一話
対話体形式(会話文のみ)となっています。
推理物として読者に挑戦状を叩き付ける……ことはありませんので、お気楽にどうぞ。
「これより尋問を開始する。殺人鬼よ、貴様には聞かねばならんことが山ほどある。覚悟しろ」
「おや、一晩底冷えする地下室に監禁されたもんだから、尋問官は厳つい男だと思ったよ。机と椅子しかないこの場所に耐えられるのは本職の尋問官だと思っていたから、いやはや、まさか王都で噂の“姫騎士”様が直々に尋問に来るとはね。
オジサン、若い子と二人きりで緊張しちゃうなぁ」
「黙れ、それにそのあだ名は好きではない。私は公爵家令嬢だ、殺人鬼如きが姫騎士などと呼ぶな」
「じゃあ、なんて呼べばいい? いや、貴族に疎い俺でも公爵家令嬢なら名前くらい知っているかも。えっと……、たしか――」
「どこの誰かも分からん殺人鬼如きが私の名を呼ぶな! その首を斬り落とされたいか!」
「えー……、短絡的だなぁ。呼び方が分からないとお互いに困るでしょ? あ、先に自己紹介をした方がいいよね。俺は“B”。意味は特にないけど、君は俺の本名なんて知りたくないよね? はい、俺は名乗ったよ! 次は君の番だ」
「よくしゃべる口だ。舌を切ってしまおうか」
「そうすると俺は何も話せなくなって、君は何も情報を得られない。それでもいいのかな?」
「……チッ、殺人鬼に名乗る名は無い。“姫騎士”でいい。殺人鬼如きが調子に乗りやがって。全て情報を吐かせたら覚えていろ」
「せっかく綺麗な見た目をしているのに口が悪いのは減点だね。でもドレス姿に防具の重ね着はマニアに人気が出ると思うよ。その仏頂面もだいぶ和らいでいると思う」
「やはり殺人鬼相手に尋問など不要という事だな、今ここで斬り捨ててくれよう」
「わーわー! 嘘、嘘だから! 全然和らいでない! 可愛くないからマニアに人気も出ないから安心してくれ! 綺麗な金髪に碧眼の整った顔立ちでドレス姿とか似合ってないから! 本当だから! だから剣を抜かないでくれ!」
「それはそれで腹が立つが、まあいい。私が聞きたいのは、王国で起きた三つの暗殺事件についてだ。聖女ルミ、第三王子マルロ様、侯爵家令息ルーカスの三人の暗殺について一人ずつ聞いていく。
まず一人目、六年前の事件である聖女ルミの暗殺についてだ。殺人鬼よ、どうして彼女を殺した」
「あ、イニシャルで呼んでくれないんだ。せっかく一晩考えたのにちょっと悲しいな? ……あ、ダメ? 気に入らないか。
それで、聖女の暗殺についてだよね。どうして聖女を殺したか、それは……、さあ? 俺の知ったこっちゃない。そもそも何で俺が暗殺者扱いされて捕まっているの? まずは聖女を殺したっていう証拠を提示してくれないとダメだと思うんだ」
「一晩容疑を否認せず、地下室で欠伸を漏らしていた貴様が今更何を言う。証拠ならあるに決まっているだろう。
また後で聞く予定だったが、貴様を捕らえたきっかけとなった第三の事件と、前二つの事件は手口が全く同じ、抵抗できぬ者を焼いて殺したからだ。これは同一犯であることを示している」
「確かに三つ目の侯爵家令息の事件は俺が犯人で間違いないよ、現行犯だったし、それは認める。でも俺が前二つの事件に似せた模倣犯の可能性については考えなかったのかい? もしそうだったら、それって冤罪って言うんだよ、冤罪! 俺はやってない!」
「罪を犯したことを認めておいて白々しい。どの事件も“私を狙い撃ち”しているようなものではないか! 聖女だったルミは私の妹分であり、第三王子のマルロ様は私の剣の弟子だった。それに侯爵家令息のルーカスは……」
「知っているさ、君の婚約者だろう? わあ! 見事に全員姫騎士の関係者だ。驚いたね」
「貴様! ふざけているのか!」
「まあ落ち着きなって。君は頭に血が上りすぎている。殺人鬼如きの言葉に踊らされているわけだから、君は尋問官には向いていない。だから少し時間を置くといい。
御覧の通り俺はこの地下室から逃げられないし、逃げるつもりもない。のんびりひと眠りしてくるといい」
「一体誰のせいで激高していると思っている! ……まあ、確かに今の私は冷静ではない。殺人鬼如きの言葉に従うのは癪だが、一時休憩とする」
「さっきから殺人鬼如きって、酷いなぁ。実際そうなんだけど。あ、戻ってくるときは温かいスープとパンを用意してくれると、俺の口は素直になるかもしれないよ」
「……検討しよう」
推理するほどの謎はありません。
ただ二人の会話をお楽しみください。




