【第3章】第5話「流星群の夜」
―第5話「流星群の夜」
その夜は、
空気が違った。
山の上。
観測地点。
見上げた夜空いっぱいに、
星が広がっている。
街では絶対見られない光景だった。
「……すご……」
透真が小さく息を呑む。
その声すら、
夜空に溶けそうなくらい静かだった。
頭上には天の川。
無数の星。
夜なのに、
空が明るい。
「ほんとに見えるんだ……」
透真は目を離せないまま呟く。
風が黒髪を揺らした。
その横顔は、
あまりにも綺麗だった。
☆
「透真くん、
口開いてる」
和希先輩が笑う。
「だって……!」
透真は興奮したまま、
空を指差す。
「あそこ!
あれ夏の大三角ですよね!?」
「そうだな」
昴先輩が頷く。
「ベガ、アルタイル、デネブ」
透真の目がさらに輝く。
「ほんとに全部見える……!」
その顔を見て、
昴先輩は少しだけ笑った。
こんな顔をされると、
何でも教えたくなる。
隣で神代先生が、
静かにその様子を見ていた。
……昴、
完全に顔柔らかいな。
☆
観測が始まる。
望遠鏡を覗いた透真が、
小さく声を漏らした。
「……綺麗」
ふわりと笑う。
恋愛感情なんて一切ない。
ただ、
好きなものを見た時の顔。
だからこそ、
破壊力があった。
その瞬間。
みんな、
言葉を失った。
裕翔は思う。
……昔から知ってる。
こういう顔。
星見てる時の透真。
でも。
今は自分だけじゃない。
みんな知ってる。
それが、
妙に落ち着かなかった。
☆
薫は視線を逸らせない。
なんなんだよ、
その顔。
誰に向けてるわけでもないのに。
見てると、
胸がざわつく。
もっと見たい。
でも、
自分だけ見てほしい。
そんな感情が、
少しずつ形になり始めていた。
☆
伊織は静かに透真を見る。
夜空より。
星より。
今は透真の方が、
ずっと目を引いた。
楽しそうに笑う。
嬉しそうに瞬く目。
見ていて飽きない。
いや、
もっと見ていたい。
その気持ちを、
もう“興味”だけでは片付けられなかった。
☆
夕花は小さく息を吐く。
透真は危なっかしい。
放っておけない。
でも今はそれだけじゃない。
嬉しそうに笑う顔を見てると、
守りたくなる。
誰かに傷付けられたくない。
そんな感情が、
胸の奥で静かに熱を持っていた。
☆
紬は静かに透真を見つめる。
みんな、
透真を見てる。
ちゃんと気付いてる。
その上で、
少しだけ思う。
透真が一番安心して笑える場所、
自分の隣だったらいいのに。
紬は小さく目を伏せた。
☆
「流れるぞ」
昴先輩の声。
次の瞬間。
夜空を光が横切った。
「あ……!」
透真が息を呑む。
流れ星。
一瞬だけの光。
でもその短い時間が、
あまりにも綺麗だった。
透真は目を輝かせたまま、
小さく笑う。
「……みんなと来れてよかった」
静かな声。
でも、
その一言で十分だった。
全員、
止まる。
心臓に悪い。
和希先輩が思わず顔を覆った。
「透真くん、
無自覚やばい……」
「和希うるさい」
薫が即座に返す。
でも声が少し掠れてる。
裕翔は黙ったまま、
透真を見ていた。
伊織も、
夕花も、
紬も。
昴先輩は静かに目を細める。
神代先生だけが、
少し離れた位置でその空気を見ていた。
……分かりやすいな。
誰が見ても。
全員、
透真に落ちてる。
でも。
当の本人だけ、
何も気付いていない。
神代先生は苦笑する。
「無防備すぎるだろ」
小さく呟く。
その時。
透真がふらりと一歩下がった。
夜空を見上げたまま。
危ない。
神代先生が自然に肩を引く。
「前見ろ」
「あ、すみません」
「星見て足元疎かにするな」
少し呆れた声。
透真は困ったように笑った。
「でも今日、
ほんと綺麗で……」
その笑顔。
神代先生は一瞬だけ言葉を止める。
教師として、
踏み込みすぎない。
ちゃんと線を引く。
そのつもりなのに。
透真を見ていると、
どうしても目を離せなくなる。
「……分かってる」
神代先生は静かに答えた。
その声は、
少しだけ優しかった。
読んでいただきありがとうございます!
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夏の合宿 メインの観測回です✳︎
無防備で純粋な透真くんにみんなの心は揺れていきます。
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毎日12時、21時に投稿予定です५✍⋆*
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⭐️登場人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n5363me/1/




