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【第3章】第5話「流星群の夜」

―第5話「流星群の夜」



その夜は、

空気が違った。


山の上。


観測地点。


見上げた夜空いっぱいに、

星が広がっている。


街では絶対見られない光景だった。


「……すご……」


透真が小さく息を呑む。


その声すら、

夜空に溶けそうなくらい静かだった。


頭上には天の川。


無数の星。


夜なのに、

空が明るい。


「ほんとに見えるんだ……」


透真は目を離せないまま呟く。


風が黒髪を揺らした。


その横顔は、

あまりにも綺麗だった。



「透真くん、

口開いてる」


和希先輩が笑う。


「だって……!」


透真は興奮したまま、

空を指差す。


「あそこ!

あれ夏の大三角ですよね!?」


「そうだな」


昴先輩が頷く。


「ベガ、アルタイル、デネブ」


透真の目がさらに輝く。


「ほんとに全部見える……!」


その顔を見て、

昴先輩は少しだけ笑った。


こんな顔をされると、

何でも教えたくなる。


隣で神代先生が、

静かにその様子を見ていた。


……昴、

完全に顔柔らかいな。



観測が始まる。


望遠鏡を覗いた透真が、

小さく声を漏らした。


「……綺麗」


ふわりと笑う。


恋愛感情なんて一切ない。


ただ、

好きなものを見た時の顔。


だからこそ、

破壊力があった。


その瞬間。


みんな、

言葉を失った。


裕翔は思う。


……昔から知ってる。


こういう顔。


星見てる時の透真。


でも。


今は自分だけじゃない。


みんな知ってる。


それが、

妙に落ち着かなかった。



薫は視線を逸らせない。


なんなんだよ、

その顔。


誰に向けてるわけでもないのに。


見てると、

胸がざわつく。


もっと見たい。


でも、

自分だけ見てほしい。


そんな感情が、

少しずつ形になり始めていた。



伊織は静かに透真を見る。


夜空より。


星より。


今は透真の方が、

ずっと目を引いた。


楽しそうに笑う。


嬉しそうに瞬く目。


見ていて飽きない。


いや、

もっと見ていたい。


その気持ちを、

もう“興味”だけでは片付けられなかった。



夕花は小さく息を吐く。


透真は危なっかしい。


放っておけない。


でも今はそれだけじゃない。


嬉しそうに笑う顔を見てると、

守りたくなる。


誰かに傷付けられたくない。


そんな感情が、

胸の奥で静かに熱を持っていた。



紬は静かに透真を見つめる。


みんな、

透真を見てる。


ちゃんと気付いてる。


その上で、

少しだけ思う。


透真が一番安心して笑える場所、

自分の隣だったらいいのに。


紬は小さく目を伏せた。



「流れるぞ」


昴先輩の声。


次の瞬間。


夜空を光が横切った。


「あ……!」


透真が息を呑む。


流れ星。


一瞬だけの光。


でもその短い時間が、

あまりにも綺麗だった。


透真は目を輝かせたまま、

小さく笑う。


「……みんなと来れてよかった」


静かな声。


でも、

その一言で十分だった。


全員、

止まる。


心臓に悪い。


和希先輩が思わず顔を覆った。


「透真くん、

無自覚やばい……」


「和希うるさい」


薫が即座に返す。


でも声が少し掠れてる。


裕翔は黙ったまま、

透真を見ていた。


伊織も、

夕花も、

紬も。


昴先輩は静かに目を細める。


神代先生だけが、

少し離れた位置でその空気を見ていた。


……分かりやすいな。


誰が見ても。


全員、

透真に落ちてる。


でも。


当の本人だけ、

何も気付いていない。


神代先生は苦笑する。


「無防備すぎるだろ」


小さく呟く。


その時。


透真がふらりと一歩下がった。


夜空を見上げたまま。


危ない。


神代先生が自然に肩を引く。


「前見ろ」


「あ、すみません」


「星見て足元疎かにするな」


少し呆れた声。


透真は困ったように笑った。


「でも今日、

ほんと綺麗で……」


その笑顔。


神代先生は一瞬だけ言葉を止める。


教師として、

踏み込みすぎない。


ちゃんと線を引く。


そのつもりなのに。


透真を見ていると、

どうしても目を離せなくなる。


「……分かってる」


神代先生は静かに答えた。


その声は、

少しだけ優しかった。



読んでいただきありがとうございます!

夏の合宿 メインの観測回です✳︎

無防備で純粋な透真くんにみんなの心は揺れていきます。

毎日12時、21時に投稿予定です५✍⋆*

続きが気になったら評価やブックマークをお願いします


⭐️登場人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n5363me/1/

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