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【第5章】第4話「迷子の中学生」

―第4話「迷子の中学生」



「大丈夫?」


柔らかい声だった。


琉衣は思わず顔を上げる。


夕暮れの渡り廊下。


逆光の中に立っていたのは、

高校の制服を着た男子生徒。


黒髪。


透き通るみたいな肌。


少し心配そうに覗き込む瞳。


――綺麗だ。


それが、

最初に浮かんだ感想だった。


「えっと……」


琉衣は言葉に詰まる。


中学三年。


高校見学を兼ねて、

友達と文化祭へ来ていた。


でも、

人混みではぐれてしまった。


知らない校舎。


騒がしい廊下。


どこへ行けばいいか分からない。


「迷った?」


男子生徒は、

困らせないような声で聞いてくる。


琉衣は小さく頷いた。


「友達と……はぐれて」


「そっか」


その返事が、

驚くほど自然だった。


変に笑わない。


子ども扱いもしない。


ただ普通に受け止めてくれる。


それだけで、

少し安心した。


「行きたかった場所とかある?」


「……天文部」


言った瞬間。


男子生徒の顔がぱっと明るくなった。


「ほんと?」


「……はい」


「じゃあ案内する!」


その笑顔が眩しくて、

琉衣は少しだけ目を見開いた。



「俺、

星宮透真」


歩きながら、

透真が振り返る。


「一年」


「……神崎琉衣です」


「琉衣くん、中三?」


「はい」


「そっか。

じゃあ受験生だ」


自然な口調だった。


年下だからって、

変に気を遣うわけでもない。


でも優しい。


「文化祭、

どう?」


「……すごいです」


「ね。

俺も最初びっくりした」


透真は本当に楽しそうだった。


廊下を歩くだけで、

いろんな人から声を掛けられる。


「透真ー!」


「あとで来て!」


「今忙しい?」


そのたび、

透真はちゃんと笑って返す。


琉衣はその姿を、

静かに見ていた。


……人気者なんだ。


でも。


なんとなく分かる気がした。


透真の周りだけ、

空気が柔らかい。



「ここ」


案内された教室の前には、

大きな看板が立っていた。


『天文部プラネタリウム』


暗い入口の向こうから、

小さな歓声が聞こえる。


「入る?」


透真が笑う。


琉衣は小さく頷いた。


教室へ入ると、

天井いっぱいに星空が広がっていた。


「わ……」


思わず声が漏れる。


暗い教室。


無数の星。


まるで本物の夜空だった。


「すごいでしょ」


透真が少し嬉しそうに言う。


その時。


「透真」


低い声が聞こえた。


振り返ると、

昴が機材近くに立っていた。


「次の投影準備する」


「うん、今行く」


透真が返事をする。


その横から、

和希が顔を出した。


「その子、

お客さん?」


「迷子だったから連れてきた」


「あーなるほど」


和希は琉衣へ優しく笑う。


「ゆっくり見てってね」


「……はい」


その空気に、

琉衣は少しだけ緊張が解けた。



投影が始まる。


星空が動き出す。


透真は前へ立った。


「今日は秋の星座を紹介します」


その瞬間。


空気が変わった。


さっきまで柔らかかった声が、

少しだけ静かになる。


でも。


楽しそうなのは変わらない。


「これはペガスス座」


「秋の四辺形って呼ばれてて――」


話すたび。


透真の目が輝く。


星が好きなんだって、

すぐ分かる。


琉衣は、

気付けばずっと透真を見ていた。


星じゃなく。


その横顔を。



投影が終わったあと。


「どうだった?」


透真が隣へ来る。


高校生なのに、

変に大人っぽくない。


でも優しくて、

安心する。


「……すごかったです」


「ほんと?」


「はい」


琉衣は少し迷ってから、

小さく言った。


「星宮先輩、

すごく楽しそうでした」


透真は一瞬きょとんとして。


それから、

ふわっと笑った。


「好きだからね」


その笑顔に。


琉衣の胸が、

少しだけ苦しくなった。

読んでいただきありがとうございます!

琉衣くん初登場の回です!

この時は中学生の琉衣くん

透真に一目惚れです。

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

続きが気になったら評価やブックマークをお願いします


⭐️登場人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n5363me/1/

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