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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
続 一章 取り戻した平穏

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1-15:新人冒険者研修

いつもご覧いただきありがとうございます。


 ギィィィィ! 妬ましい! 誰ですか! その男は誰ですか!

 カスタードクリームのような色の髪を三つ編みにして背中に流し、身長はひょろっと高い男が爪を噛んだ。魔力伝達率を上げるためのよいローブ、色はドロップ品なので選べずヴァーミリオン。最初は目立ちそうで嫌だったが、性能がよくて諦めきれずに買ったものだった。できれば灰色がよかった。お揃いですね! と並びたかった。


 イーグリス学園で起きた【魔獣事変】、大きな問題であり課題を抱えたあの出来事は、男に渇望を与えた。

 地下水道を行った際のチームワーク、心地よい魔力の波、魔獣を討伐した時の高揚、ちょっとした中毒性を持つそれは男をダンジョンへと駆り立てた。

 そう、気づいてしまったのだ。魔法のあれこれを試すにもダンジョンは恰好の実験場であると。魔獣はわざわざ捕まえなくてもそこにいる、ダンジョンの壁は調べるとかなり強固で崩落したことがないらしい。加えて冒険者パーティの多くは魔導士をメンバーにしている。とどのつまり魔法が使い放題の研究もし放題ということである。


 学園にある魔導士科の鍛錬場は盛大に魔力を使えば壊しかねない。あの灰色の冒険者はかなり注意していたし、何よりもその内側にもう一枚魔法障壁を用意する周到ぶりだった。少し爆発力のある魔法を撃てる者であれば、あわやが起きかねない。魔力暴走の際もそれでかなり被害があった。

 その点においてはこのヴァーミリオンカラーのローブを着た男も同様だった。魔力量はそこそこながら、それを効率よく発動させるという器用さがあり、瞬発力のある魔法もまた、得意ともしているのだ。


 また一緒に冒険がしたい気持ちと、ダンジョンに入って存分に魔法を検証したい気持ちと、百パーセント邪な思いで冒険者ギルドの門を叩いた男を待っていたのは地味な研修だった。

 登録して冒険するまでにやることが意外と多い。これは学園に冒険者クラスができたこともあり、やらされるようになった研修らしい。クソ、もっと早く登録しておけばよかった。かといって別の街まで行って登録するのも手間で、致し方なくそのまま受講することになった。


 冒険者とは、という基本の座学から依頼の受け方、報酬の受け取り方。宿に泊まる時の良識ある行動に、冒険者同士のいざこざについて。ダンジョンに入るには少なくとも銅級まで上げなくてはならず、灰色級でダンジョンに入り、ドロップ品を得ても武器防具屋で納品ができないという。灰色級が違反してダンジョンに入ったとしても、アイテムを卸す場所がなければ金にならないのだ。冒険者ギルドに持ち込むような馬鹿がいればその時点で資格剥奪となる。

 何よりこうした厳しい規則は、冒険者を死なせないために大事なのだと教官は言った。


 知っている、わかっている、学園でそういう授業がされており、耳に胼胝ができる(音楽が耳に残る)くらい、同僚が言い含めていた。大事なことだろう。わかっている。しかしながら、人間というものは知っていることを繰り返されるのがなぜか嫌な生きものなのだ。

 魔導士として培ってきた実力だって自負しており、だからこそ学園で長年教員もできている。多少、それなりに、奇行があったとしても解雇されないのはそのおかげだ。すっかり教員寮は家であり巣になっている。


「ハレンタット、聞いているのか?」

「あぁ、すみません、聞いています。失礼しました……」


 自分よりも年若い、けれど先輩である銀級冒険者に指摘され、ゲオルギウス・ハレンタット三十五歳は空想から戻り、のそりと体を起こした。わかっている、自分だってこういう態度の生徒がいれば嫌になる。少し反省して姿勢を正した。


 その視界の端に灰色のマントが見えた。ガタリと立ち上がったゲオルギウスに、ともに研修に参加していた未来の冒険者たちがびくりと震えた。銀級冒険者が苛立たしげに叫んだ。


「ハレンタット、次はなんだ!」

「ツカサが、あの、ほら、灰色の!」


 灰色の、どれが? と言いながらぞろぞろと立ち上がり、開いていた研修室の扉から初々しい冒険者たちが向こうを覗き込んだ。【灰色の】と呼ばれるツカサ・アルブランドーが依頼ボード前で冒険者たちと楽しそうにやっていた。隣に立っている長身の男はツカサの手元を覗き込んだり、腕を組んで頷いていたりとツカサと話しているのが遠目にもわかる。誰だその男は、知らない男だ。ここでゲオルギウスは冒頭の一文を内心で叫び、爪を噛んだ。

 ゲオルギウスは飼い主を見つけた嫉妬深い犬のように研修室を飛び出して行こうとし、銀級冒険者にローブを掴まれた。


「な、何をするんです!」

「こっちの台詞だ! どこ行くつもりだ!? 研修中だぞ!」

「ツカサがいるのでご挨拶に行こうかと! いえ、ほら、私イーグリス学園の教員でしょう? 同僚なんですよぉ! うふふ!」

「そんなこと、知ったことか!」


 ピシャリと言われ、ゲオルギウスは目を瞬かせた。ぐいぐいと引っ張られ、たたらを踏みながら室内に戻り、椅子に座らされてテーブルを叩かれた。


「いいか、あんた、言っておくぞ! あんたが学園の教員だっていうのはここでは何の意味もない話だ! ここにいるあんたは新米の冒険者見習い、灰色級ですらないんだ!」

「え、えぇ、わかっています、はい」

「だったらもう少し真面目に研修を受けたらどうだ! 他の奴らが迷惑してるのがわからないのか!」


 ちら、と部屋の中を見遣れば、【灰色の】に釣られはしても今まで真面目に研修を受けていた若い眼差しに晒された。ゲオルギウスはすみません、としゅんと肩を落とし、唇を尖らせた。銀級冒険者は新米たちも座らせると黒板を叩いた。


「【灰色の】が若いのは見りゃわかるだろうけどな、あいつは呼称こそマントの色を取って【灰色の】だが、金級冒険者だ。ランクが違う、きちんと敬意を払えよ。スカイじゃ金級冒険者の名は伊達じゃないんだぞ」

「教官、それって、どのくらいすごいんですか……?」

「うん? あぁ、ちょっと脱線するけど、まあ、いいか。その分今日は長くやるからな、俺だって決まってる範囲を教えなきゃならないんだから」


 銀級冒険者はそろりと手を上げて質問されればきちんと答えてくれた。ゲオルギウスもじろりと睨まれて真面目に聞く姿勢をとった。

 オルト・リヴィア、特に、スカイ王国の冒険者ギルドはランク規定が非常に厳しい。依頼の達成数、ダンジョンの階層の踏破数、魔獣素材やドロップ品の納品、立ち居振る舞いまで見られるのだ。ダントツで冒険者の模範であり指標となっているのは【快晴の蒼】、彼らはパーティ内ではバカ騒ぎもするが、宿、酒場、冒険者ギルド、市場など、人に迷惑をかけず、何かあるとしたらきちんと理由を持っている。一時的な快楽で道を踏み外したりはしないのだ。


 ゲオルギウスはそのメンバーの一人、アッシュという男を知っていた。【快晴の蒼】の斥候役だという男は、どういうわけかダンジョンの転移魔法陣を見つけ、元学園長へ情報を持ってきた。ついでとばかりに統治者(オルドワロズ)を連れてきたのは驚いたが、金級冒険者であればそちらとも縁があるのだろうと思った。あの時もアッシュという男は冒険者としての観点で意見をしたり、きちんとした立ち居振る舞いを見せていた。

 リーダーであるヴァンも、槍を扱うラダンも、イーグリス学園で何度か講師を務めており、学生にも現役の冒険者にも人気の講義だったと記憶している。魔力や魔法に関わる話ではなかったのでゲオルギウスは興味を持てず、一度も受講したことがなかった。今思えば惜しいことをした。いったいどんな講義だったのだろう。


「スカイ王国所属の金級冒険者の数を知っているか?」


 教官が問い、誰も回答をしないのでゲオルギウスが挙手をした。どうぞと促され、ゲオルギウスは答えた。


「正式な人数を把握しているわけではなく、パーティ数での把握になります。他国から流入してきた金級冒険者パーティを除き、スカイ王国で登録された【パーティ】という観点で言えば、昨年の数で、スカイ王国所属は六十二パーティと報告されています。冒険者ギルドが年一回発表する【金級冒険者一覧】という情報で知ることが可能で、申請さえすれば誰でも自由に見ることができます。この数は、スカイ王国の有するダンジョン数と冒険者の比率からすると非常に少ないと言われていて、他国に比べ、スカイ王国での昇格が如何に難しいかを物語っており、その分、金級冒険者として、登録がスカイ王国でなされた冒険者は、他国でもその報酬に色がつくと言われています」


 おぉ、と周りから声がして、ゲオルギウスはむふんと胸を張った。教官である銀級冒険者は感心したように頷いて、手を叩いて注目を集めた。


「ハレンタットの言うとおり、スカイ王国の有するダンジョン数からすれば、本来、最低でも二百ちょいは金級冒険者パーティがあっていいらしい。パーティメンバーの半数が金級冒険者でないと金級冒険者パーティは名乗れない。本当に金級なのは、パーティのうち二人かもしれないし、三人かもしれない。パーティを組まずにソロだったらカウントもされないからもっといるかもしれない。だが、銀級とはやはり一線を画しているのが、金級だ」


 教官は扉の方に行き、見ろ、と依頼ボード前を指した。許可された覗き見、研修室の一同で首を縦に横に並べてそちらを見た。


「あの依頼ボード前に集まってる冒険者の数はざっと数えて四十人近い。俺はここイーグリスを活動拠点にしているからわかるが、あの中で金級冒険者は【灰色の】だけだ」


 あれだけいるのに、と新米たちが驚きの声を零した。教官が手を振って席に戻しながら続けた。


「実力が伴うだけじゃ金級にはなれない。【灰色の】は冒険者ギルドからの信頼もあるし、依頼を通して統治者(オルドワロズ)の信頼も得てる。変な生きものが現れた事件を知っている奴は?」


 これには半数以上が手を上げた。イーグリスで生活している少年少女は実際にそれを目にしたのだろう。ゲオルギウスも同様だ。手の上がらなかった若者は他の街や村出身で、運よくそれに遭遇しなかったのだ。


「あの事件で【灰色の】は魔法を伝授するって功績を立ててる。実際に実力もあるし、本人があまりギルドに素材を卸さないだけで魔獣の討伐数も多い」


 新米たちの脳裏に人畜無害そうな青年の顔が浮かんだのだろう。本当か? と言いたげな視線がちらほらあった。ゲオルギウスはそれに対しいろいろと語りたい気持ちはあったが、その前に教官が釘を刺した。


「知らない奴はあとでギルドカウンターに行って詳細を聞いておけよ。冒険者ってのは、どこで、何があって、その結果がどうなった、っていう情報収集は本当に大事だからな。知らないことは馬鹿にもされるし足元だって見られる。知っていて馬鹿にしてくる奴はそうそういない。儲け話、売れる素材、ただダンジョン行けば稼げるなんて考えてる奴がいるなら、冒険者なんてやめとけって【快晴の蒼】だって言ってるんだ。さっき見た、依頼ボード前で【灰色の】がやってるのも情報収集だぞ」


 ゲオルギウスは感心してしまった。学園でたった一人、金級冒険者(ツカサ)が教師として教えようとしていることを、ギルドも簡易的でピンポイントながら、きちんと教えようとしている。【灰色の】が学園で何を教えようとしているのか、【快晴の蒼】がどういう目的でそれを後押ししたのか、模範的で、実際に実力があり、実績のある冒険者への憧れと尊敬があるからこそ、ついてくる冒険者がいるのだと気づいたのだ。


「銀級と金級の違いについて聞かれたけどな、なんつーか、やっぱり越えられない壁というか、一線があって、奴らはそれを踏み越えてる」


 教官は羨ましいような、妬ましいような、しかし諦観と尊敬と、難しい表情で笑った。


「たぶん、覚悟っていうのが違うんだな。冒険に対するっていうか、生きることにっていうか。まぁ、そのへんは自分で調べて、機会があれば言葉を交わして、実際に肌で感じるのが早いだろ。それじゃ、脱線した分を取り戻すぞ。灰色級の駆け出しがよくやる依頼は街中での雑用が多い、これだって意味がないわけじゃなくて、どれだけ依頼を正確にこなせるかって点数と、実力ある冒険者が腐らずに対応できるかっていうのを見られてるんだ」


 教官は真っ直ぐにゲオルギウスを見た。


「中には、自分は強いから簡単に等級を上げてダンジョンに行ける、って慢心してる奴が居るからな。その鼻っ柱をぶっ叩くためでもあるんだぞ」


 ゲオルギウスはひゅっと息を吸い、注がれる白い目に小さくなった。自分が確かに自負があるんだと考えたことを思い出し、この指摘は恥ずかしいものだった。学園に入るまでに日常生活で魔法を使い、実力を誇示する学生に現実を教える役目を負っているゲオルギウスは、自身もまた、ここで同じようにされていることをしっかりと理解した。ツカサなら、これを真摯に受け止めるだろう。そういう人だ。同じようにそうであろうと考えたゲオルギウスもまた、金級冒険者の影響を受けていることを知るのはそれなりに後の話だ。


「うぅ、すみませんでした」


 ぺしょりと落ち込んだ年嵩の新人に教官は居心地が悪そうに首を摩り、次の話題へ進んだ。


「明日は街中の依頼をひとつ用意してある。全員参加だ、朝八時に冒険者ギルド前に集合すること、いいな」


 朝が早い! と叫びそうになった自分の口をゲオルギウスは手で塞ぎ、はい、と元気よく返事する若者の中で黙ってうなずいた。




いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。

現在体調を崩しており、更新が遅くなり申し訳ございません。

お気に入りなどを読み返しながら少々お待ちくださいませ。


また、つぎラノのエントリー始まっております。

よろしければぜひ、あなたのオススメ作品のひとつにあげていただけるとうれしいです。


面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やリアクションをいただけると励みになります。

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【ep.665『1-15:新人冒険者研修』感想】 ※ネタバレ・考察・妄想含む可能性あり閲覧は自己責任でお願いします。 そういう君に会いたかったよ!! と笑い転げました!!!www ゲオくん…
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