【第3章】第2話 「山の合宿所」
―第2話 「山の合宿所」
山道を走るバスが、
ゆっくりカーブを曲がる。
窓の外には深い緑。
遠くの空は、
夏の青だった。
「山すご……」
透真が窓に顔を寄せる。
「さっきからそれしか言ってない」
薫が呆れたように言う。
「だって空近い」
透真は真顔だった。
その返しに、
裕翔が笑う。
「ほんと星絡むとテンションやばいな」
「裕翔も見れば分かるって」
「はいはい」
前の席では、
夕花と紬が観測用のお菓子を広げていた。
「夜って絶対お腹空くよね」
「夕花ちゃん絶対いっぱい持ってきてる」
「バレた?」
そんな後ろから、
和希先輩が振り返る。
「お菓子はほどほどにね〜」
「和希先輩、
先生みたい」
夕花が笑う。
その空気に、
みんな少し笑う。
☆
合宿所は、
山奥の古い宿だった。
木造の建物。
長い廊下。
軋む床。
「うわ〜、合宿って感じ!」
夕花が声を上げる。
透真もきょろきょろ辺りを見回していた。
「なんか旅館みたい……」
「実際旅館だよ〜」
和希先輩が笑う。
「昔からここ使わせてもらってるんだ」
昴先輩は玄関で荷物確認をしていた。
「機材は奥の部屋。
勝手に触るなよ」
「はーい」
返事がゆるい。
夏休み前独特の浮ついた空気。
神代先生はそんな部員たちを見ながら、
静かに息を吐く。
……元気だな。
☆
「部屋割りこれな」
昴先輩が紙を貼る。
透真がすぐ覗き込んだ。
男子部屋
透真
裕翔
薫
伊織
「おー」
裕翔が笑う。
「修学旅行感ある」
「騒ぐなよ」
薫は素っ気ない。
でも少し楽しそうだった。
「女子は夕花ちゃんと紬ちゃん。
俺と昴は隣の部屋ね〜」
和希先輩が言う。
「先生は?」
透真が聞く。
「俺は一階の部屋」
神代先生が答えた。
「何かあったら呼べ」
その言葉に、
夕花が少し笑う。
「先生、保護者感すご」
「引率だからな」
即答だった。
☆
男子部屋は畳の大部屋だった。
窓が大きい。
山の風が入ってくる。
「うわ、布団だ」
透真が少し嬉しそうに言う。
「そこテンション上がる?」
裕翔が笑った。
透真は荷物を置くと、
そのまま窓際へ向かう。
カーテンを開ける。
外には山並み。
少しずつ暗くなる空。
「……すご」
小さな声。
その横顔が、
あまりにも嬉しそうで。
裕翔は自然に隣へ立った。
「また空見てる」
呆れた声。
でも優しい。
透真は笑う。
「だって綺麗」
「転ぶなよ」
「窓で?」
「お前ならやる」
その距離感は自然だった。
幼馴染だけが持ってる、
当たり前みたいな近さ。
その様子を見ていた薫が、
なんとなく眉を寄せる。
……近すぎだろ。
理由の分からないモヤモヤ。
伊織は静かにその空気を眺めていた。
☆
夜。
観測前の自由時間。
風呂上がりの廊下には、
少し涼しい風が通っていた。
透真は濡れた髪のまま、
自販機へ向かう。
すると。
「透真くん」
和希先輩が声を掛けた。
「髪ちゃんと乾かさないと風邪ひくよ〜」
「あ」
「ほら」
タオルを渡される。
完全に世話を焼かれていた。
透真が素直に髪を拭き始める。
その様子を、
少し後ろから昴先輩が見ていた。
「お前、
ほんと危なっかしいな」
「え?」
「見てて不安になる」
昴先輩が淡々と言う。
でも声は少し柔らかい。
透真はきょとんとしてから、
少し笑った。
「昴先輩、意外と心配性ですよね」
その呼び方。
その笑顔。
昴先輩がほんの少しだけ言葉を止める。
和希先輩が隣で吹き出した。
「昴、今の効いた?」
「和希」
「図星だ〜」
そんなやり取りを、
少し離れた場所から神代先生が見ていた。
……分かりやすい。
無自覚な後輩一人に、
だいぶ振り回されてる。
神代先生は小さく息を吐いた。
でも。
透真が楽しそうに笑っているのを見ると、
それも悪くない気がした。
☆
消灯前。
男子部屋。
布団が並ぶ。
窓の外には山の夜。
透真は冊子を読みながら、
嬉しそうに呟いた。
「明日晴れるかな……」
「まだ言ってる」
薫が布団に転がったまま返す。
「だって大事」
「透真は星関連になると無限に喋る」
裕翔が笑う。
伊織は静かに窓の外を見ていた。
街よりずっと暗い夜。
その分だけ、
星が近かった。
読んでいただきありがとうございます!
ー
いよいよ合宿所に到着です!
たぶん学校でお世話になっている山の合宿所(旅館)
テニスコートや体育館なども併設されているので、夏休みは入れ替わりでいろんな部活が合宿に来ています。
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毎日12時か21時に投稿予定です५✍⋆*
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⭐️登場人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n5363me/1/




