【第3章】第3話 「夜更かしと本音」
―第3話 「夜更かしと本音」
観測を終えて宿へ戻る頃には、
空はすっかり深い夜色になっていた。
山の夜は静かだ。
虫の声。
遠くの風。
少し冷たい空気。
「いや〜……
今日めちゃくちゃ見えたね!」
夕花が興奮したまま言う。
「流れ星三回見た!」
「夕花ちゃん、
ずっとテンション高いね〜」
和希先輩が笑った。
その横で、
透真はまだ空を見上げている。
「……すごかった」
ぽつり。
「空、
ほんと近かった」
その声が、
あまりにも嬉しそうで。
神代先生は少し後ろを歩きながら、
静かに目を細めた。
……本当に星が好きなんだな。
☆
消灯後。
男子部屋。
布団が並ぶ静かな空間。
「……寝れない」
透真が小さく呟く。
「子どもか」
薫が即座に返した。
「だって今日すごかった」
「それ五回くらい聞いた」
「もっと言える」
「やめろ」
そのやり取りに、
裕翔が吹き出す。
「薫、
なんだかんだ全部返事するよな」
「うるさい」
伊織は静かにその空気を聞いていた。
部屋の雰囲気は心地いい。
でも。
透真は少しだけ身体を起こした。
「……ちょっと水飲んでくる」
「んー」
裕翔が眠そうに返事する。
透真は静かに襖を開けた。
☆
夜の廊下は薄暗かった。
窓の外には、
山の夜空。
静かな藍色。
透真は自販機で水を買って、
そのまま窓際へ向かう。
「……まだ起きてたのか」
低い声。
振り返ると、
神代先生が立っていた。
片手には缶コーヒー。
どうやら見回り中らしい。
「あ、先生」
「眠れないか?」
「ちょっとだけ」
透真は窓の外を見る。
「今日の星、
綺麗すぎて」
神代先生はその横顔を静かに見た。
嬉しそうで。
満たされた顔。
昔の自分も、
こんな顔をしていただろうかと思う。
その時。
廊下の向こうから、
もう一人足音が近づいた。
「透真?」
伊織だった。
透真が少し笑う。
「伊織くんも眠れないの?」
「……うーん、少しだけね。」
伊織は透真の隣へ来る。
神代先生は二人を見て、
小さく息を吐いた。
「俺は見回り戻るから、
長居するなよ」
「はーい」
透真の返事は軽い。
神代先生はそのまま歩き出した。
でも曲がり角を曲がる前、
少しだけ後ろを見る。
並んで夜空を見る二人。
静かな空気。
……伊織、
あれはだいぶきてるな。
先生だからこそ、
分かることもある。
神代先生は苦笑して、
そのまま廊下を去った。
☆
窓際。
伊織が静かに言う。
「透真って、
夜似合う」
透真が少し驚いた顔をする。
「そう?」
「うん」
短い返事。
でも優しい。
透真は少し笑った。
「伊織くんも、
静かな夜似合うよね」
伊織は一瞬だけ目を瞬く。
そのまま、
透真を見る。
窓から入る月明かり。
柔らかい黒髪。
眠たそうな目。
でも星を見る時だけ、
そこに光が宿る。
伊織は静かに言った。
「……透真も」
透真は少し照れたように笑った。
その笑顔を見て、
伊織はふっと目を細める。
静かな時間だった。
たくさん話すわけじゃない。
なのに居心地が良い。
透真は窓の外を見ながら呟く。
「こういう夜、
ずっと覚えてたいな」
伊織は答えない。
でも胸の奥では、
同じことを思っていた。
☆
部屋へ戻る。
襖を開けた瞬間。
「……どこ行ってた?」
裕翔の声。
まだ起きていたらしい。
透真は少し目を丸くする。
「水飲みに」
「長くない?」
「伊織くんと話してた」
その瞬間。
空気が少し止まった。
裕翔は「ふーん」と返した。
それだけ。
それだけなのに。
なんとなく声が低い。
透真は気付いていない。
その横で、
薫が静かに眉を寄せていた。
……なんでそんな気になるんだよ。
伊織と話してただけだろ。
別に普通。
普通なのに。
胸の奥が妙にざわつく。
透真はそんな空気も知らず、
自分の布団へ戻った。
「明日も晴れるかな」
嬉しそうな声。
誰もすぐには返事をしなかった。
ただ静かな夜だけが、
部屋の中に広がっていた。
読んでいただきありがとうございます!
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伊織くんとの会話は静かな空間が似合うと思って作ったお話です。
裕翔と薫がちょっとだけ嫉妬します(笑)
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