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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 終章 旅路

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4-64:口にする責任を学び

いつもご覧いただきありがとうございます。


 ベシッと頬を叩かれた。思った以上に熟睡してしまっていたらしく、目は開かないが二発目をもらう前に体を起こした。こういう起こした方をするのは一人しかいない。


『おはよう、ラング』

『おはよう』


 ほらね、とツカサは一人眠さの中で笑った。ラングが同じ方法でアルとシュンを起こしに行こうとするのをマントを掴んで止めた。起こし方を知っているアルはまだしも、シュンはイラつくだろうとわかったからだ。しょぼしょぼした目を開いてくすんだ緑のマントの持ち主を見遣り、空間収納から鍋を取り出して差し出した。


『俺が起こすよ、鍋、あっためてもらっていい?』

『わかった』


 体よく追い払ったのは伝わってしまったようだが、大目に見てほしい。アルの肩を掴んで揺らし、呻き声が上がる。ホムロルルがばさりと翼を広げ、その音でなんだよ、と向こう側で寝ていたシュンが身じろぐ。


「朝だよ、起きて。ラングに叩かれる前に。おはよう、アル、シュン、ホムロルル」

「あいつ昔からその手法なんだよな……おはよう」

「あー……おはよう」

「ちっと硬いベッドだったな」


 おいこら、とアルがホムロルルを掴まえて嘴を摘まんでいた。ツカサはその騒ぎでようやく目がちゃんと開き、癒しの泉エリアの水を桶に入れて身支度を整え始めた。その横でシュンが直接泉に手を入れようとしたので思わず叫んだ。


「ちょっと! 泉に直接手を入れるのはマナー違反だよ!」

「マジ? 俺普通にやってたけど」

「信じられない! よく誰にも怒られなかったね!?」

「怒れる奴がいなかったんだろ、ほら」


 アルがすぱりと指摘して昨夜体を拭うのに使った桶をひとつシュンへ差し出した。ひと悶着ありながら朝の洗顔などを済ませ、ツカサはすっかり任せっきりの豚汁へ近寄った。

 置いてあった薪で焚火を起こし、鍋はふつふつといい塩梅に煮立って熱そうだ。昨日炊いた白米は食べきっているので、パンにハムを挟む定番のサンドイッチを用意し、それぞれの平皿に乗せた。洗って乾かしておいたスープの器には豚汁だ。


「いただきます!」


 ツカサの挨拶で皆が同じ言葉を言い、食事をとった。今日はどうする、などと前向きな会話、もとい、未来を想像するような話題は出なかった。この先、奥に向かうにつれて戦闘の確率も上がるだろう。目的の最奥では穢れにまみれた理の女神の抜け殻が待っており、蓋を開ける、世界を越える、新しい命の女神を生まれさせる、など多くのやらなくてはならないことがある。

 何を、どれから、どうやって。予想と予測だけではどうにもならないだろうが、いくつものパターンを考えておくことで、どれかが当たってくれればいい。実際、その場に行かねばわからないことが多いのだ、臨機応変に対応するしかないだろう。


「なんだなんだ、溜息なんて」

「あぁ、ごめん。考え事してた」


 考え事ね、とアルは豚汁のおかわりをしようとして肉を選んでお玉ですくい、ベシリとその手をラングに叩かれ、お玉を奪われた。器も奪われてバランスよく具材をよそわれ、差し出され、ちえ、と言いながら受け取った。それを見て、シュンは無駄なことはせずにラングへ器を差し出した。シールドを傾げながらも受け取り、よそい、渡し、どうも、とシュンは二杯目の豚汁を食べた。ぼそりと日本語で言うのも忘れない。


『怖い鍋奉行だぜ』


 ごふっ、とツカサは噴いた。


 すったもんだあったものの無事に朝食を済ませ、全員に魔法障壁を付与した後、昨日と同じ布陣で歩き始めた。


『ラング、ごめんって』


 朝食の席のやり取りで悪口を言われ、笑われたことだけは正しく理解しているラングのご機嫌は斜めになってしまっていた。態度が悪いわけでもなく、怒っています、というアピールもないが、淡々としており冷たい。義務的だ。アルは最後尾で笑った。


「わはは! この時のラングってマジでガキなんだな! すげぇ新鮮なもの見てる気持ちだわ」

「笑ってないでアルもシュンも謝ってよ!」

「俺何言ったのかわからないからなぁ」


 アルはわはは、と笑い、明るい声を響かせる。ホムロルルがやれやれと言いながら頭上を飛んでラングの肩へ行き、嘴を寄せて御機嫌取りに動いた。お喋りな鷹が嘴を開く前にラングがそれを摘まんで防ぎ、ツカサは笑ってしまった。明るい道中だ、賑やかでいい、と思ったツカサの前でラングが足を止めた。おっと、怒られるか、と身構えたところでラングが双剣を抜いた。ホムロルルは慌ててアルの方へ飛んで戻った。


『何か来る。ツカサ、明かりを』

「わかった、トーチ!」


 ツカサは照明魔法を増やして壁に等間隔に置いていった。幅のある通路はこれでかなり遠くまで見られるようになった。その奥から来るものを覗くため、ツカサはラングの隣に並んだ。


『視えるのか』

『まだ、俺の【鑑定眼】もだいたい五十メートルくらいなんだ。そこまでくれば、暗闇でもウインドウが視えるよ』

『お前の言っていることはよくわからないが、確かに、距離はまだ遠い』


 うん、とツカサは水のショートソードと感ずるもの(フュレン)を抜いた。


「前衛、俺も出るか? 後ろは何も来なさそうだ」

「大丈夫、シュンのそばにいてあげて」

「俺も魔法使えるぜ?」

「温存ってことだろ」


 アルがシュンと肩を組んだ。


「敵としては見てるけど、仲間として見るのは初めてだろ? 連携ってのはぶっつけ本番でできるもんじゃない、一回は見てろってことだ」


 トントン、と腕を叩いてアルが離れ、シュンはふん、と鼻を鳴らして前を向いた。


 アルのフォローに感謝しながら、ツカサはじぃっと暗闇へ目を凝らした。トーチをもっと先まで投げてもいいのだが、今置いている明かりの位置が【鑑定眼】の見られる距離なのだ。視覚的にもここから視えるというのを知らせやすいのでそうしている。

 じっと待っていればゴリゴリ、と何かを引きずる音がした。ラングはシールドを少し傾げて音を拾いやすい角度にし、それから戻した。


『重量のある武器、足音は複数』

「武器の種類わかったりする?」

『引きずる音だけでは少々不安だが、これは、大剣の切っ先だと思う。剣先から柄の方へ振動音が、響いているように思う』


 どういう耳をしているのだろう。ツカサは敵の数、武器の形状について後ろの二人にも共有した。アルは槍を手に持ち、シュンから一歩前に出た。その横に並んでシュンが尋ねた。


「俺も出るか?」

「いざとなったらな。俺もそれまでは出ない」


 ふぅん、というシュンの声を聞きながらツカサはラングと共に前を見続けた。トーチの明かり、五十メートル、ずしりと重い足が視えた。しかしその足の形の奇妙なこと、ミノタウロスでもなく、オークでも、ゴブリンでもない。肌色に爪のある人の足だ。けれどその指は片方の足に十以上ついている。

 うぞ、と虫の集合体のように蠢く指、トーチの明かりで露わになったそれは、人ではない人だった。


『前に、【黒のダンジョン】のことを話したよね』

『あぁ、聞いた。半神が神を生み出すために陣取った場所だったな』

『そう、たぶんこれも同じ。【9】さんと双子は唯一の成功作だったんだ。もしくは、それでもちゃんと命になっていたものが、迷宮が奪われて変質したとか。そっちの可能性が高いかも』


 ゴリ、と引きずられていたものは大剣ではあるが、その刃は骨だった。大きな肉体、腕が重なり合って一本になった太い腕。太い足にはところどころから生えた腕のようなもの、足先は前述のとおり指が多く、わさわさと蠢いている。

 そうっと見上げればアルの槍でさえ掠らない高い天井を低いと言いたげ頭を擦りながら、首を曲げながらそれが来た。双子と同じ金髪、目は濁っていて真っ黒、多くの命を抱え込み、穢れを内に秘めています、という感じだ。【鑑定眼】を読み上げる。


『神子守りになるはずだったもの、迷宮が堕ちた時に黒い命の入れ物となった。……解放を求めている』

『なかなか骨が折れそうだ』


 脳裏に浮かんだ【9】の守護騎士(パラディン)、あの人の硬さを思い出し、ツカサも苦笑を浮かべた。すーはーすーはー、ラングの独特の呼吸がして、ゆるりと動いた。最初はゆっくりと、徐々にスピードを上げて、横から振り抜かれた骨の大剣をバグのように掻い潜った。

 まず脚から飛び出ている腕を斬る。それはすぱりとラングの双剣で落ちた。アルの【時失いの石】の範囲内、しゅわ、と泡のようになって消えていった。斬られた痛みはないらしく、足元にいるラングへぬぅっと巨人が振り返る。さらに後ろへ回り込んで足首を斬りつけるが、やはり硬いようでラングの剣でも薄皮一枚、といった様子らしい。いや、あの双剣はまだ違うもんな。

 ツカサは巨人の視線がラングにぐるうりと向いていくのを見て水のショートソードを大きく振った。水刃はざくんと音を立てて巨人へ切り込みを入れた。しかし、斬り落とさねばいけないらしく、じわじわと肉体が塞がっていく。衝撃に揺らいだ隙をついてラングがツカサの隣へ戻った。


「うーん、厄介だなぁ、アルに頼む?」

『不本意だが、斬るよりも突く方がよさそうではあるな』

「あのさぁ」


 シュンが声を掛けてきて、振り返る。


「あの短剣使わねぇの? 穀物めちゃくちゃ出てくるやつ」


 誰もが頭に思い浮かべながらも言わなかったことを言う男だ。ツカサは盛大に溜息をついた。


「これだから効率主義のゲーマーは困るんだよね」

「ぁあ!? なんだよ! 手っ取り早いだろ!? なんでダメなんだよ!」

「命がぎゅっと凝縮されてるんだよ! できればこの世界に還してあげたい穀物じゃん! この先戻れるかもわからないのにできる!?」

「いいだろ別に! ここまで面倒見たんだから報酬として持って帰れよ! ここまで無報酬でこの世界のために動いてるだろ!?」


 シュンは事実を口にしてきた。そうではある。死にそうな思いをしながらも、この世界でできた友人のために、帰るために、ツカサたちは戦ってきた。その結果得た穀物もこの世界のためにと置いてきた。シュンにしてみれば少しくらい貰ったっていいだろう、なのだ。

 ツカサだって考えなかったわけではない。ただ、やむにやまれぬ事情があって命をこうした形にせざるを得なかった理の女神の気持ちを考えると、無に還してやった方が親切だと思ったのだ。

 話している間に巨人がこちらへ距離を詰めてくる。振りかぶった腕が奇妙な折れ方をして、天井をゴリゴリと音を立てながら擦り、無理矢理、骨の大剣が振り下ろされた。ツカサとラングが避けた場所でガィンと火花を散らせた骨の硬さ、魔法障壁があっても過信したくない力だ。


『増えた』


 ラングの一言でハッと暗闇の奥を見る。ズリズリ、ゴツゴツ、呻き声まで混ざり始め、視線を交わし合う。


「溢れる穀物に流されるかも、空間収納に入れるのだって結構大変なんだよ!」

「鞘にすぐ収められるか? ツカサ、シュンに豊穣の剣渡せ」

「俺がやんのかよ!?」

「言い出しっぺだろ? 言ったことには責任を持て。言うだけ言って高みの見物なんてさせるか」


 ツカサから豊穣の剣を受け取ったアルはシュンにぐいっとそれを押し付けた。


「手助けはしてやるから、頑張れよな!」

『ラング! 右に行くよ!』

『わかった』


 振り下ろした骨の大剣を横薙ぎに振る巨人の一撃をしゃがみ込んで避けるツカサとラングと、シュンの腹を押して大きく下がらせたアル。ツカサはそのまま右に向かって走っていき、水のショートソードを上から下へ振り抜いて腕を斬り落とし、泡に変えた。ラングは骨の大剣を持つ腕をよじ登り、背中側から首に向かって剣を刺した。命を刈る剣は健在だ、そこから泡のような何かがブシュッと溢れ、ラングに降り注ぐ。さらりと消えていくので濡れたりはしないが気持ちのいいものではないらしく、嫌そうな呻き声が聞こえた。


「ほら、シュン、今が好機! いけいけ!」

「ちょ、っと待てよマジで!? いやいや俺は近接は経験がねぇんだって!」

「早くしなよ言い出しっぺ!」

「クソがよぉ!」


 アルに背中を押されて駆け出し、背中のラングを掴んで落とそうと巨体を揺らす巨人にシュンの足が止まりかける。


「ほらほら止まるな! 死ぬぞ!」


 ぐんと前に出たアルの背中に釣られて再び足を踏み出し、シュンは叫んだ。


「俺は! 魔導士! だっつの!」


 巨人が振り抜いた腕をアルが槍で斬り払い、その隙にシュンが豊穣の剣をその足へ刺した。ブルッと震えた豊穣の剣が穀物を吐きだす予兆を見せ、慌てて鞘に収めようとしたシュンの手が、慣れない動作に鞘を落とした。


「やっべ」


 ラングがツカサの腕を掴んだ。ホムロルルがしがみついたアルがシュンの体に腕を回した。巨人の体はまるでダムから放流された水のように穀物に変わり、それぞれを押し流していった。



いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。

本編大変そうなのですが書籍のお知らせをさせてください。

来週金曜日、7/10に電子書籍で3巻がついに発売・配信されます!

すごく楽しみです。きりしま、夜更かしするために有給とりました。

SNSでの感想投稿、お待ちしております!

#パニ譚 できりしまが探せますので、一緒に盛り上がっていただけると嬉しいです。

web版も、書籍も、どうぞよろしくお願いいたします!

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