【第4章】第4話 「守りたい人」
―第4話「守りたい人」
夕花は昔から、
「女の子らしくない」と言われることが多かった。
小学生の頃から格闘技をやっていた。
走るのも速い。
力も強い。
口調もさっぱりしている。
だから周りは勝手に言う。
「桐谷って男みたい」
「可愛げないよな」
別に慣れていた。
傷つかないわけじゃないけど、
気にしないふりは上手くなった。
☆
高校に入って。
同じクラスになった星宮透真は、
最初から少し変だった。
昼休み。
窓際。
透真は空を見ていた。
ぼんやり。
でも楽しそうに。
夕花は前の席からそれを見て、
なんとなく話しかける。
「空好きなの?」
透真が振り返った。
「好き」
即答。
しかも目がキラキラしてる。
「今日雲の形綺麗だから、
夕焼けすごそう」
本気で言ってる。
夕花は少し笑った。
変なやつ。
それが第一印象だった。
☆
数日後。
体育館。
格闘技部の練習試合。
夕花は相手を投げ、
そのまま勝負を決めた。
周りがざわつく。
「やっぱ桐谷強ぇ」
「こわ」
聞こえていた。
いつものこと。
夕花はタオルを肩に掛け、
さっさとその場を離れようとした。
その時。
「夕花!」
後ろから声。
振り返る。
透真だった。
しかも。
目がめちゃくちゃ輝いてる。
「今のすごかった!!」
「……は?」
「動き綺麗だったし、
最後の足運びめっちゃかっこよかった!」
真っ直ぐだった。
お世辞とかじゃない。
本気で感動してる顔。
夕花は固まる。
「え……」
「ずっと見ちゃった」
「……っ」
顔が熱い。
なんだこれ。
透真は気付いてない。
「夕花ってほんとすごいね!」
嬉しそうに笑う。
その瞬間。
夕花は耐えきれず、
ぷいっと顔を逸らした。
「……うるさい」
「え?」
「近い!」
「ご、ごめん?」
透真が慌てる。
夕花は耳まで赤くなっていた。
☆
そのあとからだった。
透真が気になって仕方なくなったのは。
教室で笑ってる時。
空を見てる時。
星の話で目を輝かせてる時。
気付くと視線で追っている。
しかも。
放課後になると、
透真は毎日天文部へ行く。
楽しそうに。
嬉しそうに。
その顔を見るたび、
なんか胸が落ち着かなかった。
☆
「……天文部?」
格闘技部帰り。
夕花は部室棟の前で立ち止まる。
少し考えて。
そのまま扉を開けた。
「失礼します」
中には、
和希先輩と昴先輩。
そして。
「夕花!?」
透真がいた。
嬉しそうな顔。
その瞬間。
入ってよかった、
と思ってしまった。
☆
「掛け持ち?」
「……悪い?」
数日後。
天文部の入部届を書きながら、
夕花は透真を見る。
透真は目を丸くしたあと、
ぱっと笑った。
「嬉しい!」
その笑顔。
破壊力がおかしい。
「夕花と一緒に星見れるの楽しみ」
無邪気。
無防備。
夕花は顔を逸らした。
「……あんたってほんとそういうとこ」
「?」
分かってない。
☆
それから。
透真はさらに夕花へ絡むようになった。
「今日部活?」
「ん」
「頑張ってね」
とか。
「その髪型似合う」
とか。
「夕花って面倒見いいよね」
とか。
全部、
真正面から言ってくる。
しかも悪気ゼロ。
夕花は毎回調子が狂った。
☆
ある日の放課後。
廊下。
男子数人が透真に絡んでいた。
「星宮ってほんと細いよな」
「運動苦手そう」
透真は困ったように笑っている。
その顔を見た瞬間。
夕花は無意識に間へ入っていた。
「……何?」
声が低くなる。
男子たちが一瞬黙る。
「別にー」
「なんでもないならどいて」
空気が変わる。
男子たちは気まずそうに去っていった。
静かになる。
透真が目を丸くした。
「夕花」
「……なに」
「助けてくれた?」
「別に」
即答。
でも透真は嬉しそうに笑った。
「ありがと」
その顔。
ほんとずるい。
☆
「夕花ってさ」
帰り道。
透真が隣を歩きながら言う。
「すごくかっこいいよね」
「……は?」
「強いし、
優しいし」
夕花は立ち止まる。
透真は真顔だった。
また本気で言ってる。
夕花は少し俯いた。
昔から。
“女の子らしくない”
とは言われてきた。
でも。
“かっこいい”
って、
こんな風に言われたのは初めてだった。
しかも。
こんなに嬉しそうに。
☆
「夕花?」
透真が顔を覗き込む。
近い。
綺麗な目。
夕花は思わずその額を軽く押した。
「近いって」
「また?」
「……あんたって距離感おかしい」
透真は不思議そうに笑う。
夕花は小さく息を吐いた。
たぶん。
最初に心を掴まれたのは、
あの日だ。
誰より真っ直ぐに、
“かっこいい”と言ってくれた。
だからもう。
放っておけない。
守りたいと思ってしまう。
読んでいただきありがとうございます!
ー
夕花の話。
真っ直ぐ純粋な目で褒められたことが嬉しくて気になってしまう夕花ちゃん。かっこいかわいい格闘女子です♡
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