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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 終章 旅路

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4-53:仄暗い青の中、眩しいもの

いつもご覧いただきありがとうございます。


 北の空へ辿り着いた。いっそ懐かしい、ラングが登って周囲を確認した大木は変わらずそこにあった。その大木を目指して進んだ森の中、洞窟の青白い光。そこで一度は失ったと思った【時の死神】。そう昔のことでもないのに、どうしてこうも懐かしくて寂しいのだろう。


「このへんの命は大丈夫なのかな。こっちに寄ってくるのはある程度回収したはずだけど」

「問題ないぞ、お主らに(いざな)ってもらった後、我が改めて抱えておる」

「また(いざな)おうか?」

「なに、もう百年くらいならば問題なかろう」


 大虎はこの世界の寿命をわかっているのだ。あとは抱えて終わりを迎えるから、大丈夫だと言われたのだと気づかないほど、ツカサは鈍くはなかった。世界のことを知らないわけではなかった。

 こうした大虎たちの苦労を思えばこそ、彼らに生きてほしいと願うからこそ、【新しい命の女神】もどうにかしなくてはならない。

 ヴァンとともに話して浮かんだアイデアは、今のところそれが最善策のように思う。持っていても使いどころのわからないドラゴンの血など、こういう時に使った方がいいだろう。


 思えば、アイスドラゴン、ファイアドラゴン、サンダードラゴンと各々が出会ってはいても血がドロップしたのはファイアドラゴンだけだ。それは【ラング】と導き手(ツカサ)だから出会えたものだったのかもしれない。

 アイスドラゴンはジュマの迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)でミラリスが暴挙に出て、ロナが連れ去られ、逃げ込んだボス部屋で既に【時の死神】により討伐されていた報酬だった。【時の死神】があそこに居た理由を話されそうになったが断った直近の記憶、それから、ミラリスのことを思い出した。

 ロナの手紙では随分と物分かりがよくなっていて、王都マジェタの迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)が落ち着き次第、冒険者証を作り直して旅に出る、という経緯だけは聞いた。あの人もどうしているのだろう。


 サンダードラゴンはラングとアルが【快晴の蒼】とともに【紫壁のダンジョン】の停止を行うために倒したドラゴンだった。討伐したのはラングとアルなので、報酬は全てどうぞ、と【快晴の蒼】が手放したものだ。

 討伐者に渡す、という取り決めはあったものの、アル曰く【快晴の蒼】は報酬を少し覗いただけで少しも、誰一人として欲を見せなかったらしい。アルはそれを「さすがスカイ一番と言われる金級冒険者だよな」と言っていた。金銀財宝に慣れている金級冒険者だからか、金に困っていない貴族だからか、その真意はわからないが、もしかしたら、彼らは知っていたのではないだろうか。ドラゴンの素材の持つ意味合いを。


「そう考えると【血】についても一切触れてこなかったことにも辻褄が合うんだよなぁ」


 【記憶降ろしのヴァン】は、それ以前も、ツカサが話して聞かせた経験の中で【ファイアドラゴンの血】がドロップしていることを知っていた。けれど、そのことには一切触れず、ツカサの導き手(ギウデア)の特性の方を重要視した。敢えて、意図的に、触れなかったのではないだろうか。


「あの時、時間を掛けて触れる話題でもなかったってだけかもしれないけど、そのあと勉強してるときとか、気になってたら聞く人だよね。それでも突っ込んで来なかったってことはその可能性高いなぁ」


 あとは使い方もよくよく考えなくちゃな、とツカサがぶつぶつ言っていれば、全員から眉を顰められていた。


「先生? 大丈夫か?」

「ツカサさぁ、お前本当独り言多いよな」

「い、いろいろ考えることが多いんだよ!」


 わはは、とアルに笑われ、ツカサはその腕を叩いた。


「楽しそうでいいけどよ、ほら、着いたぜ」


 ホムロルルがゆっくりと大虎の後を追って下降し、北の洞窟の入り口前に降り立った。キスクはいまだ着地に慣れず転がるように落ちていき、ツカサは苦笑しながら手を差し出した。

 ツカサはゆっくりと振り返った。始まりの洞窟だ。ここでラングと出会い、置いていかれ、追いかけて。自然と喉が鳴る。不思議な緊張感がツカサにはあった。


「あぁ、うん、ええと、それで、【9】さん、上るって、どこから?」


 キスクは腕の中からびょんと飛びあがったユキヒョウをそのまま手放し、背後でぐぅっと体を伸ばして大きくなるに任せながら尋ねた。【9】はいまだ外さない鉄仮面の下でゆっくりと頷き、ツカサが感慨深い思いで見ていた洞窟を指差した。


「青の道から、この奥へ」

「ここにあるんだ? あの時は気づかなかったなぁ……」

「ふぅむ、しかし、その道は塞がれておるな」


 のし、と大虎が顔を上げ、すん、とその鼻を鳴らした。どういうことか、と皆から視線を注がれて大虎は唸るような低い声で言った。


「ここは聖域なのでな、ヒトの手ではそう簡単に変化を加えられぬのだが。よほど大きなものでも居たのか、いや、手を出したのは、なんと、ドルゥムか!」

「誰?」

「大きな牙を持ち、それは強い突進力を持った一本気な土地神だ。大猪だ」

「あぁ! あれかぁ」


 この世界に来て早々、ラングと共闘するに至った大猪だ。黒い命に取り込まれ、理性も何もかもを失っていて、どうすればいいかわからない灰を空間収納にしまったのは、それが初めてだった。


「その、ドルゥムさんが道を塞いだってこと?」

「うむ、痕跡から見るにそうであろうな」


 洞窟に入れるサイズになった大虎が先導し、迷わずに洞窟を進んでいった。

 ここは変わらず青白い光が洞窟の入り口から奥へ向かって波を描いていた。通り過ぎていく不思議な紋様の光。肌を、装備を、マントを一瞬青く白く染めて駆け抜けていくそれを、あの時は逆に辿って出口に辿り着いたのだったか。

 光の波が二つに分かれた道も大虎は迷わずに進んでいく。北の管轄なのだからわかるのだろうと思ったが、どうやらそうではなく、大猪のにおいを辿っているらしい。


「ドルゥムはとっても温厚な土地神だったのである。我も遊んだことがあるのである!」


 ユキヒョウは足取り軽く尻尾を立てて嬉しそうに語り、大虎に追従する皆の時間潰しによくしゃべった。だいたいその相槌を打つのはキスクだったが、ツカサも楽しそうな声には微笑を浮かべてしまった。


「草花が好きで、穴を掘って、虫を食べたりもしてたのである! キノコとかも好きだったのである! 土地神は食べなくてもいいのであるが、ドルゥムは食べることが好きだったのである」

「あぁ、うん、そういえばシャムロテスも食べるもんな」

「そうなのである! オットルティアも好きだったのである。オットルティアはとっても器用で、人型になって街に入ったりもしてたのである。我もお土産にぼーるをもらったりしたのである!」


 でも、とユキヒョウは足を止めた。


「ドルゥムは……大好きな草花と虫の命を抱えて、いっぱいいっぱいだったのである。そこをヒトの子に、襲われたのである」


 皆が足を止めた。先頭を行っていた大虎も足を止め、皆がシャムロテスを見遣った。


「シャムロテス、見ておったのか」

「水辺だったのである。移動はできなくても、我は見えるのである、声も聞こえぬ、声も届かぬ、でも、見えるのである」


 ぐす、とシャムロテスは項垂れ、キスクの腕の間、腹に顔を埋めた。キスクはそれを受け止めてユキヒョウの顎を、頭を撫でた。口パクでちょっと待ってあげてくれ、と言われ、ツカサたちは頷いた。


「いっぱいいっぱいだったのである。だから、逃げることもできなくて、痛くて我を失って、その時に振り回した牙でヒトの子を殺めてしまったのである。……だから、ヒトの命三つで、堕ちたのである」

「そうだったんだ……」


 いのち あと みっつ。あの表記の真実を知り、ツカサは強く目を瞑った。もしかしたら、人がここに来なければ、ドルゥムを肉として襲わなければ、ラングとツカサが間に合ったかもしれない。

 仕方のない理由もどこかにあったのだろう。ヒトもまた何かを奪い食うことでしか生きてはいけない。しかし、ここでもツカサが痛感するのはヒトのやったこと、ということだ。ただそこに在り、己の存在意義のままに職務に当たる土地神たちを追い詰めているのは、ヒトの命だ。責任が圧し掛かり、苦い水が上がってくるような気がした。


「ドルゥムのことは仕方がないのだ。よいかシャムロテス。今、我とシャムロテスが無事であることも幸運なのだ。そして恐らく、運命なのだ」

「わかっているのである! でも、我も、我も悲しむ時間は欲しいのである。悲しいことばっかりなのである……!」


 ぐいぐいと押されキスクの体がくの字に折れていく。懸命に支えようとしているがもうあと少し押されれば倒れる、というところでアルがその背中を支えた。


「あぁ、えっと、アル、ありがとう」

「シャムロテス」


 アルはその名を呼んだ。べしょっと濡れた顔を上げたユキヒョウに、アルは二ッと笑った。言葉はリガーヴァルのものだが、ユキヒョウには通じるだろう。


「キスク、いい友達だよな」

「うむ、である」

「じゃあ、キスクをちゃんと見てやれよ」


 ユキヒョウは必死に自分の頭を抱きかかえるようにしているキスクを見上げた。


「悲しいことは悲しい。寂しいもんは寂しい。ラングだってそれでいいってことを、テルマだっけ、に言ってただろ?」

「うむ、言っていたのである」

「テルマには兄ちゃんたちがいて、お前にはキスクがいるだろ? 大虎だって仲間なんだろ? ……悲しむことが悪いってんじゃないけど、そばで支えてくれてる奴を忘れちゃだめだ」

「忘れてないのである!」


 そうか? とアルがキスクの背から手を離せば、キスクは支えきれずにどさりと尻もちをついた。


「ほら、お前だけが悲しい、寂しいを押し付けてたら、キスクは倒れちまう。キスクはじゃあ、誰に支えて貰えばいいんだよ?」

「我が、我が支えるのである!」

「だったら、わかるよな?」


 ユキヒョウは耳を垂らし、長い尻尾をぺたりとさせ、それから倒れたキスクの胸倉を掴むように噛んだ。ぐいっと引っ張られ、前のめりになり、ユキヒョウの顔に抱き着くようして倒れ、押し上げられてキスクは立ち上がった。アルの言葉がわからず困惑顔のキスクは、目の前で顔の毛をべしょりとさせているユキヒョウと、わはは、と笑うアルに挟まれて変な笑みを浮かべていた。助けを求めるように視線を送られたツカサはキスクに笑いかけた。


「いい友達を持ったね、って話。キスク、ユキヒョウはキスクを支えたいってさ」

「え? あぁ、うん、それは嬉しいなァ」


 へへ、と頬を掻くキスクの笑顔に皆がホッと息をついた。


「さぁ、参ろう」


 大虎の案内で再び歩き出した後、ユキヒョウはピンと尻尾を伸ばし、キスクの背中に寄り添わせていた。あったかいけどくすぐったいなぁ、と贅沢なことを言いながらもキスクは嬉しそうで、ツカサはアルの腕を小突いた。


「アル、アルがあんなことを話すなんて思わなかった」

「わはは! 俺のことを見直したか?」

「うん」

「ったく、素直なんだからなぁ。揶揄い甲斐があるんだかないんだか」


 アルは頬を掻き、肩に居るホムロルルを照れ隠しに片手で撫でた。でも、どうして、と言いたいツカサの視線もわかるのだろう。アルはそれから少しだけ寂しそうな笑みを浮かべた。


「支えてほしいだろうなって時に、俺は横に居られなかったからさ」


 全てを失ったツカサの隣に、未知の場所へ追いやられたラングに、そして、仲間でありたいと願っただろうシュンの隣に。


「だから、支えられる、支えてくれる、そんな相手がいるんなら、大事にしろって思っちまうんだよなぁ」


 誤魔化すようにホムロルルを撫で続け、お、そろそろかな、と一歩前に進んだ仲間の背中を、ツカサは大きいな、と眺め、いつかアルがどうしても折れそうな時、ラングだけではなく、自分もまた肩を貸せる男になっていようと思った。



いつも旅路にお付き合いありがとうございます。

きりしまです。

旅人のタレコミによりますと、TOブックスオンライン様にて1巻が「SOLD OUT」になっているとのことです。

限定ペーパ付きSSがついに在庫枯渇!?

こうなると1巻よりも冊数の少ない2巻も危ない……!?

1巻も一応まだある書店様もあるようですので、物理的に欲しい方はお早めにお買い求めください。

同様に2巻は冊数自体が少ないため、突然棚から消えてもおかしくはないです。

もしお悩みであれば一歩足を踏み出してお手元に迎えてやってください。


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