幕間1
「これはこれは! このような場所へどのような御用でしょうか、マルロ・ジル・ルルティエ第三王子様」
「こんな所へは初めて来たが、君は? どうしてそんな変なマスクを被っているのだ?」
「俺はこの焼却炉で働いている職員です。このマスクは聖女様の受けた神託によって作られた厄除けのマスクなんですよ。仕事柄、ここで働いているものは不幸を呼び寄せるって噂が広まってましてね。
このマスクを被れば、顔が見えないんで街を歩いてもここで働いているってバレないんです。いいでしょう?」
「よさは分からんが、聖女の神託ならばよいものなんだろうな。しかし、ここは一体何を焼いているのだ? ごみを捨てるための焼却炉は王宮の裏側にあったはずだ。こんな離れにある室内で、タンスみたいな代わった形の焼却炉は見た事がない」
「ここは、主に食べることのできない死んだ動物とか、後は……、まあ遺体なんかを処分する場所です。そんな不吉な所は王宮にいらないって声も多いんですが、移転する場所がないんですよ」
「悪い噂を耳にしても、君はここで働くのか? 逃げたいとは思わなかったのか?」
「逃げたいと思った事はないですね。だって、俺はこの職場が好きですから。まあさっさと転職したいってやつは何人かいますけどね。
というのも、俺は前の職場で上手くやっていけなくて、逃げ出したんですよ」
「え?」
「いじめってやつです。俺はナイフは扱えるんですが、剣を振るのが苦手でして。前の職場は仕事終わりに剣術の試合で格付けをしていまして、いつも最下位だった俺は先輩からも後輩からもいじめられたんです。
逃げた先、ここのおやっさんが俺を拾ってくれまして、ああ、あの時逃げ出してよかったなと思いました」
「逃げ出す事は弱者のすることだ。逃げれば恥だと後ろ指をさされる。……怖くなかったのか」
「この国だとそうみたいですね。でも今の俺を見てどうですか? 楽しそうでしょう? ……あ、マスク付けっぱなしじゃ顔が見えなかったですね。今外します」
「いや、外さずとも君が逃げた事を後悔していないことが分かる。
……もし、だが。もし、僕が現状から逃げ出したいと言ったらどう思う?」
「第三王子様がですか? えー……、難しい話だとは思いますし、咎める人も多いとは思いますが、俺は悪くないと思いますよ。
王族としての責任逃れ、とか後ろ指差されながら生きていくことにはなるでしょうけど、覚悟を決めて逃げるってのもいいんじゃないですか? あ、すんません、あくまで自分勝手な意見ですので、怒らないでくださいね?」
「分かっている。僕は聞いてみたかっただけだ。この国では強者は生き残り、弱者は淘汰される。僕は後者だ。たとえ勉学に長けていても、この国ではあまり意味がないと思ってね」
「なるほど、第三王子様は勉強したいがために逃げようと思っているわけですか。お隣の帝国は剣術と学術で棲み分けされていますし、留学するという手もあるんじゃないですか?」
「それは考えた。だが、勉学のための留学は許可が下りなかったのだ。……いや、すまなかったな。初対面だというのにこんな話に付き合わせて」
「いえいえ、御覧の通り、今は暇な時期ですから。陰気な場所ではありますが、気分転換が必要でしたらまた来てください。次はお茶とお菓子くらいは用意しますよ。安物ですけどね。
それと、第三王子様はだいぶ思い詰めているように見えます。逃げることを恐れて一生を捨てないでくださいね。可能なら協力しますから」
「ありがとう。では僕は帰るとする。護衛も付いて来ない独り身だからな、また近いうちに来るつもりだ」
「ええ、おやっさんにも話しておきます。あの人のことだから何も言わずいいお菓子を用意してくれると思いますよ」




