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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 終章 旅路

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4-66:ようやく知りたかったものを知る

いつもご覧いただきありがとうございます。

3巻電子書籍まであと2日……!


 こんなことになるだなんて思わなかった。窓の向こうに穀物を出している姿から、こんなに盛大に溢れるとは思っていなかった。出す、出さないの調節ができるものだと思い込んでいた。


 確かに、あの時、自分がどうなったかなんて知りもしなかった。ツカサが持っていた豊穣の剣、あれで刺されたことは覚えている。そしてそれが痛くなかったことも覚えている。ショウリの友であり、シュン自身も見えなくなるまでは浸っていた友情だ。それがそうした痛みを消しているのなら、有難いことだった。

 突如現れた巨人、それが命であるのなら、自分が言えた義理ではないが、痛みもなく送ってやれる方法を選ばないのか、と疑問を抱いた。優しいようで冷たい奴らだと白い眼で見ていた自分を今は恥じている。


 豊穣の剣と呼ばれたものがワッと穀物を吐き出して、収めようとした鞘を落としてしまったがために思い切り流された。どうにか豊穣の剣自体は手放さずに済んだが止めようがなく、アルが体に腕を回してくれ、離れないように一緒に居てくれたことには正直助かった。そして、巨人一体でこれなら多用できない手段であったのだと理解した。


 向こう側で巨人方面に流されたツカサたちも、やっぱりな、という表情を浮かべながらだったのでこうした事態を予見していたに違いない。それでもやらせたのだから性格の悪い奴らだと思った。

 押し流されている途中、突然、体ががくりと落下したことには悲鳴を上げた。


「絶対にホムロルルを離すなよ!」


 自分の体を脇に抱えるようにしているアルは随分冷静で、落下中、鷹を掴み、それを抱かされたと思ったらひょいと横抱きにされ、滑り台のようになった場所を穀物とともに落ちていった。


 永遠に滑り落ちるのではないかと思い、腕の中にいた鷹とともに悲鳴を上げるのをやめた頃、底に着いた。ざらりと穀物とともに押し出された滑り台の下、アルが何歩か前に歩くようにして尻餅もつかずに降り立った場所でシュンはようやく降ろされた。

 真っ暗だ、照明魔法を手に出せば、前にいるアルがゆっくりと今いる場所を見回していた。人形のように抱きしめていた鷹は恥ずかしそうに翼を羽ばたかせ、アルの肩へ移動した。


「随分流されたな」


 アルは横を見て、上を見て、金色の腕輪を前に持ってきて呟いた。その落ち着きぶりに、どうしてこの状況でそんなに落ち着いているんだ、という苛立ちと、こいつがここまで冷静なら安全だろうという気持ちがあった。問いかけは厭味ったらしくなった。


「なんか、冷静だな? 落ちてる時もよ……」

「あぁ、落ち慣れてるからな。滑り台だったし、真っ逆さまに落ちるよりは全然楽だった」


 どういうことだよ、と内心で呆れた声が出た。声に出さなかったのは一応、落下中、落下後、助けてもらったからだ。しかし、ここはどこなのだろう。アルが槍を構えながら呟いた。


「ツカサが上にいる、下層に落とされたんだろうけど、ここはどこだろうな」


 同じことを考えているとわかるのも安心材料のひとつだ。シュンは照明魔法をツカサのように移動させて周囲を照らした。天井は随分高いが見える。横にも広い。滑り落ちてきたはずの滑り台がどこにもなかったので、壁が埋まったのかもしれない。シュンは胸の中から慌てたような声を聞いた。


「アル、なんか、理の女神? が慌ててる」

「なんて言ってるんだ?」

「びっくりして、落ちちゃったってよ。迷宮の加護と合流しなきゃ、って」


 合流ね、とアルは再び周囲を見渡した。


「シュン、行ったらまずい方角だけ教えてくれ。ある程度のものは俺が槍で払うけど、道だけは自信がないんだ」

「わかった、えっと、俺も、戦うよな?」

「もちろん、当然だろ? あ、でも豊穣の剣はもう刺すなよ、どうなるかわかっただろ? お前に刺さっても困るから、俺が預かる」


 シュンは何度か頷き、豊穣の剣をアルに差し出した。それを腰のポーチにしまい、よし、と槍を握り直した。周囲を警戒していたアルの近くへ行くと、シュンはその表情の真剣さにごくりと喉を鳴らした。


「本当なら少しずつ確かめたかったんだけどな、シュンが何をできるか。分かる範囲でいいから教えてくれ」

「あぁ、えっと、そうだな。攻撃魔法、治癒魔法、魔法障壁はツカサがつけてくれるから余計な消費は押さえられる。あとは、こういうの」


 シュンは照明魔法と同じように、火の弾や尖った氷柱、土塊やぐるぐると回る風の弾などを周囲にいくつも浮かべた。


「俺がダンジョン攻略する時に使う方法なんだぜ。こうやって周囲を固めて、接敵があれば勝手に当たって爆発するっつーか、防御と攻撃の両方をこなすっつーか」

「ははぁ、なるほど、シェイの言う事前設置型か。その都度魔法を使うツカサとはちょっと視点が違うんだな」

「最初はソロでダンジョンに行ってたから。急に魔獣が飛び出てくることだってあったし、初心者狩りも経験したんだぜ? 当然、返り討ちにしたけどよ!」


 シュンはそうして人からも魔獣からも身を守り、生き抜いたのだ。アルは感心した様子でシュンの頭をぐしゃぐしゃと撫でてきて、なんだよ、とそれを振り払う。


「頼りにしてるぞ」


 アルの二ッと笑う顔に、どうしてこんなに安堵するのだろう。シュンは髪を整えながら、歩き始めたアルについていった。

 壁は美しい色を失い、シュンのトーチで見える範囲は土壁だった。明かりもない真っ暗闇、一人でいれば怖くて堪らなかったかもしれない。アルは随分落ち着いた様子でずんずん進んでいく。


「なぁ、あんた怖くねぇのかよ? 暗闇から突然ワッとなんか出てくるかもしれねぇじゃん?」

「シュンのこの設置魔法が周囲を飛んでるし、ワッと出てきたその時は槍を振るうだけだからな。それに、俺の槍は特別なんだ」


 足を止めて差し出された槍とアルを交互に見た後、シュンはそれを受け取った。ズシリと重い槍は、あの時アルの体を貫いたそれそのものだ。なんだか気まずい。そんなシュンに苦笑を浮かべるような音で、シィィ、という誰かの意思が聞こえた。驚きのあまり槍を放り投げてしまい、アルが器用にキャッチした。


「わはは! 驚くだろ、オルファネウルっていうんだ」

「い、生きてんのか!? それ!?」

「どうなんだろうな? でも意思があるのは確かで、俺の相棒なんだ。かなり命も助けられてる」


 あの重い槍を軽々と手に馴染ませる姿に、専用武器か何かだと気づいた。何かあればこの槍が教えてくれるからな、と信頼を寄せる姿に羨ましい気持ちが胸に広がった。そういう専用武器みたいな出会いも欲しかった。特別だと思える存在になりたかった。相棒、などと言ってみたかった。

 もう、望むこともできないことを目の当たりにして、シュンは今、自分の時間が意味のないものであることを知った。


「オルファネウルをシュンに紹介できてよかった」


 そんな気持ちをたった一言で吹き飛ばしていく男が目の前で笑っていた。心の中で燻ぶった黒いモヤモヤしたものが、心地よい風に吹かれてきれいに消えていくような感覚を覚え、シュンはふん、と強がってそっぽを向いた。あんたと冒険ができていたら、きっと、魔力酔いなんてものにもならなかったのに、とシュンは胸中で文句を言った。


 暫く、小さな雑談を入れながら歩き続けた。途中、上階で見たのよりもどろりと肉体の溶けた巨人とも遭遇したが、シュンの設置魔法で半分以上体を吹き飛ばし、アルが槍を振るって真っ二つにし、泡と消えた。


「便利な魔法だな、こっちに爆発が来ないのも安心だ」

「指向性は考えてるからよ。回ってる中心には来ないようにして、外側にだけ爆発するようにしてんだ。そうする方が爆発が一点に絞られて威力も上がるし」

「あはは! 何言ってるかわかんねぇ! すごいすごい!」


 わしゃわしゃと撫でられ、苦笑をしながらやめろって、と振り払う。


「シュン、そういうのツカサに教えてやってくれよ。ツカサは今まで師匠にしてきた奴らがとんでもなさ過ぎて、なんていうか、シュンみたいな魔法は使えないからな」

「意外すぎるだろ。魔法障壁の遠隔設置だとか、周囲の魔力を使って魔法を使ったり、結構器用なのにな」

「師匠が悪いんだ。瞬き一つで目の前の敵を消し炭にできるような魔導士が、その、なんだ? シコウセイが、とか教えるわけないんだよな。あ、これ秘密な、俺の感想だし」

「……師匠がいるからっていいわけじゃねぇのな」


 アルの笑い声は暗闇を明るく照らすように響いた。

 迷いなく進んでいくアルは分かれ道で少し止まり、こっちかな、で足を進めようとする。それに対してシュンが違う、そっちやばい、逆、と声を掛ける道中だった。

 あれだ、こいつはゲームで正解の道を選んでいくタイプだ、とシュンは思った。直感が鋭いのだ。アルは苦笑を浮かべて項を摩り、分かれ道を槍で恐る恐る指し、シュンに首を振られる、ということを繰り返した。


「おかしいな、こっちだと思うからじゃあ逆、って指すんだけどな」

「もう大人しく道は俺に任せろよ」

「そうするわ」


 何度目かの笑い声が響いた。


 それなりに歩いたと思う。かなり広い場所に出た。天井も見えず、向こう側の壁も遠くて見えず、深い、どこか底のような場所だ。今出てきた横穴のような場所から、ずっと上まで、先の見えない崖があった。アルが喉を晒しながら上をじぃっと眺め、呟いた。


「どこなんだ、ここ」

「穴の底だ、って女神が言ってる」

「底ね、絆の腕輪はこの上を指してる。ホムロルル、上まで飛べるか?」


 ここまで会話を邪魔しないでじっと鷹をしていた鷹が、翼を広げて体の凝りをほぐしながら言った。


「飛べるけどよ、時間は掛かるだろうぜ。それに、ちっとやべぇんじゃねぇか?」

「あぁ、囲まれてる」


 その言葉にシュンがトーチを広げれば、横穴らしき場所からずる、ずる、と音を立てて、神子守りになれなかった命たちがこちらへ近づいてきていた。


「後々、どうにかしなくちゃならないもんだ。ここで眠らせてやろうぜ。シュン、魔法を使い過ぎるなよ? その力はお前をそこに留めるための力でもあるんだ」

「わかった、近づいてきた奴だけ、置いた魔法でやる」

「あと、俺から離れるなよ」


 言いながらアルは腰にランタンを吊るし、自らが光を持った。ばさりと鷹が飛び上がり、アルの邪魔をしないように一定の距離で円を描いて飛んだ。

 すぅ、と息を吸ったアルが、威圧を込めて叫んだ。


「うおおぉぉ!」


 びりびりと鼓膜が震え、全身が粟立つ。

 咆哮を放ったアルに向かって歪な体を持つ者たちが腕を、指を、首を伸ばしてくる。体の半分以上がどろりと溶けている様は人の不快感を覚える脳のどこかを指先でこねくり回してくるようだった。

 それらを一切の容赦なく槍で斬り払い、乱暴に穂先で叩き潰し、アルは崩れていくものが泡に変わることを見届け、次へ行く。シュンは自身の周囲とアルの周囲に設置型魔法を置き、奴らがアルに腕を振り下ろそうとした時にはそれを当て、アルを守った。既に一度魔法を見ていて自分に被害がないと知っている男がシュンにそれを任せてくれた。言いようのない高揚が胸に湧き上がった。

 信じ、頼られ、任せてくれる。


「くっそ、不謹慎だけどよ……、楽しいぜ!」


 暗い闇の中、こちらを守るように前衛を務める槍使いの光が右に左に、時に上へと縦横無尽に駆け巡る。シュンへ詰めかける敵があれば即座に戻り、シュンの魔法で弾けとんだ肉塊を確認し、まだ命のある者を槍で振り払って泡に変える。

 とんと背中を合わせられる。これが信頼なのだとシュンは知り、それに応える喜びを知った。 



いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。

書籍がすぐそこ、ドキドキが止まりません。

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― 新着の感想 ―
もっと早くアルに出会えてたら。 アルと会って二人で行き倒れて、ツカサに拾われて。 異邦の旅人のメンバーになって……なんて、叶わない夢をみてしまいます
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