【第4章】第6話 「先輩って、ずるい」
―第6話「先輩って、ずるい」
昴は昔から、
星が好きだった。
小学生の頃から図鑑を読んで。
中学では望遠鏡を触って。
気付けば、
空を見ることが当たり前になっていた。
だから天文部でも、
知識量は自然と増えた。
機材にも詳しくなった。
観測方法も。
星図も。
宇宙の話も。
でも。
同じ熱量で話せる相手は、
ほとんどいなかった。
☆
「昴、
それ好きだよね」
和希が笑う。
放課後の部室。
昴は望遠鏡を調整しながら、
小さく肩をすくめた。
「好きじゃなきゃやらないだろ」
「はいはい」
いつもの会話。
穏やかな空気。
その時。
ガラ、と扉が開く。
「失礼します……!」
昴が顔を上げる。
そこにいたのは、
星宮透真だった。
☆
「わ……」
透真は部室へ入った瞬間、
目を輝かせた。
望遠鏡。
星図。
本棚。
全部を見て、
嬉しそうにしている。
分かりやすい。
和希が笑った。
「透真くん、
星好きなんだよね〜」
「はい!」
即答。
そのあと。
透真は昴の近くへ来た。
「これって、
実際に使ってるやつですか?」
望遠鏡を見ながら聞く。
目がキラキラしている。
昴は少しだけ目を丸くした。
「……そう」
「すごい」
心から感動してる顔だった。
☆
それから。
透真は毎日のように部室へ来た。
昴の話も、
本当に楽しそうに聞く。
「へえ……!」
「知らなかったです」
「それって実際見るとどんな感じなんですか?」
ちゃんと興味を持ってくれる。
しかも。
理解が早い。
「……詳しいんだな」
昴が言うと、
透真は少し照れたように笑った。
「好きだから」
その答えが、
妙に嬉しかった。
☆
ある日の放課後。
観測準備。
昴は機材を調整していた。
透真は隣で、
星図を広げている。
「昴先輩」
名前を呼ばれる。
自然な声。
でも。
その呼び方だけで、
少し心臓が跳ねる。
「ここ、
この位置で合ってますか?」
透真が覗き込む。
近い。
しかも。
少し上目遣い。
「……先輩?」
その瞬間。
昴は固まった。
☆
無防備だった。
本人は何も分かっていない。
ただ聞いているだけ。
でも。
その目。
その距離。
その声。
全部、
破壊力がおかしい。
昴は視線を逸らした。
「……合ってる」
「ほんとですか!」
透真が嬉しそうに笑う。
心臓に悪い。
☆
「昴先輩って、
ほんとすごいですよね」
帰り際。
透真が言う。
「機材のことも詳しいし、
星の話してる時すごく楽しそう」
夕焼けの光が、
透真の横顔を照らしていた。
綺麗だった。
昴は少しだけ黙る。
今まで。
星の話をしても、
ここまで真っ直ぐ受け取ってくれる相手はいなかった。
透真は違う。
ちゃんと楽しそうに聞く。
夢中で話す。
しかも。
その顔を見ていると、
もっと話したくなる。
☆
「先輩?」
また覗き込まれる。
近い。
近すぎる。
昴は小さく息を吐いた。
「……お前、
距離近いな」
「え?」
「無防備すぎる」
透真はきょとんとしている。
分かってない。
ほんとに。
☆
たぶん。
おかしくなったのは、
あの瞬間からだ。
上目遣いで、
“先輩?”って呼ばれた時。
あんな顔で頼られて。
嬉しそうに笑われて。
平気でいられるわけがない。
昴は窓の外を見る。
夕焼けの空。
その隣で、
透真がまた星の話をしている。
楽しそうに。
眩しいくらい真っ直ぐに。
昴は静かに思った。
……たぶんもう、
かなり手遅れだ。
読んでいただきありがとうございます!
ー
昴先輩の話。
透真の上目遣い「…先輩?」は破壊力があります。
ー
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