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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 終章 旅路

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4-36:狙われたもの

いつもご覧いただきありがとうございます。


 多くの人が集っていたから地面が崩落したのか、底にいる【黒い命の泉】から何かが伸びてきたのか、理由と原因は定かではない。アルの話によると広場の一つがごっそり抜け落ちており、街中に真っ黒な口を開いて人を待っているように見えたという。落下した民には悪いが、知り合いが無事でよかった、とツカサは胸を撫で下ろした。しかし、宿に居ると思っていた男が前線に出ていたことは想定外だ。


「ショウリも現場に出ていたんだね。話をしたかったんだけど、すぐには会えない?」

「うちの商会も食料の提供に回るので、その調整もあって少し出ていたんです。商会長はこれから一度戻ってきます。テルマの部隊の者からそのように、キスク殿が怪我人の手当てを終えれば、とのことで」


 情報のやり取りが随分と早い。魔道具の存在しないこの世界でのそれには驚くが、ショウリがそうした分野で整えないこともないだろう。情報をいくつにも分割させて備えるような男だ、何かしらの手段を構築している可能性が高い。キスクの魔力量と手当てにかかる時間を思えば心配はあるものの、会えるという安心感にツカサは息を吐いた。


『なぜ、穴が開いた?』


 ぽつりと呟かれたラングの声に、皆がそちらを振り返った。腕を組み、顎を撫で、ラングはじっと考え込んでいた。


『ラング、気になることがある?』

『最初に崩落したのは【雑貨屋・イーグリス】、今は広場。けれど、人が多いことを考えれば最初から広場が崩落していてもおかしくはない』

『気になることがあるんだね』


 ええと、とツカサが部屋を見渡してそれぞれ()()が機能しているかを確かめた。アルは自身の背中の槍を指差して示し、ヴァーレクスの首にネックレスのように巻きついている蛇にテルタがあんぐり口を開いているのを確認してからツカサはラングへ視線を戻した。マール・ネルをラングへ渡す前にホムロルルがその肩に乗り、任せろと言いたげに頷いた。牡鹿はツカサの隣に並んだ。


『多くの命が欲しいというのならば、いっそ首都・レワーシェを全て崩落させる方が手っ取り早い。だが、そうではなく、【雑貨屋・イーグリス】を落としたこと、広場を落としたこと、その優先順位が気に掛かる』

「言われてみれば確かにそうだな。神殿は北側に位置してるんだ、そこだけ残して全部落としたって困りはしないよな?」

「なぜ、そうなったのかがラングは気になるんだね」


 黒いシールドがこくりと頷いた。ツカサもまた腕を組んだ。なぜだろう、言われると確かに気になる。そう、未だ謎ではあるのだ。なぜ、シュンは首都・レワーシェの底に【黒い命の泉】を作ったのか。それともあれは必然的にできてしまった溜まり場なのか。【精霊の道】を通さないために置いたものでもあるかもしれないし、と考えたところでツカサは思い出したかのように顔を上げた。


『そういえば、俺、あの【黒い命の泉】、シュンに引きずり落とされたんだよね。あの時、シュンは言ってた、これは最終手段にしたかった、あとは任せておけ、って』

「あぁ、あれ、ツカサが落としたんじゃなかったのか」

『つまり、【黒い命の泉】の中にシュンがいる、ということなのか』

『わからない。シュン、いくつかに分かれているみたいだし、俺は体を奪われて、時の死神とこの世界の理の女神と、みんなに救われて必死だったから』


 ツカサはひとりひとりと目を合わせ、にこりと微笑んだ。ヴァーレクスだけは一切ツカサの方を見ていなかった。蛇に何か言われていたがうざったそうに首を揺らしただけだ。ラングがふむ、と唸った。


『そこにある命を狙っているのかと思っていたが、少し違うのかもしれない』


 ラングは紙を求め、ツカサはテーブルに紙と、ラングが気に入っている万年筆を置いた。ラングは礼を言いながらそれを手にし、紙にいくつかの名前と時系列を書いた。横に引いた線に【雑貨屋・イーグリス】が崩落した時間と、その時のそれぞれの位置が書き記されていく。その書き方はツカサが名もなき町で説明したあの夜、書いた形だ。使ってくれたことが嬉しかった。

 ラングはそこにわかっていることを全て書いた。ラングの故郷の文字なので各々が文字に指を当て、口頭で説明を受けていた。蛇はまだしも、槍にも字が読めるのかと少し感心してしまった。

 確認を終えて顔を上げる面々はラングからの説明を待った。


『ツカサ、まず確認をしたい。ショウリは【雑貨屋・イーグリス】が崩落した情景を、どういった言い回しで話していた?』

『言い回し? そうだね、えっと、ショウリがその場に居たんだろうなって思う言い方だった。伝聞ではないと思う』

『白銀の杖が言葉をそのままなぞっているのならば、私にもそう聞こえた』


 つまり? とツカサが答えを促せば、アルが声を上げた。


「もしかして、狙われたのはショウリだったんじゃないか? ショウリっていうか、【命の女神の欠片】」


 ショウリ、という音にテルタが不安そうにアルを見た。視線はわかっていても今はそちらを構う余裕はないとアルは視線を返さなかった。テーブルに置かれたラングの時系列に指を置き、【雑貨屋・イーグリス】の崩落前を指した。


「ほら、ラングはここで【命の女神の欠片】をツカサに渡してから首都・レワーシェに戻っただろ。俺たちが戻ってる間に【雑貨屋・イーグリス】は崩落した。トルクィーロのおっさんがどこに居たか聞きそびれたけど、【雑貨屋・イーグリス】に一緒に居たとしたら?」

「テルタ、【雑貨屋・イーグリス】の崩落時、トルクィーロさんってどこに?」

「商会長と、守護騎士(パラディン)たちと、【雑貨屋・イーグリス】にいた。建物が揺れて、足元が崩れ始めて、その時にあの人が近くにいる人を担ぎ上げて、壁を壊して外に出てくれたから、俺も生きてる」


 でも、揺れで割れた薬品が、とテルタは商会長代理の怪我を思い出して小さく付け加えた。テルタの言葉の通訳を受けてラングは確信を得たように頷いた。


『【命の女神の欠片】が狙われたんだろう。【雑貨屋・イーグリス】も、先ほどの広場も、【命の女神の欠片】を持つショウリがいる。ツカサが狙われない理由は不明だが、可能性としては高い』

『あれかな、俺は一応、中に神様がいるから持てる状態になってるみたいなんだよね。トルクィーロさん、言葉を選ばなければ死人だったし。もしかして、俺よりもショウリの【命の女神の欠片】の方が目立つとか?』


 皆が黙り込んだ。だとするのならば、ここに戻ってくるのは不味いのではないか、と気づいたからだ。【雑貨屋・イーグリス】の崩落の後、少しの時間は空いている。連続で、移動に合わせて崩落を起こすことはできないと考えられるが、状況は常に変化している。追い方を学び、覚えてしまえば。固執することをやめ、一気に首都・レワーシェ全体を崩落させたのならば。求めて引きずり落とそうとしているものが【黒い命の泉】に溶けたシュンだとすれば、あり得るかもしれない。


「牡鹿、ユキヒョウに声を届けられる? 人の少ないところで限られた人数で会いたい、話したい。申し訳ないけどすぐにショウリから【命の女神の欠片】を受け取りたいって」

「お任せください」


 牡鹿はピシリとポーズを決めた後、キェーン、と甲高い声で鳴いた。ホムロルルが補佐をするようにピェーと鳴き、ツカサにはそれが言葉で聞こえていた。内側にいる【理の女神】の影響だろう。すぐさまユキヒョウから、わかったのである、と返事があり、人の少ない場所、件の隠れ家に行くという。いい判断だと思った。あそこならば時間がずれていてやり取りをしている間くらいは隠し通せるはずだ。ショウリ自身も招かれた経験があるため、ラングたちをキスクに招いてもらえばいい。ホムロルルがベランダの手すりへ移動し、運ぶ姿勢をみせた。


「ま、オレ様場所は知らねぇが。牡鹿も蛇も知ってんだろうしな、先導は任せらぁ」

「うむ、我に任せよ」

「いやぁ、牡鹿は走るの目立つからぁ、ぼくが案内するよぉ……」


 蛇は明らかに不安と言いたげにぼやき、牡鹿の反論は聞き流された。全員乗せることができるのかと問えば、ホムロルルは翼を広げて胸を張った。


「任せとけ、ただな、ここでオレ様がでかくなると建物を壊しちまうからよ、上手く飛び乗れよな」

「わかった。ヴァーレクス、牡鹿を担いでもらっていい?」

「うぅ、青年、我はまた肉扱いか……!」

「仕方ないでしょ、羽を掴む手がないんだから……」


 牡鹿は小鹿となり、トボトボとヴァーレクスに近寄って大人しく担がれた。


「私ではなく槍使いにでも任せればいいものを」

「腕力があるのヴァーレクスだからね」


 チクリと嫌味を込めて言えば舌打ちが返ってきた。言外に棚に上げたことを責められた気もするが気にしないことにした。


「んじゃ、行くぜぇ!」


 空に飛びあがったホムロルルはその体を大きな大きな鷹と変えた。空を旋回する大きな鷹に、さすがにざわついた人々の声が聞こえる中、ツカサはテルタを振り返った。


「テルタ、一緒に行く? それなら手を引いて一緒に飛び乗るけど」


 ツカサの差し出した手を見て逡巡、テルタは首を横に振った。


「俺は、キスク殿とは違って父さんと長い間過ごしてきた。たくさん話した。この先に別れがあるんだぞ、って、言い聞かせられてきた」


 ラングがベランダの外へ出て、その後にヴァーレクスが続いた。


「ごめんな、紛い物で、って父さんはいつも言ってた。でも、ある時から父さんはそういうことを言わなくなった」


 アルがベランダへ出た。テルタは穏やかに微笑んで言った。


「代わりに、()()()がお前たちの父親であることは嘘じゃない。だから、絆を卑下するような言い方はもうやめる。俺たちの子供であってくれて、ありがとう、って」


 遠くからピェー、とホムロルルの鳴き声が聞こえた。テルタは自身の胸を叩いた。


「俺たちも父さんたちを愛していることは、たくさん伝えたさ。だから、大丈夫だ、行ってくれ」


 ツカサは強く頷き、テルタに背を向けてベランダへ走った。パッと外へ出て、手すりを越えていく仲間たちの背を追い、ホムロルルの背中に飛び乗った。ピェーと鳴いたホムロルルの声が空へ響き渡り隠れ家を目指して飛んでいく。

 外へ出てそれを見上げ、テルタは見えなくなるまでその姿を目で追った。


「父さん、これでいいんだよな? キスク殿だって、受け止めて、受け入れて、あぁ、でも」


 さみしいよ。かなしいよ。あいたいよ。


 テルタの顔はついに耐え切れなくなってくしゃりと歪み、手すりに縋りつくようにして(くずお)れ、叫び声を上げた。




いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。

GW……あと2か月くらいあってもいいというのに……。どうして……。

3巻のお知らせ、定型文として暫く貼り続けると思います。ご容赦ください。

書影いただけたら簡略化します。


<3巻お知らせ 電子書籍>

TOブックス様公式「X」にてURLリンク付きの投稿がしていただけました!

そちらのURLをご参照くださいませ。

今回の書き下ろしは3本あります。


①真夜中の梟の続編(電子版でSS連載になっているもの)

②TOブックス様公式Xアカウントで行ったアンケートSS(ツカサとラングの話)

③第三者視点から見たツカサとラング


すべての電子書籍に①②はついており、今回、ブックウォーカー様がイベントに乗ってくださって、③が追加でついているのはそちらだけです。

重ねてお伝えしますが、今回は電子書籍のみになりますので、各電子書籍サイト様で直接ご予約をお願いいたします。

お好きな媒体でお選びいただいてもよいですし、特典を狙ってもよいです。

どうか、続きを加筆山盛りてんこ盛りでお届けできるよう、何卒ご助力、応援のほどよろしくお願いいたします。


お手元に届ける書籍に関しましては、最高のものをお届けさせていただきます。

よろしくお願いいたします!


1巻書影

挿絵(By みてみん)

2巻書影

挿絵(By みてみん)


面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やリアクションをいただけると励みになります。

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