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【第3章】第4話 「名前を呼ぶ距離」

―第4話 「名前を呼ぶ距離」



夕方前の観測地。


山の空気は澄んでいて、

風が少し涼しい。


天文部は観測準備の真っ最中だった。


「機材こっち運ぶぞー」


和希先輩が声を上げる。


「はい!」


透真がすぐ反応する。


その後ろを、

裕翔が機材を抱えて歩いていた。


「重くない?」


「大丈夫。

裕翔の方が重そう」


「俺は慣れてる」


自然な会話。


自然な距離。


薫は少し離れた場所から、

その様子を見ていた。


……ほんと近い。


なんか、

普通にイラつく。



「透真くん、

その脚立押さえてるから上登って」


「はい」


和希先輩に言われ、

透真が脚立へ上がる。


観測用ライトの調整らしい。


けれど。


「……高」


透真、

若干ふらつく。


「危なっかしいなあ……」


和希先輩が下から脚立を支える。


透真は真剣な顔で手を伸ばした。


「もうちょっと右ですか?」


「そうそう」


その時。


ぐらっ。


脚立が小さく揺れた。


「っ、透真くん!」


和希先輩が咄嗟に腕を伸ばす。


透真の身体を引き寄せるように支えた。


「うわっ」


「だから言ったでしょ〜!?」


かなり本気で焦っている。


透真は目を瞬かせた。


「……すみません」


「怪我したらどうするの」


完全に保護者だった。


そのやり取りを見て、

夕花がすぐ近寄ってくる。


「透真、大丈夫!?」


「うん、平気」


「だから危ないって言ったじゃん!」


「言われてない」


「今言った!」


夕花は真面目に怒っていた。


でも透真は少し笑ってしまう。


「夕花、

なんかお母さんみたい」


「は!?」


夕花が赤くなる。


その反応を見て、

紬がくすっと笑った。


「夕花ちゃん、

すごい心配してた」


「そ、それはするでしょ!」


「うんうん」


紬は穏やかに頷く。


でもその視線は、

しっかり透真を見ていた。



少し離れた場所。


神代先生は腕を組みながら、

その光景を見ていた。


和希は相変わらず世話を焼きすぎ。


夕花は分かりやすい。


透真本人は、

たぶん何も分かっていない。


「先生、

笑ってる」


隣で機材確認をしていた昴先輩が言う。


神代先生は小さく肩を竦めた。


「いや。

青春だなと思って」


「……」


昴先輩は少し黙る。


その視線の先には、

透真。


脚立から降りたあとも、

楽しそうに空を見上げている。


「昴先輩!」


呼ばれて顔を上げる。


透真が機材を抱えて、

こちらへ来ていた。


「これ、

どこ置けばいいですか?」


“昴先輩”


その呼び方が、

思った以上に胸に残る。


昴先輩は少しだけ間を空けた。


「……こっち」


「はい」


透真は素直に頷く。


その横顔を見ながら、

昴先輩は静かに息を吐いた。


なんなんだ、

この感覚は。


後輩相手に。


しかも一年。


なのに、

目で追ってしまう。


神代先生はそんな昴先輩を見て、

なんとなく察する。


……こっちもだいぶ重症か。



日が沈み始める。


空はゆっくり、

夜へ変わっていく。


透真は望遠鏡の横で、

楽しそうに機材を覗き込んでいた。


「和希先輩、

これって合ってます?」


「合ってるよ〜」


「昴先輩、

この星って――」


「まだ少し早いな」


次々話しかける。


先輩二人、

普通に返してしまう。


その様子を見ていた薫が、

なんとも言えない顔をした。


……なんであんな自然なんだよ。


伊織はその横で、

静かに口元を緩める。


「薫、

顔怖い」


「は?」


「分かりやすい」


「意味分かんねえ」


薫は即座に否定した。


でも、

自分でも少しだけ分かっていた。


透真が誰かと楽しそうにしていると、

妙に落ち着かない。



その時。


「透真」


低い声が飛ぶ。


神代先生だった。


透真が振り返る。


「足元」


「あ」


透真、

コードを踏みかけていた。


神代先生が軽く腕を引く。


距離が近い。


でも一瞬だけ。


「星見ると周り見えなくなる癖、

まだ直ってないな」


少し呆れた声。


透真は気まずそうに笑う。


「……すみません」


「怪我するなよ」


その言い方は、

教師として当然の注意。


なのにどこか、

優しかった。


その様子を見ていた裕翔が、

なんとなく眉を寄せる。


薫も少し黙る。


伊織だけが静かに目を細めた。


透真は本当に、

誰の心にも自然に入り込む。




読んでいただきありがとうございます!

透真くんが順調にみんなから可愛がられてにっこりです(笑)

毎日12時か21時に投稿予定です५✍⋆*

続きが気になったら評価やブックマークをお願いします


⭐️登場人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n5363me/1/

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