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【第4章】第5話 「君のいる景色」

―第5話「君のいる景色」



紬は、人と話すのが少し苦手だった。


静かな方が楽。


ひとりの時間の方が落ち着く。


だから高校に入ったばかりの頃も、

教室の空気にまだ慣れなかった。


知らない人ばかり。


騒がしい声。


新しい環境。


疲れる。


そんな中で。


教室の窓際にいる星宮透真だけは、

少し空気が違って見えた。



昼休み。


春の風。


カーテンが揺れる。


透真は窓際で、

静かに空を見ていた。


ぼんやり。


でも寂しそうじゃない。


むしろ、

嬉しそうだった。


風で黒髪が揺れる。


光が横顔に落ちる。


紬はその姿から、

目を離せなかった。


綺麗だと思った。


本当に。


びっくりするくらい自然に。



「紬?」


後ろから声。


夕花だった。


「どうしたの」


「……なんでもない」


紬は小さく首を振る。


でも。


なんでもなくはなかった。


あの横顔が、

頭から離れない。



数日後。


日直の日。


紬は大量のプリントを抱えて、

職員室へ向かっていた。


重い。


前が見えにくい。


しかも途中で、

紙が少し崩れる。


「あ……」


落ちそう。


その瞬間。


横から手が伸びた。


「持つよ!」


聞こえた声。


顔を上げる。


透真だった。


「え」


「半分こっち」


自然だった。


迷いがない。


透真は当たり前みたいに、

重たい書類を持ち上げる。


「職員室でしょ?」


笑う。


その顔が優しくて、

紬は少し言葉に詰まった。



「ありがとう……」


職員室前。


紬が小さく言う。


透真は首を振った。


「全然!」


本当に、

なんでもないことみたいに笑う。


でも紬にとっては、

違った。


高校に入ってから。


周りに馴染めなくて。


少し不安で。


うまく笑えなくて。


そんな時に。


こんな風に、

自然に手を差し伸べられたのが。


すごく嬉しかった。



「紬ちゃんって静かだよね」


教室へ戻る途中。


透真が歩きながら言う。


紬は少しだけ肩を揺らした。


「……ごめん」


「え!?

なんで!?」


透真が本気で驚く。


「静かなの、

悪いことじゃないでしょ?」


真っ直ぐな目。


紬は少しだけ目を伏せた。


「……あんまり、

そう言われたことない」


「そうなの?」


透真は不思議そうだった。


「俺、

紬ちゃんの空気好きだけどな」


さらっと言う。


本当に自然に。


紬は思わず立ち止まった。


心臓がうるさい。



それから。


透真はよく紬へ話しかけるようになった。


「これ運ぶ?」


とか。


「今日夕花部活だって」


とか。


「その髪型似合う」


とか。


全部、

あまりにも自然。


距離感がおかしい。


でも。


その優しさに、

何度も救われた。



放課後。


教室。


夕花が頬杖をつきながら言う。


「紬、

最近星宮とよく話すじゃん」


紬は少し黙った。


「……透真くん、

優しいから」


「それは分かる」


夕花も小さく笑う。


「無防備すぎるけど」


「うん」


そこは本当にそう。



窓際。


透真がまた空を見ている。


夕焼けが、

横顔を淡く照らしていた。


綺麗だった。


最初に見た時と同じくらい。


いや。


今の方がもっと。



「紬ちゃん?」


名前を呼ばれる。


透真が振り返る。


笑う。


その瞬間。


紬は静かに思う。


たぶん、

一目惚れだった。


教室から空を見上げる、

あの綺麗な横顔に。


でも今は。


見た目だけじゃない。


優しいところも。


真っ直ぐなところも。


放っておけないくらい無防備なところも。


全部、

好きになってしまっている。


「どうしたの?」


透真が首を傾げる。


紬は小さく笑った。


「……なんでもない」


言えるわけない。


こんなに目を奪われてるなんて。


挿絵(By みてみん)



読んでいただきありがとうございます!

紬ちゃんが透真に一目惚れする話。

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

続きが気になったら評価やブックマークをお願いします


⭐️登場人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n5363me/1/

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