【第5章】第4話「迷子の中学生」
―第4話「迷子の中学生」
「大丈夫?」
柔らかい声だった。
琉衣は思わず顔を上げる。
夕暮れの渡り廊下。
逆光の中に立っていたのは、
高校の制服を着た男子生徒。
黒髪。
透き通るみたいな肌。
少し心配そうに覗き込む瞳。
――綺麗だ。
それが、
最初に浮かんだ感想だった。
「えっと……」
琉衣は言葉に詰まる。
中学三年。
高校見学を兼ねて、
友達と文化祭へ来ていた。
でも、
人混みではぐれてしまった。
知らない校舎。
騒がしい廊下。
どこへ行けばいいか分からない。
「迷った?」
男子生徒は、
困らせないような声で聞いてくる。
琉衣は小さく頷いた。
「友達と……はぐれて」
「そっか」
その返事が、
驚くほど自然だった。
変に笑わない。
子ども扱いもしない。
ただ普通に受け止めてくれる。
それだけで、
少し安心した。
「行きたかった場所とかある?」
「……天文部」
言った瞬間。
男子生徒の顔がぱっと明るくなった。
「ほんと?」
「……はい」
「じゃあ案内する!」
その笑顔が眩しくて、
琉衣は少しだけ目を見開いた。
☆
「俺、
星宮透真」
歩きながら、
透真が振り返る。
「一年」
「……神崎琉衣です」
「琉衣くん、中三?」
「はい」
「そっか。
じゃあ受験生だ」
自然な口調だった。
年下だからって、
変に気を遣うわけでもない。
でも優しい。
「文化祭、
どう?」
「……すごいです」
「ね。
俺も最初びっくりした」
透真は本当に楽しそうだった。
廊下を歩くだけで、
いろんな人から声を掛けられる。
「透真ー!」
「あとで来て!」
「今忙しい?」
そのたび、
透真はちゃんと笑って返す。
琉衣はその姿を、
静かに見ていた。
……人気者なんだ。
でも。
なんとなく分かる気がした。
透真の周りだけ、
空気が柔らかい。
☆
「ここ」
案内された教室の前には、
大きな看板が立っていた。
『天文部プラネタリウム』
暗い入口の向こうから、
小さな歓声が聞こえる。
「入る?」
透真が笑う。
琉衣は小さく頷いた。
教室へ入ると、
天井いっぱいに星空が広がっていた。
「わ……」
思わず声が漏れる。
暗い教室。
無数の星。
まるで本物の夜空だった。
「すごいでしょ」
透真が少し嬉しそうに言う。
その時。
「透真」
低い声が聞こえた。
振り返ると、
昴が機材近くに立っていた。
「次の投影準備する」
「うん、今行く」
透真が返事をする。
その横から、
和希が顔を出した。
「その子、
お客さん?」
「迷子だったから連れてきた」
「あーなるほど」
和希は琉衣へ優しく笑う。
「ゆっくり見てってね」
「……はい」
その空気に、
琉衣は少しだけ緊張が解けた。
☆
投影が始まる。
星空が動き出す。
透真は前へ立った。
「今日は秋の星座を紹介します」
その瞬間。
空気が変わった。
さっきまで柔らかかった声が、
少しだけ静かになる。
でも。
楽しそうなのは変わらない。
「これはペガスス座」
「秋の四辺形って呼ばれてて――」
話すたび。
透真の目が輝く。
星が好きなんだって、
すぐ分かる。
琉衣は、
気付けばずっと透真を見ていた。
星じゃなく。
その横顔を。
☆
投影が終わったあと。
「どうだった?」
透真が隣へ来る。
高校生なのに、
変に大人っぽくない。
でも優しくて、
安心する。
「……すごかったです」
「ほんと?」
「はい」
琉衣は少し迷ってから、
小さく言った。
「星宮先輩、
すごく楽しそうでした」
透真は一瞬きょとんとして。
それから、
ふわっと笑った。
「好きだからね」
その笑顔に。
琉衣の胸が、
少しだけ苦しくなった。
読んでいただきありがとうございます!
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琉衣くん初登場の回です!
この時は中学生の琉衣くん
透真に一目惚れです。
ー
毎日21時に投稿予定です५✍⋆*
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