六話
「……いや、待て! それでは矛盾がある!」
「矛盾? どこにあるのさ」
「私とルーカスの婚約は政略も絡んでいたから解消は難しい。だが、逃げ出したいというのなら殺される必要はないはずだ! 死んでしまうのなら結局私と共に破滅するのと変わらない。
……貴様、もしやルーカスを殺していないのではないか!? ルーカスは生きている?」
「姫騎士、君は彼の遺体を見たはずだ。炎に焼かれ、燃えていく様を少し離れた所で見ていたはずだろ?」
「ああ、現場から逃げようとする貴様を取り押さえながら、私はルーカスの身体が焼けていく様を見ていた。だが、貴様は暗殺者だ、先ほどの洗練されたナイフ捌きがあれば、わざわざ身体を焼くという苦しむ殺し方はしないはず」
「そうだね、殺すだけならスパッとやればいいもんね」
「……チッ、確証がないのは気持ち悪いが、貴様、王宮の遺体処理場の人間だな? ルーカスによく似た遺体を用意したとしか思えん。あそこの人間は奇妙なマスクで顔も隠す、王宮で一度も顔を見なかったのはそういうことか」
「へえ、滅多に人の来ない所だけど、知っていたのか。確かに俺は遺体焼却場の人間だ、遺体も偽造した」
「殺人鬼が正体を話すのか、たいした自信だな」
「話しても問題ないと判断しただけだ。それより、他にも聞きたいことがあるんじゃないのか? 今なら特別に話してやってもいいぞ」
「立場が逆転したくらいで調子に乗るなよ? ここを出たら衛兵を呼んですぐにその首を落としてやる」
「はいはい、分かったから、聞きたいことをどうぞ」
「……チッ、覚えていろ。ルーカスは今、どこにいる?」
「謝罪でもするつもりか? 会えずに逃げられるだけだからやめておけ。まあ、今は元気にやってるよってことだけ伝えておく。近いうち別の国に逃げる予定だ」
「そうか、それならいい。……もしや、マルロ様も生きているのか?」
「会おうなんて考えるなよ? 第三王子様は……、いや、“彼”は今、彼の実力を認めてくれる場所で名も顔も変えて頑張っている」
「マルロ様もまた、私から逃げることを選んだのか。私は師匠失格だな。弟子に逃げられてしまったわけだ」
「君の剣術は素人に毛が生えた程度の実力しかない。だが、姫騎士は王族ですら口を噤む強さを誇っていた。君がこれまでに獲得した大会のトロフィーやメダルは、全て譲られて手に入れたものだったんだよ」
「どうやらそのようだ。私は、何のために剣を振ってきたというのだ。ははッ! すべてが無価値だったではないか!
……本当は聞きたくないが、聞く義務があるのだろう。ルミも、私を恨んでいたのか?」
「残念だがもう時間だ。拘束を解いてやる」
「なに? 時間とは――、なんだこの揺れはッ⁉」
「俺の仲間がこの別荘に大量の爆弾を仕掛けた。あと十数秒でこの別荘は崩れ落ちる。
さあ、早く逃げないと生き埋めになるぞ!」
「この地下室から逃げるには時間が足りない! 貴様も生き埋めになるつもりか! くッ、足が」
「俺の事はお気になさらず、死んでほしかったんだろ? ほら、頑張って足を引き摺ってでも出口に近付かないと、せめて助けてもらえる場所で生き埋めにならないと」
「くそッ! こんなところで死んでたまるか! 私はまだ生きていたいんだ!」
「君はその言葉を三度無視した事を忘れてないかい?」
「え?」




