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【第4章】第3話 「見ていて飽きない」

―第3話 「見ていて飽きない」


伊織は、

静かな場所が好きだった。


騒がしい教室より。


大人数の輪より。


図書室みたいな、

音が落ち着く空間の方が居心地がいい。


だから天文部に入った理由も、

わりと単純だった。


「静かそうだから」


実際、

最初はその通りだった。



放課後の図書室。


西日が本棚を照らしている。


静かな空気。


ページをめくる音。


伊織は窓際の席で本を読んでいた。


その時。


「……あった」


小さな声。


視線を上げる。


見慣れた黒髪が、

宇宙コーナーの前に立っていた。


透真だった。


脚立に少し背伸びして、

分厚い星の本を取ろうとしている。


危なっかしい。


伊織は少しだけ本を閉じた。


その直後。


ぐら。


「あ」


本が落ちそうになる。


伊織は反射的に立ち上がり、

横から支えた。


「っ、わ……!」


透真が驚いて振り返る。


近い。


透真の目が丸くなる。


「あ、ありがと……」


「……落ちるかと思った」


「よく言われる」


少し恥ずかしそうに笑う。


伊織はその顔を静かに見た。



「伊織くんも図書室来るんだ」


透真はそのまま隣の席へ座った。


自然だった。


無理に話しかける感じじゃない。


でも、

ちゃんと相手の空気に入ってくる。


「星の本?」


伊織が聞く。


透真の目がすぐ輝いた。


「うん!」


早い。


「これ新しく入ったやつで、

写真すごい綺麗なんだよ」


ページを開く。


そこには星雲の写真。


透真は夢中だった。


「これ、

実際に見るともっとすごいらしくて――」


楽しそう。


好きなんだな、

と思う。


伊織は頬杖をつきながら、

その横顔を見る。



透真は、

感情が分かりやすい。


楽しい時は目が輝く。


好きな話になると早口。


あと。


瞬きが減る。


伊織はそれに気付いていた。



「伊織くん?」


「……ん」


「聞いてた?」


「聞いてる」


透真は少し笑った。


「よかった」


その笑顔を見て、

伊織は静かに思う。


見ていて飽きない。



それから図書室で会うことが増えた。


透真は静かな空気が嫌いじゃないらしい。


伊織も、

透真といる沈黙は苦じゃなかった。


むしろ落ち着く。



ある日。


夕方の図書室。


透真は机に星図を広げていた。


「これ、

夏の大三角」


指でなぞる。


楽しそう。


伊織はその姿を見ていた。


星じゃなく。


透真を。


「……透真って」


「ん?」


「好きな話してる時、

瞬き減る」


透真が止まる。


「え?」


「あと、

ちょっと前のめりになる」


「そんななってる!?」


本気で驚いている。


伊織は少しだけ笑った。


「なってる」


透真は恥ずかしそうに頬を押さえた。


「うわ……恥ずかしい」


「別に悪くない」


むしろ。


その顔を見てると、

こっちまで少し楽しくなる。



窓の外。


夕焼けが空を染めていた。


透真はそれを見ながら、

小さく笑う。


「図書室って落ち着くね」


「……うん」


「伊織くんといると、

静かで楽」


その言葉に、

伊織は少しだけ目を細めた。


たぶん透真は、

深い意味なんてない。


でも。


そういうところがずるい。



帰り際。


透真が本を抱えて立ち上がる。


「また来るね」


「……うん」


数歩歩いたあと。


伊織は小さく呟いた。


「透真って、

見てて飽きない」


透真が振り返る。


「え?」


「……なんでもない」


誤魔化した。


でも本当だった。


静かな図書室でも。


何気ない会話でも。


透真は、

自然と目を引く。


気付けば、

視線を向けている。


たぶんもう、

ただの興味じゃない。


挿絵(By みてみん)


読んでいただきありがとうございます!

伊織が透真を気になるきっかけの話です。

基本的に伊織は図書館か天文部にいます。

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

続きが気になったら評価やブックマークをお願いします


⭐️登場人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n5363me/1/

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