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使い手たちの相談所  作者: 綴ミコト
第二章 犬猫編
21/25

17、人造人間

 先へ向かって走り続ける。

 一体この施設、どこまで続いてるんだ……。

 走り続けること数分。ずっと同じような景色が続いている。まっすぐな通路と横には部屋の扉。

 途中でぶつかったロックの解除が必要な扉は二つ。いずれも火花が開けてくれた。

 ただ、当たり前ではあるが、奥へ進むほど扉を開けるのが難しくなっていっている気がすると火花は言った。

 扉を開けるのが大変になると、比例して火花の負担も増える。火花が倒れてしまったら、今回の任務は失敗に終わるだろう。

 少し考えた結果、俺はみんなに声をかけた。

 「みんな、少し歩かない?」


 普通なら数分間走でもそれなりにきついのだ。俺と雄大はまだ大丈夫だが、澪や02はどうだろうか。火花は普通ならまだ走れるだろうが、力をかなり使っている今なら厳しいのではないか。

 俺たちは歩いて進むことにした。

 「02はこれでいいのか?」

 雄大が02に尋ねる。

 「はい。今長は戦っていますから、そんな中01だけを外に逃したりは絶対にしません。そうなれば、01はまだ施設のどこかにいるはずです。さっきの二人が頑張ってくださっている間は、大丈夫だと思います」

 02がそう答えた。俺は確かにそうだと思った。

 「じゃあ初めっからこうしてればよかったな」

 火花がため息を吐きながら俺を睨んだ。もしかして俺が悪いのだろうか。

 確かに先頭は俺だったが、止めなかったのはみんなの方だ。俺が睨まれる筋合いはない。多分。

 「でも本当にいいの?早く01のところに行きたいでしょう?」

 今度は澪が尋ねた。

 「そう、ですね。でも、歩かなければ皆さんが、特に火花さんが疲れてしまうと思いますし。火花さんや皆さんの負担を減らせる方がいいですから」

 02がふんわり微笑みながら答えた。

 ハッキングができなきゃ扉が開けられなくて、01のところへ辿り着けないとか、そういうのもあるにはあるのだろうが、それよりも火花の体を心配しているというのは本当なのだろうと、なんとなくそう感じた。

 火花も「02……」と彼女の優しさに感動する。

 周りに温かい空気が流れて、さっきまでの緊張が思わず解けていく。

 気が緩みそうだ。

 きっと、それが前触れだった。

 俺たちはまた扉にぶつかる。

 「またか」

 雄大が忌々しげに呟く。

 「でもなんか、この奥に何かありそうな気がするな!」

 火花が明るい声でそう言った。

 彼女がそう思ったのは、今までと扉の見た目が変わったからだろう。

 張り切る火花が扉のロックに手をかざす。

 俺と雄大は後ろの方に立っていて、澪と火花と02は前の方にいた。

 火花が電気を纏いながら、ハッキングを始めた時だった。

 ドゴン、という大きな音と共に、硬い扉が向こうから破られた。

 煙が立ってうまく見えないが、扉の向こうに青白い光が見えた気がした。それがもう一度はっきりと現れて、こちらに放たれる。当たった物を貫くような威力を持ったそれを、俺と雄大は咄嗟に避けた。

 光がまた消えると、扉はついに完全に破れ、床に崩れ落ちていく。

 崩れた扉の瓦礫からなのか、それとも青白い光が放たれた時に出たものなのか分からない煙もだいぶ収まり、目の前がよく見えるようになった。

 顔を上げて前方を確認した俺は、唖然とする。

 ……三人はどこへ行った?


 「っ……、澪!火花!02!!」

 叫びながら崩れた扉の方に駆け寄る。

 扉は大きかったので、崩れた後の瓦礫も高く積み上がっている。

 ……あの光、レーザーか?あれが放たれた時、三人はどこにいた?

 「玲!」

 雄大が俺を呼ぶ声も耳には入らない。瓦礫を掻き分けながら三人を探そうとする。

 「玲!危険だ!」

 再び雄大が俺を呼ぶ。それでも俺が瓦礫を掻き分ける手を止めないでいると、雄大は俺のパーカーのフードを引っ張って後ろに移動させる。

 「なんでだよ!」

 俺は雄大に向かって叫ぶ。

 「危険だからだ!見ただろ、さっきの!当たれば最悪即死だぞ!」

 雄大も叫びながら、俺に理由を説明してくれたが、俺は納得がいかなかった。

 「でもあいつらが!!」

 「二人とも!」

 睨み合っている俺たちにかけられた高い声。

 振り返るとそこには、02が立っていた。そしてその後ろには……。

 「澪!火花!」

 「レーザーには、直接当たりませんでした。それで、扉が倒れてくる直前に、二人を連れて後ろに跳んだんです」

 02が状況を説明してくれる。

 「でも、音とか全く聞こえなかったぞ。というか、その猫耳と尻尾……」

 俺は指を差しながら躊躇いがちに尋ねる。

 今の02には、猫の耳に長い尻尾、それから鋭い爪が生えていた。さっきまではなかったはずだ。だが、よく思い出してみれば、さっきの長との戦いの時に、それらしいものを見たような気もする。

 俺の視線を受けて、02は少し恥ずかしそうにしながら答える。

 「あ、これが、わたしの力です。猫の使い手の。猫の身体能力とか、聴覚とか、嗅覚とかを得られるんです。代わりに、猫舌になっちゃったりするんですけどね」

 最後の部分は可愛らしく舌を出して笑いながら言った。

 「さっきのは猫の肉球のおかげで、足音が立たなかったんです。敵にバレなくなったりして、基本便利なんですけど、今回はいらない心配をかけてしまいましたね」

 02が申し訳なさそうにこちらを見て言った。

 だが、俺はそれに首を振る。

 いや、むしろ……。

 「よかった……」

 つい安堵の声を漏らす。雄大も安心したような顔をしていた。

 本当によかった、三人が生きていてくれて。仲間を失わずに済んで。

 「安心してる場合じゃないぞ」

 火花のその声で我に返る。

 そうだ、まだ何も終わっていない。むしろここから始まるのだ。

 俺たちの戦いが。

 このまま01のところまで辿り着けるかもとも思っていたが、やはりこうして邪魔が入ってしまった。

 ならば、と意を決して、俺は02たちに言った。

 「三人は先に進め。ここは俺らでなんとかする」

 なんの同意もなく勝手に決められた雄大が、視界の端で「はぁ!?」という顔をしていたのが見えた。

 だが、もっと驚いているのは三人の方だろう。

 驚くみんなに向けて、俺はさらに続ける。

 「俺たちの目的は01の救出。つまり、長を倒すことでもここをぶっ壊すことでもない。できるだけ早く01を救出して、それができたらもうここに用はないんだ。だから誰でもいいから、一刻も早く01を助けて、あわよくば……とっとと帰りたい!」

 それを聞いたみんなはきょとんとして、それから笑った。

 「……分かった、行こう」

 火花が答えた。

 今度は俺と雄大が前に出る。そこで、澪が口を開いた。

 「……やっぱり私はここに残ってもいい?」

 その言葉に、俺は戸惑う。

 「なんでだ?ここは危険だぞ」

 「だからだよ」

 振り返ると、澪と目が合った。

 優しく笑いながら澪が続ける。

 「きっと二人とも怪我するでしょ?それも派手に。それで死んじゃったら嫌なの。だから、ここに残って治したい」

 その言葉は力強かった。それなら、その思いを踏みにじるのもおかしいだろう。

 「分かった。それが澪の思いなら」

 俺がそう答えると、「ありがとう」と澪が返した。

 澪が火花と02を見る。火花は「大丈夫だ」と言い、02もそれに頷く。

 「オーケーか?敵も待ちくたびれてるし、そろそろ行くぞ」

 雄大が言った。

 「ああ」

 俺と雄大は構える。

 その直後、高く積み上がった扉の瓦礫の山を壊し、向こうから人影が近づいてきた。

 「さて、どんな奴か……」

 雄大は楽しそうに、そう呟いた。


 その人物がどんな奴なのか、それを確認する前に、レーザーが再び放たれた。

 全員がそれを咄嗟に避ける。俺は避けた後で、火花たちに向かって言った。

 「行け!二人とも!」

 それに頷いて走り出した二人は、敵の後ろを回って扉の向こうへと走っていく。

 それを見た敵がぎこちない動作で振り返りながら二人を追おうとするのを見て、俺は不自然い思いながらも敵に火の玉をぶつけた。

 それに反応して今度はこちらを振り返る。やはりぎこちない動きだ。だがそれ以上に、確かに当たったはずの火の玉によって一切傷を負っていないように見えたのが謎だった。

 一体どんだけ頑丈なんだ……?

 澪は近くの部屋に隠れている。緊急事態だったからか鍵をかけ忘れていたようで、簡単に入れたようだった。

 敵がこちらに手を伸ばす。そして言った。

 「殲滅開始」

 その声は女性、いや少女に近い声だったが、一切の感情も感じられなかった。

 その直後、再び青白い光のレーザーを放つ。どうやら敵の手から放たれているようで、彼女の手の動きに合わせてレーザーも動き、広範囲に攻撃が届いている。

 俺と雄大はそれを避けながら攻撃を仕掛けるが、大したダメージを与えられていない気がする。

 「なんなんだあいつ!」

 雄大が怒ったような口調で言った。

 俺は考える。

 レーザーは遠距離攻撃だ。なら、近距離戦には弱いかもしれない。もちろん、どちらも対応できるという可能性もなくはないが。

 どちらにせよ、敵の正体を見破る必要はある。

 敵のレーザー攻撃が一度収まったタイミングを見計らって、俺は一気に距離を詰める。だがそれに敵は一切動じていないようだった。

 俺はななめから敵のレーザーを放つ腕に火の玉を叩き込む。だが、確かに当たったのに、敵は悲鳴一つ上げなかった。

 ただ効果はあったようで、ガガッという音が聞こえたかと思うと、その腕はガシャンと音を立てて地面に落ちた。

 「!?」

 俺はそれを見て驚く。

 ……そうか、この敵!

 敵の正体に気づいた俺に、まだ何も知らない雄大が無邪気に声をかけてくる。

 「玲!すげぇじゃん!これでレーザーは無効化できたし、俺たちの勝ちじゃねぇか?澪を呼んできてそいつの腕治してもらおうぜ!」

 そう言いながら雄大が近づいてくる。

 一方で敵はしばらく壊れたように動かなくなった後、もう片方の腕で落ちた腕を拾った。俺は相手のことが気になって、手出しをせずにその光景を見ていることにした。

 腕を拾った敵は、それを外れた位置にガチャガチャと取り付けた。カチッと音が鳴ると、敵はもう片方の手を離す。手が離れても、俺が落とした方の腕は体にくっ付いていた。

 「……なんだこいつ……」

 雄大は唖然とその様子を見ていた。

 「分かんなかったのか?機械だよ。いや、ロボットか?」

 「それよりは、あれだな。アンドロイドとか、人造人間って感じだ」

 目の前の機械はピピっという音を出してから、俺と雄大を交互に見る。

 「ターゲットを確認しました。掃討を開始します」

 どうやらまた振り出しに戻ったようだ。しかも相手は機械。ダメージを負わせても痛覚がないから止まらない。そして、かなり頑丈な作りをしているようだ。

 「どうやって倒す?」

 俺は雄大に尋ねる。

 「分かんねぇな……。とりあえず、戦いながら探ってくしかねぇんじゃね?」

 首を捻りながらそう言った彼に、俺は頷く。

 俺たちは地を蹴ってそれぞれ反対方向に跳ぶ。そして挟むこむような形で敵に攻撃していく。

 唯一敵が人造人間で良かったところといえば、容赦なく攻撃できるところだ。どれだけ攻撃しても壊れることはあっても死ぬことはない。本当の人間ではなく、あくまで機械だからだ。

 俺と雄大はそれぞれいろんなところを攻撃しながら、弱点がないか探っていく。

 腕を攻撃して腕を落とせれば、しばらくは大人しくなるようだ。再び腕を落とされて、それを拾っている敵の背後から、雄大が攻撃を仕掛けた。

 ふわりと宙に浮かびながら風で攻撃しようとしている雄大は、油断しているように見えた。そこで異変に気づいた俺は、咄嗟に声をかける。

 「危ない!」

 その声に反応して後ろに退いた雄大の元いた場所を、無数の手が掴もうとする。その無数の手は敵の背中から生えているようで、さらにその背中から生えた手がレーザーを放った。

 「ヤバいだろ、あいつ!」

 雄大が悲鳴のような声を上げながら逃げ回る。俺は背中の手に向けて火の玉を放とうとしたが、レーザーに弾かれる。

 その頃、俺が落とした腕を再び直し終わったようで、人造人間がさっきと同じセリフを口にした。

 俺たちを振り返ってからピピっと音を立て、俺たちを交互に見る。

 「ターゲットを確認しました。掃討を開始します」

 俺は思わず頭を抱えたくなった。

 完全に初期に戻るのかとも期待したが、背中の手はそのままだ。敵の手数が増えただけに終わってしまったらしい。

 「……どうしたらいいと思う?」

 「……分かんねぇ」

 さっきと似たような会話を、さっきと違って暗い声で交わす。

 火花と02が01のところへ辿り着くまで、足止めすることができるだろうか。

 胸の内に、そんな不安が広がっていった。

昨日忘れちゃってました……。申し訳ありません。

来週こそ月曜日です。

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