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【第3章】第6話 「朝焼けの帰り道」

―第6話「朝焼けの帰り道」


最終日の朝。


山の空気は少し冷たかった。


まだ眠気の残る静かな宿。


廊下には、

朝の光が細く差し込んでいる。


「……ねむ」


夕花が欠伸をする。


「昨日遅かったもんね〜」


和希先輩も珍しく眠そうだった。


観測が終わったあとも、

みんななかなか寝付けなかった。


余韻みたいに、

夜空が頭に残っていたから。



男子部屋。


布団を畳みながら、

裕翔がため息を吐く。


「絶対寝不足」


「裕翔、

ずっと起きてたよね」


透真が言う。


「お前もだろ」


「星見てた」


「知ってる」


自然な会話。


自然な距離。


透真が荷物を持ち上げようとした瞬間、

裕翔が先にそれを取った。


「持つ」


「え、大丈夫」


「お前荷物整理下手なんだから落とす」


「そこまでじゃない」


「昨日コード踏みそうになってた」


反論できない。


透真は少し不服そうな顔をした。


その様子を見て、

薫が小さく笑う。


「否定できてねーじゃん」


「薫まで……」


すると薫は、

黙ったままスポーツドリンクを差し出した。


「ほら」


「……え?」


「顔死んでる」


透真が受け取る。


「ありがと」


嬉しそうに笑う。


その顔に、

薫は少しだけ視線を逸らした。


……だからその顔やめろって。



宿の外。


朝焼けが山を淡く染めていた。


空は薄いオレンジと青。


眠そうな空気の中、

みんなゆっくり歩いている。


伊織は自然に透真の隣へ並んだ。


何も言わない。


でもその距離が、

前よりずっと自然だった。


透真も気にせず話しかける。


「伊織くん、

昨日ちゃんと寝れた?」


「少し」


「自分で起きれたのすごい」


「子ども扱い?」


「してない」


透真が笑う。


伊織も小さく口元を緩めた。


その空気は穏やかだった。



少し前では、

昴先輩と和希先輩が話している。


「今年の一年、

すごい賑やかですね」


和希先輩が笑う。


昴先輩は後ろを振り返った。


透真たちが並んで歩いている。


笑い声。


柔らかい空気。


「……そうだな」


短い返事。


でも声は優しい。


神代先生はその横で、

静かにコーヒーを飲んでいた。


「先生、

なんか親みたいな顔してますよ」


和希先輩が笑う。


「してない」


即答。


でも少しだけ、

否定しきれていない。


神代先生はまた後ろを見る。


透真は、

みんなの中心で笑っている。


無防備で。


自然で。


だからこそ、

人を惹きつける。


……危なっかしいな。


でも。


その危うさごと、

みんな惹かれている。


神代先生は静かに息を吐いた。



帰りのバス。


みんな疲れていた。


夕花は紬にもたれて寝ている。


薫はイヤホンをつけたまま目を閉じていた。


伊織は静かに本を読んでいる。


和希先輩はしおりを片付けながら、

途中で寝落ちしていた。


昴先輩は窓の外を眺めている。


神代先生は一番後ろの席で、

静かに目を閉じていた。


そして。


透真は窓際で、

朝焼けを見ていた。


流れていく山。


淡い光。


少し眠そうな横顔。


でもその目は、

どこか満たされていた。


裕翔が隣で小さく笑う。


「また空見てる」


透真も笑った。


「綺麗だから」


窓の外。


夏の朝焼けが、

ゆっくり空を染めていく。


透真はその景色を見ながら、

静かに思う。


この夏。


この時間。


この場所。


みんなと見た星空を。


きっと、

ずっと忘れたくないと思った。



読んでいただきありがとうございます!

夏合宿編ラストの帰りのお話です。

毎日12時か21時に投稿予定です५✍⋆*

続きが気になったら評価やブックマークをお願いします


⭐️登場人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n5363me/1/

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