!
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琉衣くんの進学したい高校をきめたきっかけです。
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毎日21時に投稿予定です५✍⋆*
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