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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 終章 旅路

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4-28:奇策の裏側

いつもご覧いただきありがとうございます。

キリの良いところなので。


「――つまり、死んだと錯覚させて、ツカサの体からシュンを追い出すことが目的だった、と」

「うん、そう」


 深く斬られていたように見えた首の怪我はなかった。首そのものを斬られたと思い込んだ黒い命がそれを再現しただけだった。

 それはいつだったかエフェールム邸で【ラング】から殺気を教わったツカサが臨死体験をしたのと同じことだった。柔らかい治癒魔法で頭の傷を治してもらい、その優しい魔法にこっちが本物であると、ありありと証明されながら、アルは大事なことを咎めた。


「無茶するなよ、肉体自体も死んでたらどうするんだ」

「大丈夫、ラング(兄さん)ほどの殺気、たぶん存在しないから。今はまだ若いし、いざ斬られたとしても、身代わりの指輪もあると思って……」

「ばっちり割れてたな? 殺気でな? 瀕死になったってことだろ? どういうことだ?」

「……無茶でした、ごめんなさい」


 当たり前だろ、と二の腕を拳で軽く押した。ごめん、と青年、中身も、体もちゃんと戻ったらしい本物(ツカサ)がしょんぼりと項垂れた。はぁ、と溜息を零せば、ツカサは苦笑を浮かべて首を縮め、えへ、と笑うその許してほしそうな甘ったれた顔は見たことがあった。

 アルはツカサの首、肩、腕を両手で叩いて確認した後、はー、と深い息をついた。結局、疑わしい気持ちの方が正解で、知らないところでツカサはツカサで瀕死だったと聞いて、なんとも言えない気持ちになった。仲間に対しての申し訳ない気持ちと、どうにもならなかったのかという悔しさがツカサの腕を掴む手に表れてしまった。ツカサがアルの腕を握り返し、はっきりと言った。


「アルがシュンを信じようとしてくれたから、俺の魔力を暴発させるような自暴自棄にさせずに済んだんだよ、ありがとう。アルならそうしてくれるって信じてた」

「……一丁前なこと言いやがって!」


 ガバリと腕を回してヘッドロック、わしゃわしゃと髪を撫でて誤魔化してツカサを離せば、ぼさぼさの髪のままで笑われた。さて、ツカサが戻ったのなら、別のことを聞こう。


「で、ラングとヴァーレクスはどういうことだよ? 生きてるのはまぁ、もういい、置いといて、これ絶対違うだろ、中身」


 これ、と親指で指した先で腕を組んで立っているラングと、姿勢よく立っているヴァーレクスとに、ちらりと視線が行く。座り込んだ牡鹿に寄り掛かって眠っている少年の膝でホムロルルは目を合わせず、少年の服の中から顔を出した蛇がやっほー、と言いながらちろちろ尾を揺らしていた。気楽なもんだ。

 改めてツカサに視線を戻せば、苦笑を浮かべて頬を掻いていた。


「うん、ほら、黒い命ってすぐ生者の肉体を奪おうとするからさ、奪われない人を使う必要があったんだ」

「説明。いいか、俺にわかるように、だぞ」

「任せてよ」


 ツカサが自信満々に胸を叩いた。嬉しそうだな、と怪訝そうに言えば、声が出せなかったから喋れるのが嬉しいんだ、と返され、それもどういうことなのか後で聞こうと思った。


 結論、ヴァーレクスの特性を利用した、という話だった。

 ラングは【命の女神の欠片】を持っているため、もし奪われでもしたら厄介なことになる。トルクィーロやショウリ同様、それは黒い命を生者とさせるだけの力を持っているからだ。

 そこでツカサは時の死神(トゥーンサーガ)・セルクスに聞いたのだという。


 魂を一時的に入れ替えることは可能か、と。


 セルクスからスキルがどういうものであるのか、加護がどういう扱いであるのかを聞き、漫画やアニメ、ゲーム、そしてラノベで魂を入れ替えたり転生させたり、そうしたものに触れていたからこそ浮かんだ冒涜的な奇策(アイデア)。セルクスは一瞬厳しい表情を見せた後、思い直し、幼くなった手で顎を撫で、十分に時間を掛けてからにんまりと笑って頷いたらしい。


 できる。だが、それには【時失いの石】が必要不可欠となる。理の内では許されない行為であり、本人の同意も必要である。それらが整う場であれば、ラングの刈り取る権能と、ツカサの導く権能とで私が成してみせよう。


 そうセルクスは答えたという。

 ただし、一度でも【時失いの石】の範囲から出てしまえば、二度と戻ることはできなくなるという危険な方法だった。

 アルはツカサとラングとヴァーレクスを変な料理を見た時のような顔で見渡した。


「何考えてんだ……。それで、ヴァーレクスの特性って?」

「ヴァーレクス、イーグリステリア事変で【自分が自分であること】を望んだんだって。だから、ざっくり言うと【変わらない】っていう加護があるんだ。黒い命の泉に飛び込んでもまったく影響なしだったから、黒い命の天敵、次の住処、隠れ家になれないのを利用したんだ」


 ふふん、と思いついた奇策(アイデア)を自信満々にツカサは語り、アルは額を押さえた。


「待てって止める奴がいなかったんだなぁ……! 確かに、俺も嘘は吐けない性質(たち)だから、話されてても困るけどさぁ……! もっと他に方法あっただろ!」

「やるしかなかったんだよ!」

「わかった、わかった。で、あの状態なわけな。いつからだ?」

「アルとシュンが寝た後だよ。哨戒のふりで席を外して、それで」


 あぁ、とアルは納得の声を零した。ラングがふらりと席を外す気配は感じ取っていたが、どうせ哨戒か用足しだろうと意識をすぐに睡魔に落としたことを思い出した。

 曰く、ラングが癒しの泉エリアの水をもらって薪拾いに行った時、瀕死だったらしいツカサにその水を与え、延命させてから元々集めてあった枝を手に戻ってきたという。

 その後、寝入るのを確認して席を外し、五十ロートル以内にいたツカサたちのところへ戻り、秘術を使った、というのが事の次第だった。

 ラングの肉体に入ったヴァーレクスはその肉体に小さい、低い、短いと文句を言い、シールドに慣れず何度かよろめき、転び、気持ちが悪いと呻いたらしい。どういう視界なのかと尋ねてもヴァーレクスは沈黙を貫いたが、真っ直ぐに歩けるようになるまでそれなりに時間が掛かっての早朝、ということだったそうで。

 ラングはラングで常日頃より高い視界にぐらつき、振り返って枝にぶつかるなど、いつもならばあり得ない失態を見せ、二人揃って黙々と慣れるためにぐるぐる歩き回っていたという。セルクスがぺち、ぺち、と手拍子をつけ、小声で何か歌を歌っていて、ツカサはそれを怖かったと言った。

 もはや変な儀式のような光景だっただろうな、とアルは一瞬瞑目した。


「ラングもだけど、ヴァーレクスの奴、よくその提案を受け入れたな?」

「すごい説得したんだよ! それなりに拒否されたし喧嘩始めちゃうし大変だったんだから!」

「ヴァーレクスがそのままやればよかったんじゃないのか?」

「殺気の種類が違うから、上手くいかないと思って。確認したら殺気も肉体の反射反応だっていうからさ」


 どういうことかと聞けば、ツカサは声を潜めて言った。


「ラングの殺気は鋭い刃って感じだけど、ヴァーレクスの殺気ってちょっと粘着質というか……」


 首を斬られる感覚ではなく、首を絞められる感覚なんだよね、と続けた言葉にアルは呆れが浮かんだ。実際に首を絞められるわけではないその殺気は、一瞬のやり取りでは相手を殺すことができない。ツカサはそう判断したのだ。

 事実、ツカサの想定通りシュンの意識とツカサの体は斬られたと錯覚したわけだが、アルは最悪と最強を経験してきたその青年を哀れみ、肩を叩いた。殺気の種類が違うとか、その感じ方をまるで料理の感想のように言う奴があるか。そこまで言葉にはできなかったが、ツカサはなんとなく慰めを感じたのだろう、慌てて付け加えてきた。


「でも、だから上手くいったっていうか、ラングもヴァーレクスもやるしかなかったんだよ。ヴァーレクスがタルワールを持ってついうっかり本当に俺の首を斬ったら困るし、前に斬られてるし、ラングのままだと話したとおり危ないし。それに、未来を取り戻せなかったら、ヴァーレクス、誰も居ない世界に一人だけ取り残されちゃうんだって」

「なんだそれ、かわいそうだな?」

「うん、かわいそうなんだ」


 こくりと素直に頷くツカサに苦笑し、アルはヴァーレクスを見遣った。戦うことに文字通り命を懸けている男が戦う相手を失う世界は、死ぬことと同義、そうなるくらいならば、他者の体に入り、策に乗るというわけか。一先ず、あの二人があの状態になった理由はわかった。

 アルはもう一つ疑問を抱いていたことを尋ねた。右腕の金の腕輪、絆の腕輪の違和感だ。


「これ、絆の腕輪が反応してたんだけど、()()()、持ってないだろ? なのにどうして追えたんだろうな? ツカサ……シュンなんかはそういうものだと思ってたみたいだけどさ」

「え、そうなの? 随分真っ直ぐに来たなとは思ってたけど、ラングがわざと残した痕跡を辿ったんじゃなかったんだ」

「いやいや、わざと残したって、わかりにくいって! どこにあったんだよそんなもん!? ムズムズしたからこっちに来たんだよ。俺は追跡も得意じゃないしな。当てずっぽうで走ったから結構ハラハラしてたんだぞ」


 二人で首を傾げた。これは【異邦の旅人】が三人で【赤壁のダンジョン】を踏破して手に入れたもので、なんとなくどこにいるかわかる、というぼんやりしたものだ。実際、その効果でツカサはアルがどこにいるのか、アルはツカサがどこにいるのかがわかっていた。しかし、今回は探していた相手側にはそれがなかったはずだ。


「もしかして、意味合いが結構広いのかな」


 ――絆の腕輪。赤壁のダンジョン、踏破報酬を皆で分けようとした冒険者に与えられる、祝福の腕輪。遠く離れていても、どこにいるかなんとなくわかる。


 ツカサが鑑定結果を呟いた。


「絆の腕輪を持っている人がどこにいるか、とは書かれていなかったね……」

「……そうか、あのダンジョン踏破は、()()()だからか……」


 その点でもまたツカサではないという証明であったわけだ。魂が近くなって、シュンは肉体が魂を求めて反応したことをそのまま受け取り、アルの方は正しい魂がそちらであると反応し、導かれた。マジックアイテムは嘘をつかないのだ。

 アルは一人納得をして目を逸らした。こちらが正しいのだとひとつひとつ突きつけられることは、それはそのまま、あの青年の存在をひとつひとつ否定することだ。奪われ、死にかけた仲間を前にして言うことはできなかったが、鈍い痛みがアルの胸にはあった。


 徐々にわかってきた。ホムロルルが森に入ってから空へ飛び立ったのは、近くなって土地神の気配を感じ取ったからだろう。アルが殴られて、目を覚まし、ラングとツカサだったものを追いかけた時も空に居たのは、五十ロートルという距離をアルだけではなく、作戦を決行していた奴らにも伝えていたからだ。

 全てにおいて蚊帳の外(豆の殻)だ。段々と苛立ってきた。ツカサがそっと声を掛けてきた。


「アル、アルが信じていたとおりに動いてくれたから、成功したんだよ。怪我は予想外だったけど」


 シュンを殺気で体から追い出す時、アルがそこに居れば次はアルの肉体が狙われた。だからアルを足止めしなくてはならなかった。かといって、アルから離れすぎれば【時失いの石】の範囲から出てしまうため、これは絶妙な追いかけっこであり駆け引きだった。

 最大のポイントは、ラングという裏切りがあったとしても、アルという絶対的に信じてくれる人がいたからこそ、最後までシュンはツカサであろうとしたという点だ。被った仮面は最後、本人が滲み出てしまっていたが、様々な意味で計画通りだった。

 しかし、想定外だったのはラングが考えている腕力以上のものをヴァーレクスの肉体が有していたことだ。軽く振ったつもりが、当たり所が悪ければ、の一撃になってしまっていた。アルが無事だったことはただただ幸運だった。

 アルは大きく息を吸い、体から力を抜いた。


「わかった、まぁ、俺も自分の役回りは理解してる。な? オルファネウル」


 シィィ、と軽く肩を竦めるような気配を感じ、アルはツカサと笑い合った。


「じゃあ、ラングとヴァーレクスを元に戻して、とにかく、ご飯にしようか。セルクス、起きて」


 牡鹿に寄り掛かって眠っている少年の肩を揺らして起こすツカサの背中を見ながら、アルはポーチから取り出した平たい鉄の板を握りしめていた。


 戻すのは一瞬だった。目を覚ました少年はヴァーレクスとツカサに触れ、横笛を創り出すと柔らかい音をひとつ吹いた。座っていたラングとヴァーレクスが一瞬かくりと首を揺らし、違う音が響いた後、ゆっくりと顔を上げた。

 ヴァーレクスは首筋を撫でて盛大な溜息をつき、ラングはシールドの位置を直した。


「これでよいだろう」

「ありがとう、セルクス」

「構わんよ。しかしよくぞ耐えたものだ、ようやく取り戻したな」

「まずはひとつね」


 アルはそんな会話を遠くに聞いていた。


 蹴り倒した焚火のところまで戻り、ツカサは布を敷いて毛皮を被せて座り、鍋を取り出しスープを作り始めた。焚火を直すラングの横で手際よく食事を作るその姿は()()()だった。自分の荷物なのだから何がどこにあるかをわかっていて、テキパキと塩や調味料を出して味を調えていく。オーク肉と芋などの根菜を入れたミルクスープだ。ハーブをむしって鍋に投入されるのを眺めつつ、アルは先ほど得た情報量にぐったりとして、髪を交ぜた。それに居た堪れなくなったのか、再び、そうっとツカサが声を掛けてきた。


「本当にごめんね、思った以上に時間がなくて、説明ができてなかった」


 眉尻を下げて申し訳なさそうに言われ、その背中の丸め方も記憶にある仲間のツカサで、アルは大きな深呼吸の後、伸ばした手でツカサの頭を撫でた。今日はこうしてばかりいる。少し首を竦めながらも逃げない青年の頭。戻ってきたのか、という安堵感と喜びと、ちくりとした痛みがいまだ胸にあった。全てをごっくんと吞み込んで、アルは笑った。


「おかえり、ツカサ」

「うん、ありがとう。ただいま、アル」


 何を言わないでも零れるお礼の言葉。アルは顔をくしゃりとさせて、やっぱり、ちょっとだけ、ごめんな、と顔を両手で覆った。

 あのツカサだって、いい仲間であろうとしていた。遊びも半分だっただろうが慣れない鍛冶でお守りを作るようなことをして、それを渡してくるだけの歩み寄りがあった。肉体はツカサで、中身が違ったとしても、あそこで笑い、こちらに好意を向けてきていた青年だって確かに存在していた。

 だめだ、割り切れるか、そんなもん。


「アル、いつも、信じてくれてありがとう」


 そっと肩に手を置かれ、ツカサの優しさが沁みた。本当なら、俺じゃないのに俺だと思うなんて、と怒ったっていいのだ。仲間なのに、アルにとって俺はその程度の存在なんだね、などと拗ねたっていいのだ。だのにツカサはそうは言わないし、しない、ならない。

 アルが相手を信じる性質(たち)だと知っていて、真っ直ぐに相手を見ようと、受け止めようとすると知っていて、だからこそ胸に抱えることになった言いようのない感情に寄り添おうとしてくれる。

 あぁ、ツカサだ、とアルは両手を離した。泣きたくても泣けない何かが、目を真っ赤にさせていたし鼻の奥もつんとして痛かった。それでも、最後の一押しができなくて、涙は流れなかった。


「……大丈夫だ」


 情けない顔で二ッと笑えば、ツカサも同じように笑い返してくれた。戻ってきた、【異邦の旅人】の癒し手兼最高の魔導士、心根の素直な青年、ツカサ・アルブランドーだ。アルは頬を両手で叩いて自分を締めた。

 気持ちの弔いはすべてが終わってからだ。


「それで、状況は?」

「うん、食べながら説明するよ」


 はい、と手渡されたミルクスープは優しい匂いがした。それぞれ受け取り、ラングはありがとうと言い、ヴァーレクスは無言だった。随分前に見かけたはずの男は少年になっていて、嬉しそうに両手で受け取り、いただきます、と言った後少年らしい手つきでパクパクと食べ始めた。ツカサは平たい皿に蛇用の、牡鹿にも器を差し出して労った。ホムロルルはちらちらとアルを見て様子を窺っており、ツカサは空気を読んで個別によそわなかった。アルはまだ状況についていけていなかった。

 そうしたアルの状態も嫌というほどわかっていてツカサは触れないでおいてくれた。それもまた信頼だ。いただきます、の挨拶の後、かこ、かこ、と木の器を叩く音が暫く続き、半分を食べたところでツカサが切り出した。


「【命の女神の欠片】を集めようと思うんだ。ラングのはこれから、ショウリと、トルクィーロさんに会いに首都・レワーシェ側に戻って、セルクスはこの後、俺の中である程度治ってから」

「前に見た時よりガキになってるもんな。そういや、加護がちゃんと揃ったのに扉っぽいもんは開かないな?」

「トリニク様が教えてやらぁ」


 アルにじろりと睨まれて視線を逸らしながら、ホムロルルはとことことアルに近寄り、そっと鉤爪でブーツを踏み、胡坐をかいた足のところへ座り込んだ。気まずいながら、許してくれよ、と態度で言っており、アルは器を置いてホムロルルを両手で包んだ。仲直りだ。ツカサがホッと笑っていた。


「で、トリニク、どういうことだよ?」

「ピェー! トリニクって言っていいのはオレ様だけだってんだよ!」


 あっという間に調子を取り戻し、トリニクが羽ばたいて羽毛が飛び散る。ツカサはそっと鍋に魔法障壁を張って羽毛が混入するのを防いでいた。あぁ、そう、この感じだ、とツカサは自分の手を眺めて嬉しそうにしていた。それからひょいとマール・ネルを取り出してラングに渡していた。アルの横に置かれたオルファネウルが嬉しそうに名を呼び、マール・ネルも笑い返すような気配がしていた。随分とあっさりした再会だったが、神器兄妹はそんな感じでいいらしい。

 会話言語はリガーヴァルのもので行われた。


「オレ様も黒い命の泉に行くまで知らなかったけどよ、そのぅ、扉がよぉ、あそこにあんだよ。泉の底だ」


 沈黙。


 ツカサも、アルも、ツカサの隣でスープを食べていたラングはゆっくりとスプーンを置き、ヴァーレクスはただ一人興味がなさそうに鍋からおかわりをよそっていた。おい、肉を取りすぎだぞ、と今声を掛けるのは具合が悪い。アルはホムロルルを両手でぎゅっと掴んで持ち上げて尋ねた。


「まさか、開いてはいないよな?」

「開いちゃいねぇ、加護を持ったお前らの距離があと少し近けりゃ開いてた、危なかったぜ」


 思わず顔を見合わせた。黒い命の泉となっていたあれらが開いた道を通って別の世界へ広がってしまったのなら、ここと同じことになる。その先がもしもラングの世界ならば、戻したところで意味がなくなってしまう。


「あっぶねぇ……!」

「待って、ということは、あれをどうにかしないと移動もできないってことだよね!?」

『戦う理由ができたな』


 ラングがはっきりと言った。


『帰り道を邪魔するものを、排除しなくてはならない』


 事実、そうなのだが、あぁ。アルは心底嫌そうな声で呟いた。


「雨を逃れて竜の口、だな」




いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


「一難去ってまた一難」とでも言おうか。


1巻書影

挿絵(By みてみん)

2巻書影

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
アルは優しいからしんどい役も多くて愛おしいなぁ!
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