【第1章 はじめての天文部】第1話 入学式と屋上
―第1話 入学式と屋上
春の風が、制服の裾を揺らしていく。
満開の桜の下を歩きながら、透真はぼんやりと空を見上げた。
今日は高校の入学式だった。
新しい校舎。
知らない人ばかりの教室。
ざわざわと騒がしい空気に、少しだけ肩が落ちる。
「……人、多いな」
小さく呟く。
すると隣から、呆れた声が飛んできた。
「入学式なんだから当たり前だろ」
振り向けば、幼馴染の裕翔が笑っていた。
短めの明るい茶髪に、人懐っこい笑顔。
昔から変わらない顔に、透真は少しだけ安心する。
「透真、またぼーっとしてた?」
「してない」
「いやしてた」
即答される。
裕翔は慣れた様子で透真の肩を軽く引き寄せた。
「ほら、ぶつかる」
「……ありがと」
自然な距離感だった。
昔からずっとこうだから、透真自身は特に何も思っていない。
けれど周囲の女子たちは、ちらちらとこちらを見て何か話している。
裕翔は気づいていないのか、透真の髪についた桜の花びらを取った。
「ついてた」
「……ん」
そんなやり取りをしているうちに、体育館へ着く。
入学式は思ったより長かった。
校長の話は途中から全然頭に入らなくて、透真は何度も窓の外を見てしまう。
青空だった。
今日は夜も晴れるだろうか。
そんなことを考えていると、隣から紙が滑ってきた。
『ちゃんと起きてろ』
雑な字。
裕翔だ。
透真は少しだけ口元を緩めて、シャーペンを走らせる。
『起きてる』
『嘘つけ』
その文字を見て、小さく笑ってしまった。
入学式が終わる頃には、透真の緊張は少しだけ薄れていた。
──でも。
「部活見学かあ……」
廊下に貼られたポスターを眺めながら、透真は困ったように呟く。
運動部の勧誘は勢いがすごい。
大きな声が飛び交っていて、透真は少し後ずさった。
「透真、なんか入りたいのあんの?」
「んー……」
特に決めていなかった。
ただ、できれば静かな場所がいい。
騒がしすぎない場所。
落ち着ける場所。
そんなことを考えながら歩いていると、不意に視界の端に“屋上解放中”という紙が見えた。
透真の足が止まる。
「……屋上?」
「おい、どこ行くんだよ」
「ちょっとだけ」
気になってしまった。
透真はそのまま階段を上がっていく。
重たい扉を押し開けると──
ふわり、と風が吹き抜けた。
「……わ」
思わず声が漏れる。
高い空。
広い景色。
春の匂い。
静かな風。
さっきまでの校内の騒がしさが、嘘みたいだった。
透真はゆっくり空を見上げる。
昼間だから星は見えない。
それでも、この場所はなんだか好きだと思った。
「やっぱここ来てた」
後ろから裕翔の声がする。
「透真、昔から高いとこ好きだよな」
「空、近いから」
「……ふーん」
裕翔は透真の隣へ並ぶ。
その時だった。
「君たち、新入生?」
知らない声。
振り返ると、少し眠たそうな目をした男子生徒が立っていた。
柔らかい茶髪に、ゆるく着崩した制服。
首には見慣れないストラップ付きの鍵。
「屋上、立ち入り禁止なんだけど」
「あ……すみません」
透真が慌てて頭を下げると、その先輩はふっと笑った。
「怒ってないよ。今日は特別」
そして、先輩は透真の顔を見て少し目を細めた。
「空、好き?」
その質問に、透真は一瞬だけ目を丸くする。
でもすぐに、小さく頷いた。
「……好きです」
すると先輩は嬉しそうに笑った。
「なら、天文部向いてるかもね」
読んでいただきありがとうございます!
高校生になった透真
まずは1年生の期間を丁寧に書いていきます
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