【第4章】第3話 「見ていて飽きない」
―第3話 「見ていて飽きない」
伊織は、
静かな場所が好きだった。
騒がしい教室より。
大人数の輪より。
図書室みたいな、
音が落ち着く空間の方が居心地がいい。
だから天文部に入った理由も、
わりと単純だった。
「静かそうだから」
実際、
最初はその通りだった。
☆
放課後の図書室。
西日が本棚を照らしている。
静かな空気。
ページをめくる音。
伊織は窓際の席で本を読んでいた。
その時。
「……あった」
小さな声。
視線を上げる。
見慣れた黒髪が、
宇宙コーナーの前に立っていた。
透真だった。
脚立に少し背伸びして、
分厚い星の本を取ろうとしている。
危なっかしい。
伊織は少しだけ本を閉じた。
その直後。
ぐら。
「あ」
本が落ちそうになる。
伊織は反射的に立ち上がり、
横から支えた。
「っ、わ……!」
透真が驚いて振り返る。
近い。
透真の目が丸くなる。
「あ、ありがと……」
「……落ちるかと思った」
「よく言われる」
少し恥ずかしそうに笑う。
伊織はその顔を静かに見た。
☆
「伊織くんも図書室来るんだ」
透真はそのまま隣の席へ座った。
自然だった。
無理に話しかける感じじゃない。
でも、
ちゃんと相手の空気に入ってくる。
「星の本?」
伊織が聞く。
透真の目がすぐ輝いた。
「うん!」
早い。
「これ新しく入ったやつで、
写真すごい綺麗なんだよ」
ページを開く。
そこには星雲の写真。
透真は夢中だった。
「これ、
実際に見るともっとすごいらしくて――」
楽しそう。
好きなんだな、
と思う。
伊織は頬杖をつきながら、
その横顔を見る。
☆
透真は、
感情が分かりやすい。
楽しい時は目が輝く。
好きな話になると早口。
あと。
瞬きが減る。
伊織はそれに気付いていた。
☆
「伊織くん?」
「……ん」
「聞いてた?」
「聞いてる」
透真は少し笑った。
「よかった」
その笑顔を見て、
伊織は静かに思う。
見ていて飽きない。
☆
それから図書室で会うことが増えた。
透真は静かな空気が嫌いじゃないらしい。
伊織も、
透真といる沈黙は苦じゃなかった。
むしろ落ち着く。
☆
ある日。
夕方の図書室。
透真は机に星図を広げていた。
「これ、
夏の大三角」
指でなぞる。
楽しそう。
伊織はその姿を見ていた。
星じゃなく。
透真を。
「……透真って」
「ん?」
「好きな話してる時、
瞬き減る」
透真が止まる。
「え?」
「あと、
ちょっと前のめりになる」
「そんななってる!?」
本気で驚いている。
伊織は少しだけ笑った。
「なってる」
透真は恥ずかしそうに頬を押さえた。
「うわ……恥ずかしい」
「別に悪くない」
むしろ。
その顔を見てると、
こっちまで少し楽しくなる。
☆
窓の外。
夕焼けが空を染めていた。
透真はそれを見ながら、
小さく笑う。
「図書室って落ち着くね」
「……うん」
「伊織くんといると、
静かで楽」
その言葉に、
伊織は少しだけ目を細めた。
たぶん透真は、
深い意味なんてない。
でも。
そういうところがずるい。
☆
帰り際。
透真が本を抱えて立ち上がる。
「また来るね」
「……うん」
数歩歩いたあと。
伊織は小さく呟いた。
「透真って、
見てて飽きない」
透真が振り返る。
「え?」
「……なんでもない」
誤魔化した。
でも本当だった。
静かな図書室でも。
何気ない会話でも。
透真は、
自然と目を引く。
気付けば、
視線を向けている。
たぶんもう、
ただの興味じゃない。
読んでいただきありがとうございます!
ー
伊織が透真を気になるきっかけの話です。
基本的に伊織は図書館か天文部にいます。
ー
毎日21時に投稿予定です५✍⋆*
続きが気になったら評価やブックマークをお願いします
⭐️登場人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n5363me/1/




