四話
「肌寒い日の朝に飲む温かいスープは格別だね。ここに肉も入っていれば、更にスープとして完璧だとは思わないかい? 姫騎士殿よ」
「懲りない奴だな。殺人鬼如きが生かしてもらえているだけ感謝しろ。そのジャムを没収されたくなければ昨日の続きをさっさと話すことだな」
「ジャムを没収だと? なんと外道なやつだッ! これは俺のだぞッ!」
「本題に入る前に貴様と話していると頭が痛くなる。昨日の二人の事はもういい、ルミを殺した理由について話せ」
「あともうちょういで食べ終わるから待って。……そういえば、そのドレスに防具って取り外しができるの? 昨日のドレスと違ってこれまた綺麗だね、何色の宝石に似ているんだろう、エメラルドかな? まあ何色でも似合っているのに変わりないよ」
「殺人鬼に美醜を評価されたくないが、これでも公爵家だ。見た目で舐められるわけにはいかない」
「そっかそっか。お金かかってでも見た目って大事だよね、権力と合わせると大抵の事は叶っちゃうから厄介だよ」
「何が言いたい」
「お気になさらず~。ごちそうさま、美味しかったよ。
そんで、何が聞きたいんだっけ? 今の俺はお腹が少し満たされて口が軽いかも」
「御託はいい、私の妹分であり、聖女だったルミの暗殺に至った経緯を話してもらおうか」
「そういえば、姫騎士は聖女の死について知りたくて必至だね。婚約者と第三王子は後回しでもいいと言わんばかりに、聖女に固執しているように見える。
まあ、君が聖女にどんな気持ちを抱いているかはあまり関係ないからどうでもいいか。それじゃあ、俺と聖女の出会いから話すとしよう。
あれは六年前、俺が聖女を暗殺する半年前のことだ。普通に礼拝に行ったら聖女から声を掛けられたんだよね」
「ルミから? やはり貴様からは人を寄せ付ける邪悪なものが纏わり付いているようだな。その首を落とした後は火あぶりにして浄化しなくてはならないな」
「話す気が失せるくらい物騒だな! それに、俺に話しかけてきた理由は邪悪なものとかじゃなくて、彼女が受けた神託によるものだから。ここ大事!」
「以前からの顔見知りではないだろ。どうして貴様と話さねばならん神託を受けるのだ。まさか! 不埒にも近づいて、耳元で囁いたのではないだろうな!」
「そんな神託詐欺みたいなことしないよ⁉ 俺ってそこまで信用ならないかなぁ? ……ならないね、そうだよね、俺ってば殺人鬼だったわ、あっはっは!
……と、おふざけはこれくらいにして、聖女と色々話して、殺して欲しいと頼まれたから暗殺した。以上、おわり」
「……は? ふざけているのか? それで終わりのはずがないだろう! 色々とはなんだ、どうして殺して欲しいと頼まれた、それを話せと言っている!」
「あんまり教えたくないんだけどなぁ。でも教えないと首が身体からポーンと離れて血しぶきぶしゃーって出ちゃいそうだし、仕方ない、出血大サービスだよ? 血しぶきだけに。……あ、つまんない? いや、ごめんて! 剣は抜かないで! ちゃんと話すから」
「……次は無いぞ」
「あー怖かった。ふざけるって命がけだぁ。
それで聖女と話した内容だよね? 六年以上も昔のことだから精密には覚えていないってことは先に言っておくね。端的に言うと、聖女からは救済を求められたんだ」
「救済だと? 神が、誰の救済を殺人鬼に求めたというのだ!」
「聖女の大事な人らしいよ。それがどう救済に繋がるのかは俺も分からないけど、聖女の大事な人のために、俺に暗殺を依頼してきたんだ。
それについては姫騎士の方が詳しくはないのか? 妹分だというのなら、それらしい人物に心当たりはないのか?」
「……いや、思い浮かばない。ルミの大事な人? 聖女ゆえ婚姻は禁じられているから婚約者すらいない。家族は遠方だが健在で、大きな怪我や病気もなかったはずだ。誰とでも隔てなく接し、私とだけは姉妹のように過ごしていたが」
「心当たりはない、と。あの子はなかなかに神秘的な雰囲気を纏っていたからな。親しい人相手でも隠し事はしていたかもしれないね。
さて、これで三つの事件について話したわけだが、さっそくこの首を落とすか?」
「本当にこれで全部か? 結局のところ、私は何一つ納得していない。
ルミも、マルロ様も、ルーカスも! 本当に殺人鬼に依頼しなくてはならない程追い詰められていたのか?」
「聖女についてはちょっと例外だけど、残りの二人は姫騎士が認める弱者だった。この国では弱者は淘汰されるんだろう? 強者に囲われながら過ごす毎日は辛かったんじゃないのか?」
「殺人鬼如きが私の親しい者たちの気持ちを代弁するな! ルミも、マルロ様も、ルーカスも、彼らはそう簡単に死んでいい訳がないんだ」
「そうか、まだ気付いていないんだな」
「なんだと?」
「俺は殺人鬼だ、三人に対して俺は暗殺を提案したが、彼らは受け入れた。どうしてだ? どうして姫騎士の関係者は暗殺されることを受け入れたんだ?」
「うるさいうるさい! その口を閉じろ! 首を落とされたいか!」
「はあ、困ったらすぐそれだ。逃げるのか? 逃げることは弱者がやることなんだろう? 姫騎士は自分がやって来たことを振り返る事もできない弱者だった、世間はそう解釈するんじゃないのか?
正義を振りかざしてきた姫騎士は、私情で無実の人を殺したことを金と権力で正当化し、法を犯していた」
「黙れ! 私は、……私は――ッ! もういい! 貴様を生かしておく理由はもうない! 殺してやる! 死ねえッ――!」
「おっと危ない。いきなり斬りかかってくるなんて危ないじゃないか」
「なッ! どこにナイフを仕込んでいた!」
「ボディチェックもせずに何を言う。ずっと袖に隠していただけじゃん。それと、剣の振り方を見て分かったけど、君、あまり強くないね」
「なんだと! 私を愚弄するか! 私は王国の剣術大会で何度も優勝しているんだぞ!」
「あっそ。ちょっと頭冷やそうな? ――よっと、ここを攻撃されると力が抜けるだろ?」
「ぐッ! ……き、さま……、なにを」
「しばらく寝てるといい。大丈夫、俺は紳士だからな、手は出さないよ」




