【第3章「夏の観測合宿」】第1話 「夏の始まり」
第3章 夏休み合宿編のスタートです!
― 第1話 「夏の始まり」
六月の終わり。
窓の外では、
少し湿った夏の風が木々を揺らしていた。
放課後の天文部室。
珍しく全員揃っている。
「今日はなんで全員いるんだ?」
夕花が椅子に座りながら聞く。
「たぶんアレでしょ」
裕翔が笑う。
その時。
部室の扉が開いた。
「揃ってるな」
入ってきたのは神代先生だった。
黒いスラックス。
緩く腕まくりしたシャツ。
相変わらず気怠そうなのに、
妙に目を引く。
その後ろから、
昴先輩と和希先輩も入ってくる。
「お、来た来た〜」
和希先輩が手に持った紙を机に置いた。
透真はきょとんとしている。
「なんですか?」
その顔を見て、
和希先輩が笑う。
「今年の夏合宿の話」
一瞬。
透真の目が見開かれた。
「……合宿?」
「そう」
昴先輩が頷く。
「毎年やってる観測合宿だ」
数秒の沈黙。
次の瞬間。
「行きたいです!!」
透真が勢いよく立ち上がった。
早い。
部室に笑いが起きる。
「まだ説明終わってないよ〜?」
和希先輩が吹き出す。
でも透真はもう止まらない。
「山ですか!?
どこですか!?
流星群見えますか!?」
完全に目が輝いていた。
神代先生が小さく笑う。
「相変わらずだな」
透真が振り返る。
「え?」
「星の話になると周り見えなくなる」
「……あ」
否定できない。
裕翔がすぐ笑った。
「昔からそうなんですよ、こいつ」
「裕翔うるさい」
「小学生の頃、
流星群の日に外で寝ようとして親に怒られてたし」
「言わなくていい!」
透真が真っ赤になる。
部室の空気が柔らかく緩んだ。
神代先生はそんな透真を見ながら、
少しだけ目を細める。
本当に、
嬉しそうな顔をする。
☆
「場所は山の観測施設近くの宿」
昴先輩が資料を広げる。
「街灯が少ないから、
条件良ければ天の川も見える」
「ほんとに!?」
透真が机に身を乗り出す。
「夏の大三角も綺麗に見えるんですよね!?
あとペルセウス座流星群って――」
早口。
完全にオタクモード。
昴先輩は少し驚いた後、
静かに頷いた。
「……詳しいな」
「好きなので!」
透真は真っ直ぐ答える。
その笑顔が、
やたら眩しい。
昴先輩はほんの少しだけ、
口元を緩めた。
その様子を見ていた薫が、
なんとなく面白くない顔をする。
……なんで先輩、
そんな笑うんだよ。
☆
「はい、これ今回のしおり」
和希先輩が人数分配っていく。
「透真くん絶対迷子なるから、
連絡先ちゃんと書いてね〜」
「なりません」
「なる」
裕翔が即答。
夕花も頷く。
「なるね」
「なると思う」
紬まで乗ってきた。
透真が少し不服そうな顔をする。
神代先生はそのやり取りを見ながら、
静かに息を吐いた。
……仲良いな。
でも。
視線の向きが、
少しずつ変わり始めてる。
裕翔の距離感。
薫の分かりやすい視線。
伊織の静かな観察。
和希の過保護。
昴の柔らかい表情。
本人だけ、
何も気付いていない。
神代先生は小さく笑った。
「無自覚って怖いな」
「先生?」
透真が首を傾げる。
「いや、なんでもない」
神代先生は自然に誤魔化した。
☆
帰り際。
みんなで部室を出る。
空はすっかり夜に近づいていた。
透真がふと立ち止まる。
「……わ」
空を見上げる。
薄青い夜空に、
小さな星が浮かんでいた。
夏の匂い。
ぬるい風。
「もうすぐ夏ですね」
透真が嬉しそうに笑う。
その横顔を。
みんな、
自然と見ていた。
神代先生だけが、
少し離れた位置でその空気を見る。
青春だな。
心の中でそう呟いて、
静かに目を細めた。
読んでいただきありがとうございます!
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3章は夏のイベント!合宿編です!!
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毎日12時か21時に投稿予定です५✍⋆*
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