五話
「おはよう、姫騎士、よく眠れた?」
「ここ、は? ――いッ! わ、私の足を折ったのか?」
「そうだよ。だから下手に暴れると痛むからね。ベッドを解体して添え木はしてあげたけど、尋問をするなら最初にこれくらいはしておかないと。絶対に情報を吐かせるって意思を見せることが大事なんだよ。
ちなみに場所は一歩も変わってないよ、つまらない地下室のまま。ここは陽の光は入らないし時計も無いから時間は分からないけど、体感三時間くらいかな? 君はここで気絶していた。
完全防音っていいね。さっき姫騎士があれだけ暴れても誰も様子を見に来ない。それと、衛兵を呼ばれても面倒だからね、手足は椅子に拘束させてもらったよ」
「……チッ。拘束の紐など用意してなかったはずだが?」
「見てよこれ! 俺の服が半分に! おへそ丸出しで恥ずかしいったらなんの。お腹も冷えるし、温かいスープが恋しくなるねぇ?」
「婦女子を拘束して、貴様も所詮は男か。防音なのを利用して下賤な復讐でもしようという魂胆か」
「勝手に俺を変態にしないでよ。話がしたいだけなのに。あまり時間もないんだよ」
「時間だと? 仲間が助けに来るのか」
「いいや、助けなんて来ないよ。俺は自力でここから脱出しないといけないんだ。
まあ時間のことはさておき、形勢逆転したってことで、今度は俺から姫騎士に対して聞きたいことがある」
「殺人鬼の質問に答える義務はない。殺したければ殺せばいい、この身体を犯したければ犯せばいい。欲望のままに抱いてこの身を汚してみろ」
「自棄になっているところ悪いけど、本当に聞きたいことがあるだけなんだ。
というわけで、質問! 君が姫騎士を始めたきっかけは何かな?」
「なんだその質問は。答える義務はないと言っただろ」
「答えろよ。逃げるのか?」
「貴様、その言葉を使えば何でも私が答えると思っているのか!」
「逃げるんだな? 殺人鬼相手にいいようにやられて、大して強くもないのに、公爵家の金と権力で後ろ暗い事は揉み消してさ。君自身は何も偉くないんだよ。俺が暗殺した三人と同じ、弱者だ」
「黙れッ! 私は弱者なんかじゃない! 正義によって悪を断罪する、圧倒的な強者だ! 貴様みたいにコソコソとしているやつとは違う! 家も関係ない! 私は私が決めた正義によって悪を断罪しているのだ!」
「そうかい。じゃあ答えてよ、どうして姫騎士を始めたんだい?」
「ルミに悪が降りかかったからだ! 誰もいない時間に神殿に忍び込んだ男がルミを襲おうとしていたところを、私は現行犯で捕まえた。後ろから突き飛ばし、首に護身用のナイフを突き刺した!
聖女を守ってくれてありがとうと国と神殿からは感謝され、ルミもいっそう私の傍にいるようになった! 私は正義だ、正義によってこの国を守った! だから悪を断罪する騎士となったのだ!」
「正義、ねぇ。聖女を救った功績を盾に、調査もさせず男を殺したことはお咎め無し。姫騎士が私人逮捕からの処罰を与えることも、実績があるからと黙認。たとえ人違いで殺してしまっても、疑わしきは罰せよってやつで容疑者に責任転嫁。
これもう無敵じゃん? 俺がこうして捕まるまでに、最低でも三人は殺しているわけだろ? うち二人は事件とは無関係の人。それで君が罪に問われていないのは、公爵家が王家の弱みでも握っているんだろうね。後は金払いがいいのかな」
「違う! 私は、間違った事をしていない! だから国は何も言わないし、父上も私の背中を押してくれた!」
「国は言わなかったんじゃない、言えなかったんだ。公爵家の都合なんてものは分からないが、君の背中を押したのも、姫騎士が暴れさせることに何か意味があったんだろうな。公爵家にとって都合の悪い人物を排除するために、姫騎士が私人逮捕するよう仕向けたのかもしれない」
「父上が私を利用していたというのか!? ありえない、父上は私の活動を応援してくれた。聖女暗殺の犯人探しも手伝ってくれたし、自慢の娘だと褒めてくれたのだぞ!」
「ここまで滑稽だと、逆に可哀そうに思えてくるな。姫騎士も悪い大人に騙された被害者ってか? ……いやいや、無実の人を殺しておいてそれはないか。
さて、君が姫騎士を始めた理由が判明したわけだが、思っていた以上のことはなかったな」
「たとえ父上が私を利用するつもりだったとしても、私が悪を断罪するためであることは変わらない!」
「確かに、最初は君の意志で聖女を助けるために男を殺した。それで正義感が芽生えたのかもしれないが、公爵家としては人殺しのレッテルを張られるわけにはいかない。
あくまで俺の憶測だから別の理由があるのかもしれないが、公爵家は王家の弱みを握っていて、娘は正義感に溢れている、これは利用しない手はないだろ? 人殺しが一転聖女を救った英雄となり、邪魔者を排除しても黙認してくれて、上手くいけば指名手配犯を捕まえた報奨金も手に入る。
娘の人殺しを受け入れてレッテルを張られるくらいなら、リスクを承知で“姫騎士”という正義の味方を作り上げる方がメリットはでかい」
「うそだ……そんなのは嘘だ! 父上が私という正義を作り上げたのか? そんなわけがない!」
「あくまで憶測だからね? あーそんなに暴れると傷に障るよ。これじゃあ暴れ防止に骨を折った意味がないじゃないか。
まあ姫騎士という存在はいつか破綻しただろうけど、君を尻尾切りにすれば自分の命くらいは助かるかもって打算かな? 一生後ろ指を差されながら生きていくことを受け入れず、戦う道を選んだ当主は強者だったかもしれないな」
「父上、そんな、……ま、まさか! ルーカスが貴様に暗殺を依頼した理由というのは――」
「お? 気付いた? いいよ、答え合わせしてやるよ。話してみな」
「……恐れたのか? 私と共にいることで、いつ破滅するかも分からない現状から逃げ出したかったのか?」
「正解! お見事! ようやく答えが出たね。そのとおり、彼は姫騎士の強気な性格に付いていけず悩んでいた。結婚すれば責任を共にし、現状の婚約者であっても飛び火するんじゃないかと脅えていた。
気が弱くて誰にも相談できなかった。たまたま酒の席で俺と一緒になり、酔っぱらった彼から話を聞いて暗殺したってわけ」
「そんな、ルーカスが私でそんなに思い詰めていたなんて」
「手を掛けたのは俺だけど、彼を殺すきっかけを作ったのは姫騎士、君だったんだよ」




