二話
「尋問を再開する」
「早くない? 一時間しか経ってないよ? パンとスープを用意してくれたのは及第点だけど、せめてパンには焼きたてのソーセージと新鮮な葉野菜を挟んで欲しかったな。……あれ? このスープ、具材が入っていないんだけど? もしかして、味付けはなんかの出汁と塩のみ?」
「さっさと食え。そしてさっさと吐け」
「食べたものを吐き出すなんて下品なことはしない……、じゃなくて、情報を吐けってことだよね? 分かっているからその剣の柄を握るのを止めてくれない? 見て、今の俺って無防備だから、防御もできないの」
「腕くらい切り落としてやろうかと思ったが、……チッ、素直に情報を吐けばジャムくらいは用意してやる」
「アメとムチってやつだね。このパサパサのパンを少しでも食べやすくするために、オジサン、頑張っちゃおうカナ? ……ズズズ、あぁ、このスープ味付けはシンプルだけど、案外美味しいね。もしかして手作り?」
「ルミを殺した理由について話せ。さもなくば首を落とす」
「やっぱり無視か。そういうツンなところ、オジサン、嫌いじゃないよ。……と、冗談はこれくらいにして、聖女を殺した理由についてだけど、俺は何も知らない」
「嘘を吐くな! 貴様が犯人なのは分かっている! さっさと吐け殺人鬼が!」
「ああ、そうだ俺は嘘を吐いている。でも、素直に話す理由がないんだよね。だって、この国では私人逮捕までは許されているけど、尋問は王宮が認めた尋問官以外に執り行ってはいけないってあるからね。
たとえ相手が殺人鬼であっても、ただの公爵令嬢如きが尋問すれば罪に問われる。俺はね、君のことを心配しているんだよ。ここで素直に話しちゃったら、君が法を犯していることを証明しちゃうからね」
「戯言を。情報を吐き出させた後、殺人鬼を生かしておく理由は無い。口が開けぬようこの剣で首を落とすから安心しろ。それに、私は犯罪者を尋問する許可を得ている。当然、その後の処理についてもな」
「わお、何も安心できない。……そっか、なるほどぉ? そういうことね」
「ああ、そういうことだ。だからさっさと話せ。いつまでもはぐらかすのなら、拷問も付け加えてやろう。簡単には殺さない、痛みで長く苦しませてから殺してやる」
「痛いのは嫌だねぇ、俺もそんなに若くないし、耐えられるか心配だ。分かったよ。少しずつだけど、事件について話してあげよう」
「それは貴様が三つの事件の犯人だと認めるという事だな」
「そういうこと。姫騎士が挙げた三人を、確かに俺は暗殺した。六年前に聖女、三年前に第三王子、そして先日は君の婚約者。素直に話してあげるけど、話す順番は俺が決める。いいよね?」
「構わん。全て話すのなら順番は関係ない」
「順序って大事だと思うんだけどなぁ? まあいいか。お許しが出たところで、まずは第三の事件、記憶に最も新しいよね? 侯爵家令息ルーカス・バミリオン。彼の暗殺についてだ」
「待て、なぜ彼の話を最初にするのだ? 彼は最後の被害者だ、最後に話すべきではないのか」
「ほら、順序って大事でしょ? それに話の腰を折られるとペースが乱れるんだけど。まあ、理由としては、俺の目的に一番関係がないからさっさと済ませておこうと思って」
「関係がない? ルーカスは私の婚約者だぞ! 最も関係があるだろうが!」
「怒らないでよ。君にとっては最も関係が深いかもしれないけど、俺にとってはおまけみたいなものだ。でもちゃんと暗殺した理由はあるから、それを話してあげる。
ルーカス・バミリオン、彼に出会ったのは半年くらいだったかな、王都の酒場で偶然出会ったんだ。本当に偶然、繁盛していて、相席にならなければ話すことも無かっただろうね。お互いお酒を飲んで気持ちよくなっていたからだろうけど、彼は心の内を明かしたんだ」
「……その心の内というのが、貴様の殺意に触れたのか」
「あっはっは! 違う違う。俺は提案しただけさ。暗殺されてみないか? って。最初はすごく迷っていたし、一週間くらい返事が無かったけど、最終的には彼から暗殺の依頼を受けたんだ。それだけ心が弱っていたんだろうね」
「ルーカスが、自ら暗殺されることを願い出ただと……? し、信じられるか! ルーカスは心優しく、こんながさつな女との婚約でも不満の言葉一つ言わない男だぞ! 死にたいと思う理由がないはずだ!
確かに剣が苦手でひ弱な面もあった。だが、それでも毎週のお茶会には必ず参加し、剣術の稽古も一度も休んだことがない! 数学者として真面目に取り組む、私の自慢の男だったのだ。
決して、私に相談もせず命を絶つような男ではない!」
「計算が早いと思ったけど、やっぱり学者だったんだ。そんな立派な人が暗殺を依頼するなんて、はてさて何が悪かったんだろうねぇ」
「白々しい。先ほど、ルーカスの心の内を聞いたと言ったな? 全て話せ。そこに私の知りたいことがあるはずだ」
「イヤだ」
「……なんだと?」
「イヤだって言ったの。依頼主の情報をペラペラとしゃべる殺人鬼なんて信用ならないでしょ? それに、彼は俺だけに話したんだ。尊重して隠してあげないとね」
「なッ……貴様、素直に話すと誓ったくせにふざけるなよ! 話さないというのなら、まずは貴様の指でも切り落とし――、なんだ、その目は! 反抗するのか!」
「切り落としたければ落とせばいい。彼は俺に暗殺されることを選んだんだ。婚約者である君がそれを理解できないのなら、俺から話せることは何もない」
「――ッ! なん、だと? 殺人鬼如きが、……チッ。続きを話せ」
「えらい! よく怒りを抑えたね。安心して、言われずとも話すさ。でもその前にジャムが欲しいかな?」
「なに?」
「ほら、姫騎士のムチに対して俺、頑張って話したと思うんだけど。そろそろアメが欲しいなって思って。
昨晩は飲まず食わずでさむーい地下室に放置されていたからさ、さっきのパンだけじゃ足りないわけよ。それに……」
「……なんだ?」
「目が赤いよ。少し顔を洗ってくるといい。俺はこの地下室からは逃げられないからさ。あ、これさっきも言ったっけ?」
「うるさい。……いいだろう。もう一つパンを持ってきてやる」
「スープに具材もあると嬉しいかな? 噛まずともほぐれるような柔らかい野菜に刻んだたまねぎと、後はソーセージも入ったポトフ風のスープだと嬉しいなぁ」
「それは貴様の今後次第だ。虫の入った水を飲まされたくなければ、素直に情報を吐くことだな」
「うへー、虫きらーい」




