【第3章】第6話 「朝焼けの帰り道」
―第6話「朝焼けの帰り道」
最終日の朝。
山の空気は少し冷たかった。
まだ眠気の残る静かな宿。
廊下には、
朝の光が細く差し込んでいる。
「……ねむ」
夕花が欠伸をする。
「昨日遅かったもんね〜」
和希先輩も珍しく眠そうだった。
観測が終わったあとも、
みんななかなか寝付けなかった。
余韻みたいに、
夜空が頭に残っていたから。
☆
男子部屋。
布団を畳みながら、
裕翔がため息を吐く。
「絶対寝不足」
「裕翔、
ずっと起きてたよね」
透真が言う。
「お前もだろ」
「星見てた」
「知ってる」
自然な会話。
自然な距離。
透真が荷物を持ち上げようとした瞬間、
裕翔が先にそれを取った。
「持つ」
「え、大丈夫」
「お前荷物整理下手なんだから落とす」
「そこまでじゃない」
「昨日コード踏みそうになってた」
反論できない。
透真は少し不服そうな顔をした。
その様子を見て、
薫が小さく笑う。
「否定できてねーじゃん」
「薫まで……」
すると薫は、
黙ったままスポーツドリンクを差し出した。
「ほら」
「……え?」
「顔死んでる」
透真が受け取る。
「ありがと」
嬉しそうに笑う。
その顔に、
薫は少しだけ視線を逸らした。
……だからその顔やめろって。
☆
宿の外。
朝焼けが山を淡く染めていた。
空は薄いオレンジと青。
眠そうな空気の中、
みんなゆっくり歩いている。
伊織は自然に透真の隣へ並んだ。
何も言わない。
でもその距離が、
前よりずっと自然だった。
透真も気にせず話しかける。
「伊織くん、
昨日ちゃんと寝れた?」
「少し」
「自分で起きれたのすごい」
「子ども扱い?」
「してない」
透真が笑う。
伊織も小さく口元を緩めた。
その空気は穏やかだった。
☆
少し前では、
昴先輩と和希先輩が話している。
「今年の一年、
すごい賑やかですね」
和希先輩が笑う。
昴先輩は後ろを振り返った。
透真たちが並んで歩いている。
笑い声。
柔らかい空気。
「……そうだな」
短い返事。
でも声は優しい。
神代先生はその横で、
静かにコーヒーを飲んでいた。
「先生、
なんか親みたいな顔してますよ」
和希先輩が笑う。
「してない」
即答。
でも少しだけ、
否定しきれていない。
神代先生はまた後ろを見る。
透真は、
みんなの中心で笑っている。
無防備で。
自然で。
だからこそ、
人を惹きつける。
……危なっかしいな。
でも。
その危うさごと、
みんな惹かれている。
神代先生は静かに息を吐いた。
☆
帰りのバス。
みんな疲れていた。
夕花は紬にもたれて寝ている。
薫はイヤホンをつけたまま目を閉じていた。
伊織は静かに本を読んでいる。
和希先輩はしおりを片付けながら、
途中で寝落ちしていた。
昴先輩は窓の外を眺めている。
神代先生は一番後ろの席で、
静かに目を閉じていた。
そして。
透真は窓際で、
朝焼けを見ていた。
流れていく山。
淡い光。
少し眠そうな横顔。
でもその目は、
どこか満たされていた。
裕翔が隣で小さく笑う。
「また空見てる」
透真も笑った。
「綺麗だから」
窓の外。
夏の朝焼けが、
ゆっくり空を染めていく。
透真はその景色を見ながら、
静かに思う。
この夏。
この時間。
この場所。
みんなと見た星空を。
きっと、
ずっと忘れたくないと思った。
読んでいただきありがとうございます!
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夏合宿編ラストの帰りのお話です。
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毎日12時か21時に投稿予定です५✍⋆*
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